第五章:クロッシング・トライアングル/07
そうして服飾店でひとしきり楽しんだ後は、街中にあるアクセサリーショップに寄ってみたり、手近にあったゲームセンターに入ってみたり。基本は琴音が遥を引き連れてあっちこっち遊びまわって、その後を戒斗が付いていくといった感じだった。
そんな風に琴音に連れられて繁華街をあっちこっち遊び歩いている内に、気付けばもう昼過ぎの時刻に。そろそろお腹も減ってきたことだし、何か食べよっか――――そんな琴音の提案に乗っかる形で、三人はちょっと遅めの昼食を摂ることになった。
といっても、おしゃれなレストランなんかじゃなく普通のファミレスだ。こういう気取らないチョイスは、いかにも琴音らしい気もする。
店内に入って、通されたのは隅の方にある四人掛けのボックス席。琴音がまず先に座り、テーブルを挟んだその対面に戒斗と遥……といった席関係になった。
「私はハンバーグ定食にしよっかな。遥ちゃんはどうするー?」
「そうですね……お腹も空きましたし、私も同じものを頂きましょうか」
「おっけー。お兄ちゃんはどうする?」
「なら俺も便乗だ。見るからに美味そうだしな」
「んじゃあ決まりね! 後はドリンクバーも三つと……大皿のポテトもつけちゃおっか。これは私の奢りでいいよー」
意外に早く決まったところで、ブザーを押して店員を呼び出し、琴音が手早く全員分の注文をしてしまう。
「飲み物は私が取ってくるから、二人とも座ってていいよ。何がいい?」
「じゃあ俺はコーラで頼む」
「私は……あればオレンジジュースで。無ければ戒斗と同じもので構いません」
「おっけーおっけー、じゃあちょっと行ってくるねー!」
きゃぴきゃぴとはしゃぎながら、ドリンクバーのある方へと早足で歩いていく琴音。
そんな彼女の背中を見送りながら、戒斗は「……ふぅ」と思わず小さな息をついていた。
「……疲れましたか?」
肩の力を抜いた風な彼の様子を見て、遥がボソリと呟く。
それに戒斗は「少しな」と肩を回しながら答えて。
「ま、でも慣れっこだ。琴音は昔からああいう風だったからな」
「そういえば、幼馴染なんでしたね」
頷いて、遥は少しの間そっと目を伏せると。
「……あの、ひとつ訊いてもいいですか?」
と、再び開けた目で戒斗の顔を小さく見上げながら、そっと問いかけてきた。
「なんだ?」
「どうして、琴音さんの護衛に協力してくださったんですか?」
「また藪から棒だな……」
「以前から気にはなっていたんです。幼馴染と聞いて納得はしましたが……でも、それだけじゃないような気がして」
実際、それは鋭い質問だった。
あの夜、遥から聞かされた戒斗が琴音の護衛に力を貸すことに決めた一番の理由は、やはり彼女が幼馴染だったから。それは間違いなく事実だ。遠い日に別れた少女が狙われていると知って、見過ごせなかった……というのは、やっぱり一番の動機だった。
――――でも、それだけじゃない。
遥の質問は、まるで戒斗の内心を見透かしたような鋭い問いかけだった。
「驚いたな……いつ気が付いた?」
だから戒斗は驚いた顔を浮かべて、そう彼女に訊き返す。
すると遥は「いつ、というわけではありません」と答えて。
「ただ、何となくそうなんじゃないかと思った……それだけです」
「……流石は忍者だな、いい洞察力をしてるよ、君は」
戒斗は小さく肩を揺らしながら、コクリと僅かに頷いて肯定の意を示す。
「――――放っておけなかった」
「えっ?」
「君がたった一人で兄貴を追っていること、巨大な組織と対峙していること……それを知った以上、放っておけないと思ったんだ。似たような経験が俺にもあるからな……その辛さは、分かるような気がする。だから俺にできることがあるのなら、力になってやりたいと思った……それが本音だ」
――――――そう、それが彼のもうひとつの理由なのだ。
たった一人で戦いを挑む遥を、傷付いても立ち上がろうとする彼女を放っておけなかった。力になってやりたい……そう思ったことが、琴音の護衛に手を貸したもうひとつの動機だった。
「……そう、でしたか」
「でも、琴音が幼馴染だからってのは一番の理由だ。それは間違いない」
言って、戒斗は小さく息をつく。
「……どうしてだろうな、君の前だと不思議と本音が出てくる気がするよ」
「私の前だと……ですか?」
きょとんとした遥に「ああ」と戒斗は頷き返し。
「そういう君だから、なんだか放っておけないのかもな」
と、まるで自分で自分に確認するかのように、半分独り言みたいに呟いたのだった。
……そうしている内に、グラスを三つ持った琴音がドリンクバーから戻ってきて。それから程なくして、三人分のハンバーグ定食が店員の手で運ばれてくる。
熱々でジューシーなそれに舌鼓を打ちながら、三人で話すのはこの後のこと。次はどこに行こう、何をしよう……そんな風に楽しく相談しながら、昼下がりのひとときは過ぎていくのだった。
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