※提出を見送った没原稿『Project/QuickSaber ‐報復的惑星侵略ノ要‐』
【あらすじ】
その計画は、三十前から始動していた――。
かつて、地上に飛来した隕石から意思疎通の効かない化け物が姿を公に表して以来、世界は地球外生命体〈クリーチャー〉を認知している。
人類はいずれ来たる脅威に対して先手を取っていくために、国家という枠組みを取っ払って締結した『地球全体・最大火力』の対外敵宇宙生命体戦略同盟軍を設立。
報復的惑星侵略を開始する。
プロジェクト/クイックセイバーとはその要だ。
選抜された特殊な才能を持つ四人の男女に隕石産クリーチャーの死骸を加工した武装を施し、宇宙空間での高速移動とクリーチャーの殲滅を担わせる、本作戦での『切り札』とした。
主人公・カインは、その計画の為に生み出されたジーンリッチの人間である。
キーワード:SF スペースオペラ
男主人公/ロボット/アクション/クトゥルフ
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【本文】
――三十年前。
地上に飛来した隕石は、一匹の未知なる生物を地球内部へと持ち込んだ。
非常に硬い皮膚があったのか、はたまた強い生命力故か、タイプアルファと名付けられたその生物は軍隊による局所的な攻撃が行われるまでの四時間三十八分の間、民間人を無差別に襲撃。
百二十二名を死傷させ、世界中の人々を恐怖に陥れた。
すぐさま行われた主要国首脳会議では隕石の飛来を『侵略行為』であると断定。
またタイプアルファのような原始的かつ凶暴な宇宙生物が棲息すると見られる惑星が、隕石の軌道を遡ることで徐々に見えてくるようになる。
それは人類が今まで観測していたはずの通説的宇宙とはかなり逸脱した、『外宇宙』と呼ばれるもう一つの世界。
終末論者が口走るには、クトゥルフなりし異界があった。
――――。
―――。
――。
人類が一隻の宇宙戦艦を大気圏外に射出してから、既に二十日が経過していた。
安定した宇宙空間での航海を行えるようになり、着実に人類が外宇宙へと接近しつつあるなかで、上層部が秘密裏に推し進めている計画〈プロジェクト/クイックセイバー〉は多少のトラブルを抱えている。
「もーやだ! おうちに帰りたいー!」
そう騒ぐのはフレデリカ。選抜チーム最年少にして唯一の女性であり、特異なる才能を見込まれて選ばれた一般公募枠の元大学生なのであるが、多少の性格の難こそ当初から認めていたものの奔放過ぎるきらいがあった。
未だ未知ではあるが数多くの生息環境惑星が待ち受けると思われ、重力圏への降下やその往復を考えた結果、艦内では常に疑似的な重力フィールドを展開し生じうるギャップを制御している。
それが、宇宙空間であるにも関わらずフレデリカにお菓子を買ってもらえない駄々っ子のような暴挙を許してしまうことに繋がるのは、誠に遺憾と表明するほかない。
彼女を見つめる三種の視線はあまりにも冷え切っているものだ。うち一人、選抜チームの隊員育成とその司令を任される教官アイザックは、眉間を抑えて深々と唸る。
「誰か、何か言ってやれ」
苦言を促すその言葉に、真っ先に返事をしたのは同部屋。少し距離の取られた壁際の座席でつまらなそうにフレデリカの事を見下していた、米国軍人のジェイコブだった。
しかし彼はフレデリカに何かを言うのではなく、教官を見据えて皮肉げに口にする。
「それは教官の仕事でしょう」
「……手に負えないな。貴様らは」
ジェイコブは鼻をふんっと鳴らす。
一般公募枠のフレデリカとは異なり、彼の場合は上層部からの命令で選抜チームへの異動となってしまった経緯を持つ。そして、だからこそ彼女のような問題児と同列に扱われている現状に不服な思いを抱いているのだと思われる。
何せプライドの高い男だ。羨まれることの多い体格に、現役時代は彼の右に並ぶ者はいない。恵まれた軍人としての才能を持っているのだと自負していたし、そのように認められているのだと思っていた。
だが実際には、ジェイコブの持つ才能は彼の思い描く将来設計から大きく逸脱した路線を辿らせることになる。
彼は突如として秘密裏の計画に抜擢され、表舞台から一時的にでも退くこととなったのだ。
それがどれほど理不尽に思えたか、何も知らない同僚からの揶揄は非常に耐え難かったし、親にも話すことができない。正真正銘、秘密の計画。
彼は選抜を快く思わなかった。
そのような不満が隠せないのか、現状、彼は本計画に関して賛同もしていなければ使命感も感じられていない。
ジェイコブは米軍人であることに誇りを持っていたのであり、その矜持が何よりも大切であった。
それが否定されている今、ここにいる男はただの捻くれ者でしかない。
「フレデリカはカインの事を好意的に見ていますから。貴方が言うことを聞かせればいいんですよ、カイン」
と、ピリついた空気の走るこの場において、助け舟を出すようにそう話を振ったのは三つ目の視線を送っていた谷島創太という男だ。
日本の自衛隊に所属する、フレデリカよりたった一センチ身長が低くかったために低身長いじりを頻繁に受ける不憫なところのある少年で、真面目で素直な性格をしており、さながらジェイコブとは対極だろうか。
