3

「ちょ、お兄ちゃん⁉ 何、止めてッ!」

 少年は妹を強引に組み伏せ、身体を重ねてきた。

「お兄ちゃん⁉ 怖いよ⁉ 誰か、誰か助けて!」

 妹は困惑した。兄の顔は怒りに歪み、目は虚ろだった。口元からは涎が零れ、常ならぬ剛力で妹を押さえつけてくる。

 妹の足元には、およそ人体の一部とは思えない、熱くて硬いものがあたる。妹はそれを理解できなくとも、本能的に恐怖した。しかし覆いかぶさる兄を振り払おうとしても、凄まじい力で押さえつけられて抵抗できない。

 色欲の悪魔の呪いである。

 少年は妹を凌辱した。妹の口からは悲鳴が漏れたので、両手で首を捻じりあげて黙らせた。そうすることで、下の締まりも良くなるような気がした。

 圧倒的な力で、少年は事を進める。下腹部に感じる未知の快感が脳髄を焼くようである。先ほどまであった妹を守るための決意は、台風の前の蝋燭の火のようにあっけなく消え去った。妹の悲鳴は少年の耳に届かない。

 少年は正気を失い、溢れるような欲望の波に飲まれ、酩酊したように妹の身体を求め続けた。

 全てが終わったころには、妹は息絶えていた。

 急速に身体の熱が奪われてゆき、少年は自らが犯した罪を自覚した。快楽に染まっていた頭が今度は、自分がやったことへの悔恨と嫌悪にとって代わる。

 少年は吐いた。泣きながら吐いた。胃の中のものを全て出し尽くしても後悔の念は微塵も減らず、少年は血を吐いた。

 眩暈がする目で、妹を見やる。妹の顔は苦痛に歪んでいた。まるでこの世で最も醜悪なものを見たかのような、可哀相な顔だった。

 少年は妹を川に沈めた。妹の死体を野ざらしにしておくわけにはいかなかった。自らの保身のために守るべき妹を犠牲とした後悔が、少年の全身を貫いた。泣こうが喚こうが妹は還ってこない。自分が殺したのだ。

 家を失い、前科を負い、この先どうやって生きていけばよいのか。

 少年は叫んだ。しかしその叫びは、燃え盛る町からの悲鳴と怒号にかき消され、誰にも届くことはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る