第2話 そこまでの覚悟があるのなら
レリーシャにとって人生で最大の転機か、あるいは危機か――物凄く好みの美少女が自ら弟子入りを志願してきた。
だが、ここでもあくまで冷静だった彼女は、
「あなたの名前は?」
まずはそこから聞くことにした。
「あ、す、すみません。申し遅れました、ボクはロウナ・セルヴァンと言います」
改めて少女――ロウナを見る。
見た目的にはかなり幼い印象を受けるが。
「私に弟子入りしたいってことは、冒険者になりたいの?」
「……えっと、はい。一応、冒険者になろうと思ってて」
「登録は十五歳からっていう決まりがあるけれど、あなたはいくつ?」
「ちょうど、十五歳になったばかりです。なので、こうしてレリーシャ様のところに」
「なるほど……」
十五歳になったばかりで、冒険者志望――レリーシャはまだ、弟子というものを取ったことがない。
もちろん、そういう志願は過去に何度かあったけれど、全て断ってきた。
単純に男が多かったというのはまず理由の一つであるが、女の子の場合――過ちを犯してしまいそうな気がしたから。
ただ、最近のレリーシャは猫を被りすぎて疲れている上に、目の前には本当に好みの女の子。
これを逃す手があるだろうか――いや、ない。
ただ、努めて昂る感情を抑えたままに、レリーシャは話を続けた。
「私はまだ、弟子を取ったことがないの。だから、仮に取るとしたら――あなたが初めてということになるの。正直、きちんと教えられるかどうか分からないわ」
「……やはり、いきなりでは難しいでしょうか?」
「ダメとは言っていないわ」
すかさずフォローを入れる。
レリーシャの中だけで勝手に駆け引きが始まっていた。
「私以外にも冒険者はいる――けれど、私に教えを請いたい、そういうことね?」
「レリーシャ様が、一番強い冒険者だとボクは思っています。だから、レリーシャ様の弟子になりたいんです」
「強くなりたい、と」
「……はい!」
真っすぐ、純粋な答え――邪なことを考えている自分が少し嫌になってきた。
いくら好みの女の子とはいえ、一時の感情に流されて下手を踏むなど、それこそレリーシャらしくはない。
だって――今までだって死ぬほど我慢してきたのだから今更、好みの女の子が弟子入り志願してきたからって、「はい、そうですか」と受け入れては、欲望に負けてしまったのと同義なのだ。
「私は一応、冒険者でもSランク――最高位に位置しているの。これを自慢するつもりもないし、ひけらかすつもりも一切ないけれど、弟子になるというのなら、それ相応の覚悟はある?」
「……」
問われて、ロウナは押し黙ってしまった。
――レリーシャは自らの強さを自慢しない。
表向きにはそうだが、実際には可愛い女の子によく見られたいので、目立つことは嫌いじゃない。
そんな心の内を隠したままの問いかけに、ロウナは意を決した表情で答える。
「……はい、強くなるためならどんなことでもする覚悟がありますっ」
「……どんなことでも?」
「はいっ」
力強い返事があった。
どんなことでも――こういう言葉を使ってまで、弟子入り志願を希望してきた子は初めてだ。
いや、多少はいた記憶もあるが、レリーシャの好みのタイプの女の子に言われて補正がかかってしまっている。
つまり、今なら何を願っても絶対に聞き入れてくれる、ということ。
(……これ、えっちなこともできてしまうのでは?)
澄ました顔で、レリーシャはとんでもないことを考えていた。
だが――彼女は伊達にSランクの冒険者になるまでに、ボロを出したことがない女。
ひょっとすると、レリーシャの何かよくない噂を掴もうと、誰かが好みのタイプの女の子を送り込んできたのかもしれない。
無論、レリーシャが女の子が大好きで、そもそも彼女の好みのタイプなど――誰も知っているはずはないのだが。
「どんなことでも、ね」
ちらりと、レリーシャは後方を確認する。
その後、前方を確認して――また後方を確認した。
周囲に他に人の気配はなく、路地裏の狭い場所であれば、誰かに見られる心配もなさそうだ。
レリーシャは物凄く真剣な表情で、ロウナに向かって問いかける。
「そこまでの覚悟があるのなら――私とキスもできる?」
最強と謳われた『白氷の剣姫』は――自らの欲望に負けてしまったのだ。
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