やさしい湖

気づいたら変なところにいた。壁も、床も真っ白のとてつもなく広い空間。音は無音に近くて、とても静か。僕が歩くと靴がカーン、

カーンと大きく反響する。恐らくここはとても広い空間なのだろう。


靴の音しか聞こえないと思っていたが、よく耳を澄ましてみるとしゅわしゅわと何かが弾けるような音が聞こえた。


その音の正体は、とても大きな湖だった。でも普通の湖ではなくて、ピンク色の炭酸水のようなものでできた湖だった。


対岸が見えないほど大きく、しゅわしゅわとずっと気泡が出ている。湖の上には、これまた真っ白の四角いタイルがふよふよと漂っていた。川にある飛び石のように幾つものタイルが連なって遥か彼方まで続いていた。


なんでかわからないけど、こんなものを見ると渡りたくなってしまう。そんな好奇心に逆らえず、ぴょんぴょんとそのタイルに飛び移りながら進んでみた。


進んでいると、この湖で弾けている気泡からは独特の匂いがした。どこかで、かいだことのある匂い。かいだのは病院だった気もするし、甘い果実だった気もする。とにかく心がふわふわとした。


そんな気分になっていたからか、途中で足を滑らしてしまった。タイルの飛び石から横にそれて、ピンクの炭酸水に沈んだ。


僕が沈んだ瞬間、シュワーという音に包まれた。大量の気泡が僕を包み込んで、そのまま深く沈んでいった。不思議なことに、液体の中だというのに呼吸をすることも、目を開けることも可能だった。炭酸水に見えたから僕の肌を刺激してくるかと思ったけど、全く痛くなかった。


こんなよくわからない湖に生物なんているわけないと思っていたが、周りを見渡すと何匹か生物のようなものが泳いでいた。


遠くの方では魚の骨、それもかなり大きめの骨が体をカタカタ、くねくねとうねらせながら泳いでいた。


近くでは、手のひらでは収まらないくらいのサイズの球体が泳いでいた。ひし形っぽい模様がついていて、表面はゴムっぽい素材に見えた。


掴んでみようと思ったけどすぃー、と奥の方に離れていってしまった。なら、それでもいいかなと思った。


気がつくと、かなり水面から遠ざかっていた。僕はなす術もなくどんどんと水面から遠ざかっているのに、気泡に包まれているのがたまらなく心地よくて、とても安心した。ああ、このままずっと沈んでいってもいいんだと思わせてくれた。これを幸せというのかもしれない。


そう思って僕は深く目を閉じ、眠りにつこうとした。

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