本計画には興奮し、宇宙には目を輝かせ、強い意欲を見せている可愛がられやすい人格の持ち主で、選抜チームのまとめ役のような役割を教官から押しつけられていた。
そこで彼は、今まで我関せずと言ったふうにフレデリカを目線の一つも送らなかった選抜チーム最後の一人。カインと言う名の男に話を振る。
カインは、奇妙な出立ちをした謎の多い男だ。
服装としてはつなぎのような迷彩服を着込み、一見は地味に感じられるが、奇妙と謗られる所以は目元。後頭部で固く結べられた、視覚を完全に遮断するような黒布に違和感を覚えられる。
彼の目の色を知るものは数少ない。教官がうち一人に数えられるが、逆に言えば選抜チームの誰もがカインの素性を知らないでいた。
カインは他の三人とは異なる特殊な経緯を持って本計画に従事している。感情が希薄であり、奇妙な出立ちから仏頂面なところまでミステリアスに思われやすいが、蓋を開ければ面白くもない朴念仁のような男だ。
ジェイコブに言わせればマシンのような奴である。
「なるほど。では、なんと言い聞かせればいい?」
「耳元で愛の告白でもしてやれよカイン」
「それは自分で考えてください」
ふむ、と思案するような素振りを見せるカインに、茶々を入れるジェイコブや不安げな表情を見せる創太の姿が浮き彫り立つ。
教官は興味深げに彼の行動を見守る。彼の出自にも関係することだが、カインの言動は貴重なデータとして取られている。
「分かった。俺が解決しよう」
「へえ。そりゃあ心強いね」
ジェイコブの皮肉を背に受けながら、カインは立ち上がると正確な足取りでフレデリカの元まで歩み、しゃがみ、言葉を選ぶような沈黙を見せる。
同時に、フレデリカはうぎゃうぎゃとしたひっくり返った亀のような運動を辞め、不思議そうにカインのことを見つめた。
「……な、なによ」
この距離感で、しかもカインのような人間に沈黙を貫かれると、如何なフレデリカと言えど羞恥心の一つでも湧くようだ。どこか戸惑い、勢いの減衰していくような姿に、創太らとしては微かな期待を抱いてしまう。
実際、話を振った創太としても結果は五分五分だと思っている。コミュニケーション能力も低いカインのことだ、むしろ、人物像を見極めるための一環なのだと思ってほしい。
だからか、ごくりと生唾を呑み込むような緊張感が発生するなかで、カインの言葉が待たれている。
「フレデリカ」
「う、うん……」
さあ、カインは何と言う?
「甘えたことは言っちゃダメだ」
あちゃあと天を仰ぐ創太がいた。
「………? ……なっ、はあ!? 馬鹿にしたあ!?」
「何故だ。馬鹿にはしていない。そう思われるのは心外だ」
「こっちのほうが心外ですけど! はあ〜〜〜っ、ほんとここって最悪ね!」
ヒートアップするように強まるフレデリカの語気に合わせて、カインはたじたじとした姿を見せる。
仲間に対しての思いやりも、きっとない訳ではないのだろうが……。
ヤレヤレとわざとらしく首を振るジェイコブを尻目に、創太が仲裁に入っていった。
「こんな者たちに人類の勝利が懸かっているとはな……」
教官のやつれた表情が、選抜チームの苦難のその全てを表しているような気がした。
――改めて、ここは対外敵宇宙生命体戦略同盟軍大型宇宙戦艦〈人類の剣〉クラウソラス。
乗員数は六百名。約百日間の航海を予定し、外宇宙における惑星の侵略。調査、解析を進め、タイプアルファのようなクリーチャーと呼ばれる生命体に迫ることを目的とする。
「明日には第一目標惑星へ到着することが出来るのだね。ここまで長くて退屈な道のりだったけど、ここから先は目まぐるしいだろうね」
外宇宙では、地球ないし人工衛星との通信が一切取れなくなる障害が見つかっている。今回のような大規模作戦に伴い、数名の博士号を持つような人材にも同行してもらい、現地で研究を行う方針を取っていた。
その統括を請け負う齢八十ほどの老爺が、伝令員から受け取ったファイルに目を通しながらそんなことを口にする。
ここは研究室。表示されるモニターにはタイプアルファの解析画像が描画されている。単眼で六本の腕を持ち、非常に硬い鱗を備えた地球上のどの生物とも類似しない異形の姿。
SF映画から引用したような参考画像になっているが、当時のカルフォルニア市街地に姿を現した実在する生物に違いない。
人類が敵と定めた魔物だ。
「呼称をお願いしますだってね。とても、悩むところだね。見た目の特徴から名を取る人もいれば、
ペラペラとお喋りを発動しながらその男は研究員たちに一方的に話す。どよめきはないが、困惑しているのが正直なところだ。
本来、艦内は厳粛な空気が保たれなければならないのだが、選抜チームしかり、独特な人格の持ち主が本作戦に参加するため、そう言ったムードは保たれずにいた。
「でもまあ、私には〝声〟が聴こえるのだね」
老爺はぱたんとファイルを閉じる。
「次なる惑星はトルネンブラ。それで、名前は決まりなのだね」
――そして。
今までのようなムードも、今日を最後に続かない。
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