第七章:束の間の安息/06
「むにゃ……おはよー」
「ふわーあ……よう琴音、朝からひでえ様子だな」
「私どーしても朝は弱いんだよぉ……お兄ちゃんも知ってるくせにぃ」
「……はい、お二人ともおはようございます」
それから数時間後、朝を迎えた頃に二人は目を覚ましていた。
ぐっすり寝た琴音と、戒斗までもが寝ぼけた顔で、起きていた遥に出迎えられる。
「先頃マリアさんが様子を見に来られた時、食べ物も持ってきてくださったので……朝食はそれにしましょうか」
「なんだ、アイツ来てたのか?」
「ほんの十五分ほど前に帰られましたけどね。すごく珍しがっていましたよ? 自分が来ても戒斗が気付かず眠られていたことを」
「あー……かもな。マリアの気配で起きなかったのなんざ、姉ちゃんが居たとき以来かもしれん」
「んー、私もぜんっぜん気付かなかったなぁ」
「お前は誰が来たって起きねえだろうが」
「お兄ちゃんってばひどいなぁ……その通りだけど」
「ふふっ……では、準備してきますね」
寝ぼけた二人のやり取りに微笑みつつ、席を立った遥は手早く朝食の準備を整えてくれた。
といっても、レジ袋の中に入った弁当を並べるだけだ。ここに来る前にコンビニに立ち寄ったマリアが買ってきてくれた、コンビニ弁当が三人分。それが今日の戒斗たちの朝食だ。
一応セーフハウスに電子レンジがあったから、温めることはできた。割り箸も用意して、昨日の夜と同じように三人で食卓を囲む。
琴音は制服、戒斗はロングコート、そして遥はマフラー靡く忍者装束。
こんな格好の三人で食卓を囲むというのも、なんだか奇妙な光景だ。とはいえ今は緊急時、格好までイチイチ気にしてはいられない。
「で、マリアはなんだって?」
箸を動かしながら、戒斗が遥に問う。
「裏を洗ってみたところ、やはりミディエイターに繋がる有力な情報は何も得られなかったそうです」
「ま、だろうな」
「ただ、彼らを雇い入れたルートはおぼろげながら判明したようです。そこから逆算して、残った敵の数がそう多くないことも分かったと仰っていました」
「具体的な数は言ってたか?」
「少なく見積もって十五人、多くて二〇人だそうです。あの男……マティアス・ベンディクスを除いて、ですが」
「十分多いじゃねえか……」
「私と貴方を相手取るなら、この程度では安く見積もり過ぎだとも仰っていました。……貴方はともかく、私も随分と高く買って頂けているんですね、マリアさんに」
「ま、納得だわな。俺なんかより遥の方がよっぽど強いんだ」
「ご謙遜を。――それと、頼まれていたものも用意しておいた、と
「おいおいマジかよ、もう手に入ったって?」
「注文通り、回転式グレネードランチャーのアーウェン37だそうです。下の車のトランクに入れてあるそうですよ。……あの一誠って方が、すぐに用意してくださったそうです」
「流石だな。こりゃあアイツに借りが出来ちまったな……」
「戒斗のファンだそうですね、あの一誠って方は」
「持つべきものは友ってことだ」
戒斗が言うと、遥は箸を片手に「ですね」と小さく笑う。
「んでさー二人とも、これからどうすんの?」
その横で、やっぱり箸を動かしながら琴音が首を傾げる。
遥はそれに「ふむ……」と小さく唸り。
「……現状は、とにかく時間が欲しいとマリアさんは仰っていました。こちらから攻勢に出るのが一番ですが、その為に奴らの居場所を突き止めなければならない……と」
「ま、だろうな。とっととあのサイボーグ野郎どもを一網打尽にしたいのは山々だが、肝心の根城が分からなきゃどうにもならねえよ」
「んー、そっかあ。とりあえず今日は学園サボってここに引きこもる、ってことでいい?」
「そうですね、特に琴音さんはここから動かないのが一番かと」
「おっけー、分かった。――――ごちそうさまー」
食べ終わった容器にコトンと割り箸を放り込み、蓋を閉める琴音。
それとタイミングを同じくして、二人もコンビニ弁当を完食。ちょっと貧相だが今日の朝食はこれでおしまいだ。腹が減っては戦は出来ぬ、コンビニ弁当だけでも食べないよりは万倍いい。
「んー、じゃあ今日は一日ヒマになっちゃうかぁ……」
と言いつつ、琴音はテレビのリモコンを取ろうと窓際の方まで歩いていく。
ここは元々喫茶店だったということもあり、壁の高いところに液晶テレビがぶら下がっている。店がまだ営業していた頃から使っていたようで型は古いが、映るには映るはずだ。
と、そんな壁掛けテレビを点けようと、琴音がリモコンのある窓際の席に近づいた時。
「ッ――――いけない、すぐにそこから離れてっ!」
ハッとした遥が、血相を変えて叫んだ。
「えっ――――?」
それに琴音がきょとんとした直後――バリィィン、と外からガラスを突き破って何かが飛び込んでくる。
突っ込んできたのは、大きな人影。店舗スペースに飛び込んで、砕け散ったガラスの破片を踏み締めたその影は……すぐ近くに居た琴音を、バッと後ろから捕まえてしまった。
「きゃっ!?」
「琴音っ!」
「琴音さんっ!!」
彼女の短い悲鳴が響き、二人が戦闘態勢を取った瞬間。
「――――おおっと、変に動くんじゃねェぞ?」
琴音を捕らえた大きな影が、不気味な声で二人の動きを封じる。
「てめえ、現れやがったか――――マティアス・ベンディクス!」
「よお、決着を着けに来たぜェ……
睨み付け、凄む戒斗の目の前で凶暴な笑みを見せる、奴の名は――『悪魔の右手』マティアス・ベンディクス。
最悪のタイミングで現れた、最悪の敵が――――今まさに、琴音を捕らえて離さない影の正体だった。
(第七章『束の間の安息』了)
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