ヤリ〇ン高校教師と元教え子

第1話 依頼者との面談

「社長、例の氷姫、今回もダメでした」


 村田さんは、社長室に入るなり、そう声をあげました。

 かなりお疲れの様子です。


「そう。 フィードバックは?」


「白紙です」


「うへ。また白紙」


 氷姫と呼ばれる女性会員さんは、当サロンでも一番人気の会員さん。

 若くて美人の女子大生。

 両親ともに国家公務員。

 そんな彼女は自然と男性会員からのアプローチも多いです。


 しかし、マッチングしてお見合いしても、なかなか交際へと発展しない。


「今回なんて、28歳、超爽やか系イケメン弁護士ですよ。専門は企業法務。国立大出身。年収こそ800万代ですが将来的にはかなりの優良株なのに」


「お見合いまで漕ぎつけただけでもよく頑張りましたよ。次の有料物件お願いします」


「フィードバックももらえないんじゃあ、次の優良物件見繕うのも大変なんですよね。せめて、何が気に食わなかったのぐらい教えて欲しいんですよ」


 村田さんはベテランのアドバイザーです。

 その村田さんを疲弊させる氷姫、恐るべしです。


「これまでにマッチングした男性のプロフィールや、フィードバックから、なんとか割り出してくださいよー」


 村田さんは「ふん」と鼻から息を吐いて、社長室を出て行きました。


 リナから、LINEが入ったのは、そんな時です。

 一回目の突撃から一ヶ月と経たない頃でした。


『依頼者とアポ取れました。急ですが、明日福岡入りします。その足でそのまま面談となります。今回私の都合で申し訳ないんですが、スケジュールかなりタイトになりそうです』


『わかりました。明日でしたら、20時以降なら動けるんですが、いかがですか?』


『OKです。20時半に福岡空港辺りでどうですか?』


『大丈夫です』


 この時は全く気付かなかったんです。

 今回の依頼と、結婚する気が全く見られない女性会員氷姫との接点に。


 その日、仕事を終え、リナが指定した待ち合わせ場所、福岡空港内のタリーズコーヒーに向かいました。


 少し早く着きましたが、リナは既に到着していて、依頼者が着くまでの間、少し打ち合わせをする事になりました。


 テーブル席の対面に座ると

「概要だけ説明しますね」


 そう言いながら、小ぶりなノートPCを広げて、画面をこちらにも見えるように、リナは僕の隣の席に移動しました。


「依頼者さんは、26才妻。専業主婦。子供なし」


「ターゲットは旦那さん?」


「そう。旦那さんは、高校教師で35才です」


「けっこう、年齢差ありますね」


「そうなの。元教え子だって」


「うへぇー、なるほど」


 ここに来るまで一切情報をもらってませんから、何もかもに驚きを隠せませんでした。


「旦那さんは私立高校の英語教諭。大学卒業後、1年間のイギリス留学を経て、自分が在籍していた高校の先生になったそうです」


「ほう」


「交際は、在学中からで奥さんの大学卒業を待って、結婚という形ですね」


「在学中から交際? 禁断の恋じゃないですか! どっちからだったんでしょうね?」


「奥さんから、猛烈アプローチかけたそうですよ。旦那さんは割と見た目もそれなりにイケてるらしくて、女子生徒からはモテモテだったんだとか」


「あー、いますよね。そういう先生」


「で、不倫相手もどうやら元教え子なんじゃないかと、奥さんは睨んでるみたい」


「まさか、現教え子って事はないですよね」


「さぁ? それはまだわかってないですし、元教え子っていうのも、まだ確定ではありません。それも一人ではなく複数いるらしいですよ」


「複数? じゃあ、不倫っていうより遊びに近いのかな」


「LINEのやり取りから、明日、その中の1人と会うんじゃないかと推測したようです」


「じゃあ、そこに凸りますか?」


「そうですね。それが手っ取り早いと思う」


「奥さん、なんでLINE見れるんですか?」


「パスワード知ってるらしいですよ」


「え? 旦那さんはその事実を知らないんですか?」


「そういう事。男性ってめんどくさがりだし単純だから、111111とか555555とかにしてるでしょ。あれ、奥さんにはすぐバレますよ。神田さんも気を付けた方がいいですよ」


「僕も000000にしてます」


「それ、完全に奥さんにバレてると思いますよ」


 僕は、早速スマホのパスワードを111111に変更しておきました。


 変更し終わった頃

「あ! あの女性っぽい」


 スラっとした髪の長い、清楚そうな女性が入口に立って店内を見回していました。

 リナが立ち上がりました。

 僕も倣って、立ち上がります。


「アースカラーのトップスに白のタイトスカートって言ってたから、きっとあれだ」


 ビンゴだったようで、依頼者さんは少し笑みを湛えて会釈しながら、こちらに歩みを早めました。


「すみません、遅くなってしまって。車が混んでて」


「大丈夫ですよ。私達は問題ありません」


 お互いに、定型文のような自己紹介を交わし、腰掛けます。


「お名前は、しほさんとお呼びしてよろしかったですか?」


「はい。しほで大丈夫です」


「しほさんからメールをいただいたのは3日ぐらい前なんですけど、その後、何か進展はありましたか? 新たな証拠とか」


「はい」


 しほさんはそう言って、スマホを操作しました。


「今朝、主人の車の中で、こんな物を見つけてしまったんです」


 スマホの画面に映ったものは、後部座席の隅っこに落ちている、使用済みの避妊具でした。

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