ガラス水

川の源流付近まで来ていた。この山はガラスでできているものだから、登っているときにツルツルして滑り落ちてしまいそうだったけど、なんとか登ることができた。


歩くたびにカツカツと透明感のある硬い音がするのがなんとも印象的だった。山を成しているガラスも、単色ではなくて様々な色がついていた。透明なのもあれば、淡い赤、深い紺、芯から光っているような緑、爽やかな水色、光のような黄色、とにかく色鮮やかだった。


そのガラス岩が、少しずつ、少しずつ侵食作用によって削られている。源流はちょっとした池のようになっていて、何匹か鳥も泳いでいた。魚がいるからなのか、頭を川に入れていた。


源流付近の水はとても澄んでいたから、ガラスさえ入っていなかったらおいしく飲めそうだった。植生も、ガラス岩に影響を受けたものとなっていた。


このガラス水がどうなっていくのか、とても興味がある。私は下流の方まで下って行くことにした。


滑り落ちないように慎重に川を下って行く。川が流れている音が心地よく、頭を冷静にしてくれるようだったので、危なげなく下っていった。


道中、人気ひとけのない山奥であるはずなのに鉄でできた4本の柱が建っていた。家でも建っていたのだろうか、それとも何かの目印として建てたのだろうか。少し考えてみたが、答えは出なかった。


長い間川沿いを歩き続けた。時間がわかる類のものを持っていなかったから、どれほどの時間歩いていたのかわからない。根気強く歩き続けて、遂に終着点である海に辿り着いた。


砂浜は、この川が運搬してきたガラスが堆積してガラスの砂浜をつくりだしていた。時刻は夕方だったので、夕陽が砂ガラスを照らしてキラキラと輝いていた。


砂ガラスの山を手で一掴みして、パラパラと上から落としてみた。キラキラと輝きながら落ちていく様は、涙みたいだった。


こんな綺麗な砂、何かに使えないかなと少し考えてみる。そうしていると、ちょうど砂時計を持っていたことを思い出した。砂をここにある砂ガラスと入れ替えたら、綺麗な砂時計ができるんじゃないだろうか。


そう思って意気揚々と砂を入れ替え始めた。綺麗な砂を選びながら入れていたので、時間がかかり、気づいたら夜になっていた。


さっきまで明るかったので気づかなかったが、このガラスの砂浜には光る砂も混ざっていた。私の作った砂時計にも少し混ざっていた。


遂に完成した自作の砂時計をひっくり返してみる。砂が上から下にこぼれ落ちていく。普通の砂とは違って、シャラシャラと音を立てながら落ちていった。


夜で辺りは暗かったけど、光る砂が混じってるおかげでさっきとは違った美しさを感じられた。こんなに美しいものがこの世にあったんだと思わされるほど感動した。


この美しさを共有したい。誰かに知ってもらいたい。そう思ったので、ここに砂時計を置いて帰ることにした。次に訪れた誰かを感動させられるかもしれないし、時間が経って海に流されていくかもしれない。


砂時計のまだ見ぬ旅に想いを馳せながらこの地を去った。



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