第2話 証拠がボロボロ出てきます。胸糞注意!

 かなり生々しい画像でしたが、リナは顔色一つ変えず、食い入るようにその写真を見ています。


「ちょっとよくわからないんですけど、新しい物だと思いますか?」


 と、僕に訊いてきました。


「新しいと思いますよ」

 なんなら使い立てほやほや。


「しほさんは、いつも車に乗る時は後部座席ですか?」


「いえ。私は助手席か運転席です。そもそもこの車は2ドアなので後部座席に人を乗せる事があまりないんです」


「どうしてこれに気付いたんですか?」


「今夜は主人が保護者会でお酒が入るという事で、朝、私が職場まで送ったんですよね。帰りはタクシーで帰って来ると言う事で。運転席と助手席の間のボックスあるじゃないですか」


「コンソールボックスですね」


「あ、そう! それそれ! コンソールボックスの上にスマホを置いてたんですけど、ブレーキを踏んだ時、うっかり強く踏み込んでしまって、スマホが後部座席の方に滑ったんです」


「なるほど」


 運転中に拾うのは危険なので、マンションの駐車場に入ってから拾おうと、助手席のシートを上げたら、これがあったんです」


「限りなく黒ですよね?」


 僕は、リナを顔を見ました。


「真っ黒ですね。けど、まだ証拠が足りないです。これだけだとなんとでも言い逃れできますから」


「車種はなんですか?」


「BMWです」


「ドライブレコーダーついてますよね?」


「はい、付いてます。あ!」


 しほさんは、何か閃いた様子で、口元を手で覆いました。


「映ってるかも?」


「そうですね。映像は無理ですけど、車内の音声は拾います。あと、もしかしたら、乗り降りとか、落ちあう時とか、別れた時とかに、浮気相手の姿が映ってるかもしれません。エンジン止めててもドラレコは作動してるので」


 しほさんはスマホを取り出しました。


「全然思いつきませんでした。アプリで見れます」


 しかし、それは決定的な証拠となってしまうかもしれません。


 法的な証拠としては音声だけでは薄いかもしれませんが、しほさんはこれで確信するでしょう。


「ちょっと待ってください」


 声を上げたのはリナです。


「しほさん、大丈夫ですか? もし、旦那さんの浮気が確定した場合、どうされるか決めてらっしゃいますか?」


 しほさんは、しばし黙り込み、俯きました。


「離婚は考えてません」


「黒だったとしても?」


「……はい。お義母さんは体が弱いんですよ。私がいないと病院に連れて行ったり、何かあった時に、主人では対応できません」


「旦那さんのお母さんですよね?」


「そうです。でも、すごく良くしてもらったんです。

 義母は本当にいい人で、何もできない私にいろんな事を教えてくれました。

 私、子宮内膜症で、子供が出来にくい体質なんですよ。それでも嫌な顔一つせず結婚を許してくれて……。主人は一人息子なのに。

 きっと孫の顔だって見たかったはずなのに。

 これまで主人が連れて来た女性の中であなたが一番いい。

 あなたがうちの息子にお嫁さんになってくれんねって言ってくれて。

 凄く嬉しかったんです。

 義母のために離婚はしませんが、主人には改心してほしいですし……謝ってもらいたいです」


 リナはしほさんの肩をさすりました。


「わかりました。二度と浮気なんてできないように、熱いお灸をすえましょう!」


 しほさんは、ぽろりと涙を流しました。


 証拠映像を撮るため、僕は撮影を開始しました。


 しほさんはしばし、スマホを操作して「あ! これ」と声を上げました。


 こちらに差し出したスマホの映像にカメラを向けます。


 スマホのスクリーンが映しだしている景色は見覚えがある。


「これ、箱崎ふ頭ですね」


「ああ、そうかも」


「さすが地元。これだけでわかるんですね」


 リナが僕としほさんの顔に視線を行き来させます。


 以下、重要な部分だけの音声を文字起こしした物です。


 夫「けっこう涼しいね」


 女「うん、ちょっと寒い」


 夫「窓閉める?」


 女「うん、ありがとう」


 夫「いいよ、じゃあチュウして」


 女「どこに?」


 夫「ここに」


 多分、ヒワイな場所。


 女「やだぁ」

 大げさに喜ぶ女さん。


 女「ねぇ、奥さんと別れるんだよね?」


 夫「もう~、何回言わせるんだよ。いいから早くフ〇ラして」


 女「やだ。別れるって言ってよ。私と結婚するって言ってよ」


 夫「嫁とは別れる。そしてるいと結婚する」


 女「絶対ね」


 夫「うん。絶対。だから早く」


 チュパ、チュルチュルチュ……


「やだ、キモい」

 しほさんは思わず声をあげてスマホを放り出しました。

「聞きたくない、見たくない」


 目をぎゅっとつぶって、両手で耳を塞ぎました。


 リナはしほさんの隣に移動し、胸を貸しています。

 しほさんは嗚咽してますが、僕は撮影を続けます。


 夫「るい、可愛いよ。気持ちイイ。上手だね。誰のお陰?」


 女「んふふふふ」


 こんな現実を知ってもなお、しほさんは夫との再生を望むでしょうか?


 証拠はまだありました。

 ドラレコ映像もこれだけではなく、「るい」「ありさ」「あんな」「まな」という女性の名前を呼びながら、夫が情事に至る音声が録音されていました。


 なぜ車? と思ったのですが、しほさんの証言によると夫はベッドより外の方がもえるらしく、交際中はよく屋外でしちゃう事も多かったそう。


 この後、夫のPCを調べたしほさんはとんでもない物を見つけてしまいます。


 それは職場である学校での映像でした。


 長くなるので、次話をお待ちください。

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