第38話 それでも

 「…この生徒会長という座は、そういう事に手を染めてまで

就くような場所なんですか?先生方は?まさか…。」

「そう。何名かの先生方は抱き込んでおりますの。この学園と言えど

指導者までは、粒揃つぶぞろいとはいきませんものね。簡単なものでしたわ。」

『抱き込む』とは言っているが、相手は大人。それでも難なくやって

のける所は、流石は名家の令嬢と言ったものか。…感心してる場合じゃない。

 「それに、このような方法を取らなければ勝てないという訳では

ありませんわ。私の能力を持ってすれば、この選挙は勝てます。しかし、

僅差きんさによる勝利など望んでいません。それでは、『次は勝てる』とか

『また次回出れば良い』と言うような、わずかながらの希望を持った方々が

また私に挑んで参りますわ。敗北の事実を刻み付け、生徒会長の座は

自分には届かないものだ、と見せ付ける必要があります。このような

重大な任に、軽んじた方々が就かない為にも。…お分かり頂けたかしら?」

 最もな事ばかりだ。恐らくは親からそういう思考に育て上げられたのだろう。

どこの生徒会長であろうと、まず頭の軽い奴やいい加減な者では就けない。

私も、その器に見合う様にしっかりと備えた上で、中学で生徒会長を務めた。

ここでは、簡単に言えば『学校を支配出来る』という副賞がある。並大抵の

人物がなれるものでは無いのは承知の上だ。でも、そんな汚い手を使って

良いのなら、私にもまだチャンスがあるんじゃない?

 「ええ、分かりました。驚きましたよ。あなたもしっかりと、私達

みたいに欲望のある人物なんですね。じゃあ、私にだってなれるはず。」

「…どういう意味かしら。」

「だって、そうじゃないですか!それらしい事を言いつつも、要は自分で

この学校をコントロールしたいんでしょ?馬鹿に任せるのが嫌だから!

普通の人なら、そんな大それたことをしてまで生徒会長になんか

なりませんよ!続いてその座に居るのが証拠ですね。他の誰にも

渡したくない、って言ってるのと一緒ですよ?」

生徒会長の顔から、みるみる華麗さが消えていった。

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