第七章:束の間の安息/03
その後、いつものロングコートを羽織った私服姿に着替えた戒斗は――制服姿の琴音と、忍者装束のままな遥と一緒にテーブルを囲んでいた。
腹が減っては戦は出来ぬ、とマリアが人数分のカップラーメンを持ってきてくれていたのだ。ご丁寧に割り箸付き、お湯の方は電気ケトルがあらかじめセーフハウスに置いてあったから心配ない。
ということで、三人は減った腹を満たすべくテーブルを囲んでカップラーメンを啜っているのだった。
「あー、美味しいねこれ」
「お前のは味噌だったか」
「これ美味しいよ? 今度自分で買ってこよっと」
「……塩も意外とイケますね。戒斗のはどうですか?」
「俺のは醤油だからな、いつでも安心の味だ」
ズルズルと啜りながら、どこか間の抜けた会話を交わす三人。
その様子は、いつも学園の屋上で昼休みを過ごしている時と何も変わらない。こんな時、こんな状況でなければ、本当に和やかな会食のシーンに見えるだろう。
ちなみにこれを持ってきたマリア本人はというと、独りカウンター席で勝手に淹れたコーヒーを飲んでいる。ついでに煙草も吸おうとしていたが、今度は戒斗が「やめろ」と言って吸わせなかった。
「で、この後はどうする?」
「……ひとまず、今夜一晩はここで様子を見ましょう。明日以降のことは……明日になってから考えるべきかと」
「ってことは、明日はサボりになっちゃうかぁー」
「良いだろ別に、お前は優等生なんだから」
「そうだけどさぁー……って、言ってるような場合でもないか」
「そういうことだ」
「しかし……あれだけの規模で襲撃を仕掛けてくる相手となると、武器の不足感は否めませんね。ここに備えてある分だけでは、まだ不安に思えます」
「その辺りはマリアに用意してもらうさ。しっかし……俺の名前で脅したのが、こうも裏目に出ちまうとはな」
「ま、そう自分を責める必要はないよカイト。マトモな神経のスイーパーなら、君の名前を聞いただけで震えあがって手を引くだろうからね。まして君が居るってことは、僕がバックに居るってことだ。それでも喧嘩を売ってくるような大馬鹿だ……君の読みが甘かったのは否めないけれど、でもいずれこうなってはいたさ」
それが早くなったか、遅くなったかだけの違いでしかない――――。
最後の台詞は、カウンター席でコーヒーを楽しんでいるマリアのものだ。
そんなマリアはカップの中身を飲み干すと、よっこいしょと席を立ち。
「さてと、僕はこの辺で一旦帰るとするよ」
と言って、玄関ドアの方まで歩いていく。
「なんだよ、もう帰るのか?」
「うん? もしかしてカイトってば僕が居ないと心細いのかい? 仕方ないな……ママの胸に飛び込んでおいで?」
「やめろ、気持ち悪い」
割とマジなトーンで言う戒斗の方を振り返って「ふふっ、冗談だよ」とマリアは笑い。
「真面目な話をすると、奴らの背後を洗っておきたくてね。特に何も出てこないとは思うけれど……例のミディエイターって組織との繋がりが、ひょっとすると何か分かるかもしれないから」
「じゃあ、ついでに武器もたんまり持ってきてくれよ」
「別にいいよ、何が欲しい?」
「そうだな……戦闘ヘリでもあれば嬉しいぜ。対戦車ミサイル満載なら最高だ」
「ふふっ、悪くない注文だけれど、街中でそれはちょっと控えて貰いたいね?」
「冗談だよ。――――グレネードランチャーでもあれば言うことねえ。イギリス製のアーウェン37がいい。あのサイボーグ野郎を月の裏側までかっ飛ばすにゃ、それぐらいの火力は必要だ」
「いいね、それぐらいなら一誠くんに急ぎで用意させるよ。他に欲しいものはあるかい?」
「愛と勇気ならいくらでも」
「相変わらず冗談が好きだね、君は」
「あんたほどじゃない」
「――――オーライ、とにかく気を付けてくれ。奴らは諦めたわけじゃないんだ。何かあったら秘匿回線ブラボーを使って連絡をくれ。期待しているよ……
最後にニヤリと笑って、マリアはセーフハウスを出ていった。
「……だからやめろっての、その名前で呼ぶの」
バタンと閉まったドアに向かって、戒斗は小さく肩を竦めるのだった。
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