第2話 リナとご対面

【アミュプラザ博多】の入り口前。

 それがリナが指定した待ち合わせ場所でした。


 都合は僕に合わせるという事で、初めてDMでやり取りした日の3日後。

 5月下旬の火曜日でしたね。

 リナに会いました。


 なぜ平日かというと、妻には知られたくなかったからです。

 休日だと詮索されかねない。

 別にやましい事はないんですが、やっぱり女性としてはイヤじゃないですか?

 作家として食ってるならまだしも、趣味程度で一銭も稼いでない道楽ともいえる創作活動のために、他の女性と夫が会うなんて。


 平日だと、僕は割と自由が利く身ですから、平日の方が都合がよかったんですよね。


 リナは写真通り、派手な顔つきでしたが服装は至ってシンプル。

 リクルート仕様のパンツスーツでした。


 髪はきっちりまとめ上げていて、黒いビジネスバッグを持っていました。

 いかにもバリキャリって風貌ですね。


 でもどこか、普通の人とは違う。

 高級そうなカルティエの時計のせいなのか、堂々とした態度がそう思わせたのかはわかりませんが、普通の女の子じゃないなって思いました。


「神楽耶さんですか?」

 僕も一応、顔写送ってたので、向こうから声をかけてきました。


「はい。神楽耶です。リナさんですか?」


「はい、リナです。神楽耶さん、すぐわかりましたー」


 けっこう気さくな笑顔を見せてくれました。

 僕は内心、ドキドキだったんですけど。


「改めまして、日吉ひよしリナと申します」


 そう言って、ビジネスシーンでよくある感じで、名刺をくれました。


 僕は少し躊躇しました。


 本名は名乗りたくないじゃないですか。


「すいません。僕、名刺なくて」


「全然いいです! 神楽耶さんとお呼びしていいんですよね?」


「はい、神楽耶でお願いします」

 名刺には『ヒヨシ・リサーチ&コンサルティング』という社名と、オフィスの住所が記されています。

 詳細は伏せますが、横浜でした。


「けっこう、優しい感じの方なんですね。体格はよさそうですけど」

 僕を上から下まで眺めてそんなことを言いました。


 体格とか関係あるのかな?

 僕、これから何をさせられるんだろう?

 って、本当にドキドキビクビクしてました。


 アミュプラザの二階にちょうどスタバ・ティーがオープンしたばっかりで、僕たちは腰を落ち着かせて話せる場所を求めて、エスカレーターに乗ったのです。


 エスカレーターに運ばれながら、なんかとんでもない事になっちゃったなぁ、なんて思ってました。


 オーソドックスで当たり障りないアイスティを注文して、席に着きます。

 因みに、ドリンク代はリナが奢ってくれました。


「さてさて、ドキドキしてらっしゃるでしょう?」

 いたずらっ子みたいな笑顔を僕に向けてきました。


「まぁ、そうですね。あはは~」


「早速、本題に入りましょうか?」


「お願いします」


「DMでお話した通り、調査会社の代表兼、調査員なんです、私」


「はい。わかります」


「主に浮気調査ですが、その後のケアも請け負ってるんですよ」


「ケアですか?」


「はい。ご存知ですか? 浮気って心の殺人なんです」


 その目は真剣で鋭かった。


「まぁ、そうですよね。一応僕も経験した事あるのでわかりますよ」


「いわゆる、復讐……」


「はぁ、はい」


「正攻法ではありますが、依頼者ができるだけ救われる形での収束をお手伝いしてるんです」


「え? まさか復讐屋的な?」


「まぁ、そう思ってもらって差し支えないかと」


 そう。リナは調査員であると同時に復讐屋だったのです。

 実際に、いるというのは何となく知ってたんですよね。

 けど、こんな形でお目にかかれるとは思ってなくて、その時はめっちゃテンション上がりました。


「それで、神楽耶さんにネタを提供する代わりにと言ったらなんなんですが、お手伝いして欲しい事があるんですよ」


「はい。なんでしょう?」


「カメラマンになってもらえませんか?」


 リナは依頼があれば、日本全国どこにでも飛んで行って浮気調査から解決までをお手伝いするユーチューバーだったんです。

 依頼人から依頼料をもらわない代わりに、動画にする。

 時には手の込んだザマァも請け負うのだそう。

 コンテンツとしてはなかなかおいしいらしい。

 前話の『私の顔に見覚えありませんか?』はそういう意味だったのか、と腑に落ちました。


 交通費を浮かせるため、各地に専属のカメラマンを雇ってるらしく、つい最近、福岡のカメラマンがやめたのだそう。


 そしてそのカメラマンとやらは、男じゃないとダメなんだそうです。


 NTR現場突入時は、かなり荒れるので、相手の男性が暴れたりするのを制圧できるほどの体力が必要らしい。


 できれば威圧的な男が適任なんだとか。


「僕で大丈夫でしょうか?」


「まぁ、やってみましょうよ」


 って事で、僕は、リナの専属カメラマンを請け負う事になったのです。

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