第4話 望んだ時に

「ん……っ」


 声を漏らしたのはロウナの方だ。

 柔らかい唇に触れ――レリーシャは思わず抱きしめたくなるのをこらえる。

 弟子になりたいという、少女の純粋な願いを利用してキスをしたのだ――いかにレリーシャの性格が悪いとはいえ、罪悪感を抱かないわけではない。

 彼女の初めてを奪ってまで、自らの欲望を叶えるという――悪。


(……さすがに、これ以上はダメよね)


 今更、冷静になったレリーシャは、触れ合う程度の簡単な口づけで終わらせようとした。だが、


「……っ!?」


 小さな舌が、レリーシャの口内へと侵入してきた。

 突然の出来事に反応できず、ただ困惑するだけのレリーシャ。

 ――そう、ロウナの方が、自ら舌を入れてきたのだ。

 見れば、彼女は必死な様子でキスをしている。

 すぐに終わらせるつもりだったのに、こんな行動と姿を見せられてしまっては――レリーシャも受け入れざるを得ない。

 ロウナの舌に対して、自身も絡めるように動かす。

 ぴくりと、わずかに彼女の身体が震えた。

 互いの舌が直接触れ合って、唾液が混ざり合い――呼吸もだんだんと荒くなっていく。

 ロウナは必死なのだろうが――レリーシャに関しては興奮し始めていると言ってもいい。

 ここでやめなければ――間違いなく、レリーシャは先に進んでしまうだろう。

 ゆっくりと、彼女の肩に手を触れると、


「……あなたの覚悟については、よく分かったわ」


 ロウナを引き離す形で、キスは終了した。

 ――欲望に負け続けていた彼女であるが、ここでギリギリの理性を取り戻したと言えるだろう。

 ロウナは少し呆気に取られた表情をしていたが、


「……つ、つまり、弟子にしていただける、ということですか……?」

「ええ、構わないわよ」

「……! あ、ありがとうございますっ」


 ロウナは嬉しそうにして、頭を下げた。

 ――こんな純粋な少女を半ば、騙すようにして口づけをしたことには、やはり心が痛む。

 だが、同時に――彼女が自ら舌を入れるようなキスをしたという事実に、レリーシャは興奮してしまう、どうしようもない人間であった。

 ここが外でなければ、本当にキス以上のことをしてしまっていたかもしれない。

 ――無論、それは許されない行為であるが。


「……とりあえず、弟子にすると決めたからには、今後のことを相談しないといけないわね。今は宿を取っているから、そこで話をしたいのだけれど、構わないかしら?」

「は、はい、大丈夫ですっ」


 別に――自身の宿に連れて行くことにやましい気持ちはない。

 弟子にすると決めた以上は、責任を取る。

 そう、キスまでしたのだから。

 むしろ――キスだけで弟子を取ると決めるのは、おそらくレリーシャくらいのものだろう。

 本来、彼女の実力で考えれば、弟子になるのだって簡単なことではないのだから。


「あの……一つ確認しておきたいことがあって」


 ロウナを連れて歩き出そうとすると、彼女が不意にそんなことを口にした。


「何かしら?」

「……その、弟子にしていただく条件って、今のキスだけで本当にいいんですか?」


 そう、ロウナは問いかけてきた。

 キスだけでいいのか――彼女も理解していたのだろう。

 そんな簡単な条件だけで、果たして受け入れてもらえるのだろうか、と。

 あるいは、ここで『えっちなこと』まで条件を付ければ、ロウナも受け入れる可能性だってある。

 何せ、彼女も満更でもない表情をしていたのだから。


「……というと?」

「その……キスだけなら、ボクもいつでもできそうなので」


 ――そんなことを口にされては、レリーシャも我慢の限界に達してしまう。

 だが、またしても彼女の理性がかろうじて勝利して、かっこつけるような表情のままに言い放つ。


「そうね、私が望んだ時にキスをしてくれたら十分よ」


 ――明らかに欲望に負けていた。

 そして、本来の望みはえっちがしたい、ということに変わりはない。

 ――レリーシャがまたしても敗北する未来は、そう遠くないことだろう。

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清楚で可憐と有名な『白氷の剣姫』だけど、弟子入り志願してきた女の子が可愛すぎてえっちなことがしたい 笹塔五郎 @sasacibe

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