第4話 突撃&ザマァ①
リナは、間男の素性についても既に調査済みでした。
県内の私大に通う大学生、二十歳。
バイト先であるファミレスで、田所さんの妻と出会ったのだそう。
突撃時、嘘を吐かれる可能性もあるため、事前に全て調べてから。
それがリナのセオリーなのだそう。
しかも、この間男。彼女持ちでした。
彼女は同じ大学に通うサークル仲間。
なかなかの美人らしい。
「動きがありました。奥さん、降りてきましたね」
「不倫妻降臨ですね」
「神田さん、そういう冗談はやめてください」
「あ、すいません」
僕は少しでも、田所さんの地に堕ちたテンションを上げられたらと思ったのですが、怒られてしまいました。
運転席にはリナ。
助手席に僕。
田所さんは後部座席です。
僕は、ハンディを構えて録画開始しました。
リナは田所さんにピンマイクを付けてあげました。
「僕が仕事から帰って来る時、あんな風に下に降りて待ってた事なんてなかったのに」
田所さんの悲しそうな声をマイクが拾います。
「今、タクシーが奥さんの前で止まりましたね」
リナはもう配信者の顔になっています。
「降りて来ました。あの男で間違いないですね」
前回と同じように、奥さんは嬉しそうに男の腕にしがみついて、マンションのエントランスを入って行きました。
グズンと鼻をすする音が後部座席から聞こえます。
リナのスマホ画像で室内のカメラがとらえた映像をモニタリング。
『お泊りの準備して来た?』
奥さんの弾んだ声。
『うん。パンツ2枚持って来た』
『は? なんで?』
『一応念のため』
楽しそうに大笑いする妻。
『ごはんは?』
『まだ食べてない。お腹空いた』
『おでん作ったの。食べる?』
『うん。食べる』
セコイ事いいますけど、これらの食材の金出してるの旦那さんですからね。
『大丈夫? 本当に旦那帰って来ない?』
『大丈夫大丈夫、絶対帰って来ない。大阪に出張って言ってたから』
奥さんはキッチンで鍋に火を入れています。
その後ろから、間男が奥さんを抱きすくめる。
ムラムラが止まらない様子ですね。
『どうしたの? ちょっと待って』
拒絶するでもなく、甘くいなしてる感じです。
『ねぇ、ちゅうして、ちゅう』
それに喜んで応える奥さん。
本当にキモいですね。
間男の手が、奥さんの胸元に侵入した時です。
「行きましょうか」
リナの緊迫した声が車内に響きました。
突撃です!!
「はい。行きましょう、田所さん」
田所さんは髪を掻きむしっていて、僕の渾身のスタイリングはぐちゃぐちゃになっていました。
僕の記念すべき初突撃。
緊張で、う〇こ漏らしそうでした。
走ってマンションのエントランスをくぐり、エレベーターで目的の階へ。
そっと玄関まで近づいて、田所さんは震える手で開錠しました。
カチャ。
ドアを開けると、妻の喘ぎ声が玄関まで聞こえていました。
田所さんは、急にスイッチが入ったように、キッチンまで突進しましたね。
「何やってんだお前」
これまでの田所さんからは想像もつかない、怒声でした。
「何? あなた達、なんなの?」
妻は案外冷静でしたね。
知らん顔しておけば、言い逃れ出来るとでも思っていたんでしょうか。
僕たちに対して、犯罪者でも見るような視線を向けてきました。
「今、何されてたんですか? 田所さんの奥様ですよね?」
リナは声を震わせる事もなく妻を詰めます。
「別に、おでん温めてただけですけど」
「誰に食べさせるおでんですか?」
「いや、あの、彼と一緒に、食べようと思ってただけですけど。それが何か?」
間男は茫然を立ち尽くしています。
明らかに『まずい』という表情で顔を引きつらせていました。
「誰? その男」
田所さんです。
「同じ職場の……」
「なんで同じ職場の男が、今ここにいるの?」
「外で会ったの。たまたまだよね」
妻は男の顔を見ますが、男は無言です。
「通りかかった男を家に上げるのかよ!」
「通りかかった男って、同じ職場の子だって言ってるじゃん。そんな変な言い方しないで」
ワナワナと言葉を失う田所さんに変わって、リナが妻を問い詰めます。
「今、ここで何されてました? おでん温めてただけじゃないですよね?」
「おでん、温めてただです」
「いや、認めた方がいいですよ。こっちは全部わかっててここに来てますから」
「大体、あなた、なんなんですか? 誰なの? なんであなたにそんな事言われなきゃいけないんですか? 勝手に人の家に上がり込んで来て」
完全に逆切れですね。
「ここ、旦那さん名義ですよね。旦那さん名義の家に、なんで男連れ込んでるんですか? あなたいくつ?」
リナのターゲットは妻から男に変わりました。
「あ、あの、二十歳です」
「なんでここにいるんだよ!」
黙ってられない田所さんは、男の胸倉をつかみます。
「え。あの、たまたま……」
僕はカメラを回しながら、田所さんを制止。
手を出してしまったら負けです。
「それ、嘘ってわかってるんで、認めて謝罪したらどうですか?」
リナは、スマホを操作し、二人の前で突撃前の動画を再生した。
「入って来た時、奥さんの喘ぎ声も聞こえてたんですよ。やってましたよね?」
「はぁ? ちょっと、そのカメラ、なんなんですか? 止めてください。撮影やめてください」
「やめません」
僕も応戦します。
「なんで、撮ってんの? あんた誰よ?」
「僕は田所さんの友達です。これは証拠保全のための撮影です。旦那さんに謝ったらどうですか? お腹の赤ちゃんに恥ずかしいと思わないんですか?」
「あんたに関係ないでしょう」
「あります」
「どう関係あるのよ」
「だから、旦那さんと友達だって言ってるでしょ! 友人として不倫現場の証拠保全を手伝ってるんです。お願いだから、旦那さんに謝ってください。深夜まで家族のために働いてる旦那さんに申し訳ないって思わないんですか? 母親として恥ずかしいと思わないんですか?」
すると、奥さんは何故か泣き出しました。
「だって、だって、寂しかったんだもーーーーーーん」
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