6
『対象の沈黙を確認。もう他の悪魔も湧かなくなったようだし、結界を解いても大丈夫そうだ。ご苦労だった、チエロ』
ファーストコンタクトから数時間、チエロは夜通し悪魔を狩った。目の前では最後の悪魔がその魚型の頭部を刎ねられ、塵となって消滅していくところだった。
チエロは指を鳴らして結界を解く。空は朝焼け模様であり、ちょうど太陽が昇る寸前といったところだった。遠くの山の稜線が白く滲んでいる。
「はぁ~外の空気うま。魚臭すぎた……」
チエロは河川敷の草原に座り込んで朝の風を浴びた。穏やかな風が顔に心地よい。鼻に纏わりつくような魚臭も拭われるような気がした。
今しがた狩った半魚人は、どうやら強欲の悪魔らしかった。何故半魚人の姿なのかよく分からなかったが、魚類の分際で陸に上がろうとするのが強欲だということだろうか。
『魚型の悪魔に近寄りたくなかったのなら、弓を使えば良かったのではないか?』
パスカルが真っ当な指摘をする。
「私の射撃訓練場の成績、知ってる?」
『………………』
天界からは紙を捲るような音が聞こえる。
『成程な』
「ね? 欄干が穴だらけになっちゃうからさ」
*
『……それで、今日はどこへ帰るんだ?』
パスカルに問われ、チエロは顔をしかめる。戦闘中も考えないように頭の奥底に追いやっていた事項だった。
しかし朝が来てしまえばその面倒な問題にも向き合わざるを得ない。
「……天部で宿を用意するとかできないわけ?」
『一晩くらいは何とかできなくもないが……今回は特殊な事例だからな。堕天の罪を巻き返すほど悪魔を狩るとなれば、最低でも二週間くらいは欲しい』
パスカルは夜通しオペレーション任務を担当していたのに疲れたそぶりも見せない。オペレーションと並行して様々な事務作業も行っていたようである。彼は彼でタフなのだとチエロは思った。
しかしその点を褒めたとしても、今のチエロの境遇が変わるわけでもない。
『言いづらいが、悪魔狩りに時間がかかるからこそ、天飼の部屋は適している。あそこまで言いなりにできる人間を確保できるのは相当なレアケースだ。あの調子だとあの男は、一か月でも一年でも部屋を貸すだろう。しかも無料で』
「でも嫌なものは嫌!」
『……また夜になったら連絡する』
通信が切られた。
太陽が空に現れる。その鋭い光にさえ責められているような気がして、チエロは踵を返した。
今日はどこにいれば良いのだろう。飛べない翼ではちょっと遠くにすら行けやしない。
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