第2話 調査

 調査結果をまとめた動画が、リナからメールで送られてきたのは面談の日から3日後でした。


 映像は取りっぱなしでモザイク処理はされていません。

 それが、リナのユーチューブチャンネルの素材となるのだそう。


 以下、動画の音声を文字起こしした物です。

 音声はギリギリマイクが拾う程度のひそめた声でした。


 ・・・・・・・


 けっこう静かな、住宅街と言った感じです。

 現在、時刻は20時。夜の8時ですね。


 依頼者さんがお仕事に行かれてる日中は、特に怪しい動きはありませんでした。


 あそこが依頼者さんのご自宅です。

 裏から見たら、一応電気が点いていて、誰か家にいらっしゃるようでしたね。

 時間帯的にまだ依頼者であるご主人さんもいらっしゃいますね。


 あ、玄関ドアが開きました。

 依頼者さんですね。


 これから。夜のバイトに行かれる所のようです。


 この後、動きがあるかもしれません。

 しばらく、張り込みを続けます。

 ・・・・・・・・・・・・・・・


 ここで一旦途切れて、次の動画です。


 ・・・・・・・・・・・・・


 今、動きがありましたので、緊急で動画撮ってます。

 マンションから、奥さん出てきました。

 紺のワンピースですね。

 街灯の下です。

 キョロキョロしてますね。

 お腹けっこう目立ってますね。

 どこからどう見ても妊婦さんと言った感じです。

 もし、これ浮気だとしたら、妊娠してるとわかってて、男性の方も付き合ってるって事ですよね。


 どうか間違いであって欲しいですね。


 どこに行くでもなく、なんかそわそわした感じで、行き交う車に視線を走らせてますね。


 車で来る誰かを待ってるんでしょうか?


 あ、タクシー!

 タクシーが止まりました。


 中から、男性ですね。

 白いパーカーの。

 けっこう身長高そうですね。

 え? 若い?

 若くない?

 けっこう、若そう。


 奥さんは嬉しそうな表情で、男性と腕を絡めて――。

 そして、マンションに入って行きました。


 そして、玄関から――。


 入りました! 今、玄関から、奥さんに引っ張られるようにして、男性が部屋に入って行きました。


 けっこう、堂々としてましたね。

 なんか慣れてる感じ?

 しましたよね。


 えー、残念ながら……、ご主人の不在時に、奥様は若い男性を家に上げていると。

 そこまでは確定しました。


 まぁ、浮気の証拠としては十分なんですが、まだ言い逃れできます。


 なんとでも言いくるめられちゃうので、確定させるためにですね、実はご自宅内に、モニタリングカメラを設置しています。


 これは、依頼者であるご主人さん自ら設置してもらいました。

 私がやっちゃうと、犯罪になってしまうので、ご自宅の所有者であるご主人さん自らの手で設置してもらってます。


 リビングと、寝室。

 それぞれ1つずつ設置してますので、モニタリングしていこうと思います。


 ・・・・・・・・・・・・・


 そして、映像は室内映像に変わります。


 ダイニングに向かい合わせで座って、男がレジ袋から缶ビールを取り出しました。

 映像だけ見ると、にこやかで楽しそうな団らんです。

 僕はもう、見てるだけで胸糞が悪すぎて、旦那さんと直接会ってるせいでしょうか。

 今すぐ突撃したい気分でした。


 テーブルには、奥さんが作ったと思われる、小皿料理が並んでます。


 それを当たり前のようにつつく若い男。

 残念ながら、見た目だけなら、田所さんよりイケメンと言わざるを得ません。

 坊主に近い短髪で、爽やかです。


 それにしても、かなり若い!

 一体、この男、いくつだ? そんな疑問ばかりが浮かびます。


 あまりにも生々しいので、小説風にこの状況をお届けしましょう。


 奥さんは美奈子、男は誠とします。


「バイトどうだった?」

 美奈子は誠にビールを注ぎながら、微笑んだ。


「今日は休んだ。課題がたまってたし、美奈ちゃんと会いたかったし。うへへへ」


「えへへへ。あたしも誠に逢いたかった。早く逢いたかった」


「だから、早く来たじゃん。旦那は何時に帰って来る?」


「朝5時ぐらい。いつもその時間だから大丈夫よ」


「じゃあ、ゆっくりできるね」


「うん。まぁ、飲んで飲んで」

 と缶を差し向ける。


 美奈子は両肘をテーブルに突き、顎を乗せ、嬉しそうに誠を見つめる。

 誠は照れながらも、ビールをあおり、箸がすすむ。


「美味しいね。これ」


「そう? よかった」


「美奈ちゃんはさぁ、なんで旦那さんと結婚したの?」


「ん? やな事訊くね」


「やだった? ごめんね。でも気になるからさ」


「うーん。真面目に働いてくれるかなと思って。浮気もしないし」


「美奈ちゃんはしてるけど?」


「これは浮気じゃないもん。本気だもん。恋だもん」


「俺の方が好き?」


「100倍好き!」


 美奈子は誠に向かって手を伸ばした。

 その手を掴んだ誠は。美奈子を引き寄せながら立ち上がる。


「美奈ちゃん、好きだよ」


「私もよ、誠」


 そして、二人の唇は吸い寄せられ、重なった。

 その行為は次第にエスカレートしていき、誠の手は美奈子のスカートの裾をまくり上げる。

 呼吸を乱す美奈子。


 映像はそこで途切れました。

 これで十分との判断でしょう。


 再び、リナがカットインしました。


『確定ですね。残念ながら、奥さんは黒でした。真っ黒ですね』


 動画はそこで終わってました。

 この映像を、田所さんに共有して、後は仕上げの突撃&ザマァです。

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