第14話 不完全なゴーレム
この世界に存在していて良いのだろうかと思うくらい綺麗な女神が二人いる。
生まれたままの姿で二人は抱き合っている。片方は、ちょうど今しがた生まれたところだし、その言葉が良くあてはまるのだけれども。泥から生まれたリナのお母さんは、確実にこの場に存在していた。
親子の再開。二人が抱き合ってるシーンを見せられたら、感動がこみあげてくるけれども、二人共に裸でいるあたりが、私によからぬ衝動を駆り立ててくるのですけれども……。
ワンチャンス、私も混ざって、裸の二人と抱き合ってもいいんじゃないかと思ってしまうんですよね。私だって、一生懸命手伝ったわけですし、一緒に喜んだっていいわけで。それで抱きついたとしても、何ら不自然なことは無いですし、その権利はあるわけですし。
その結果として、何やら身体がふにふにと当たってしまうのは不可抗力な訳ですし。私は一向に気にしないですから。
お母さまの大きな弾力と、リナの小さな弾力と。それをいっぺんに味わえるのならば、やっぱりここは天国なわけで。
妄想にふけっていたら、リナのお母さんと目が合った。
「そちらは、どなた?」
「あっちは、おばちゃん。一人でいた私を助けてくれたの」
「……え、え? は、はい。今、紹介されました私は、この子をここまで連れてきまして」
リナのお母さんは、しどろもどろになる私の話を、優しく笑って聞いていてくれた。リナと似ていて、笑うと目じりのしわが可愛い。私も釣られて笑ってしまう。ふふ。
今までの経緯を経緯を話そうとすると、リナのお母さんはカクカクと、おかしな動きをしだした。
「……リ、リナちゃん。私、もっと、人間の身体が欲しいな?」
そう言って、リナを強く抱きしめ始めた。さっきまでの優しく抱き合っているのとは違って、力が籠っている。
「……ちょ、ちょっとリナ、何か様子が変じゃない?」
「……はぁ? おばちゃん、人のママのことを悪く言わないでよ。子持ちに対する嫉妬?」
「違うよ、だっておかしいって……」
リナのお母さんの腕は、どんどんとリナの身体にめり込んでいく。
「やっと会えたんだもん。ママだって私に会えたことが嬉しいんだよ。そうだよね?」
「ソウヨ……、リナチャン……。モット、身体チョウダイ……?」
リナのお母さんは、段々と肌の色が泥色へと戻っていった。
もしかすると、中途半端に身体の一部を与えてしまったから、足りないんだと求め始めているんじゃないか……? もしくは、この世界のものじゃない物質を与えてゴーレムを作ったから、その副作用なのか……?
リナのお母さんだったモノは、人間の形から徐々に人間ではない何かに変異していった。
手だった部位は複数に割れて、リナに絡みついていく。カタコトでしゃべる言葉の通り、リナを取り込もうとしているように動いている。優しそうだった顔は崩れてしまい、欲望がむき出しとなった目で、リナを見つめている。
「リナ、ダメだよ! 早く離れてっ!!」
「やだよっっ!! せっかく会えたママなのに。すぐに直るよ。……ねぇ、ママ?」
「ハヤク、身体ヲ、ヨコセーーッ!!!」
「リナっ!!」
リナの手を引いて引き離そうとするが、想像よりも強い力に阻まれる。うぅ……、どうやっても私には引き離せない……。
「取り込まれたら、リナは死んじゃうんだよっっ!! そんなの、絶対ダメだからっ!!!!」
「ちょ、ちょっと! 何やってるの……? やだよ、せっかくママに会えたのに! 壊すなんてダメだよっっ!!!!……だ……、めだよ……」
私が壊すよりも早く取り込まれていくリナ。もう顔が見えなくなるくらい泥の中に取り込まれてしまっている……。どうしようもないよ……。リナってば……。
「……もうさ。ママ、ママってうるさいよ……。こんなの、あなたのお母さんじゃないしさ……。今のリナ、リナじゃないよ……」
腕を引っ張っても、うんともすんとも言わないし。泥部分を叩いても蹴っても、崩れてくれないし。
「……もう! 戻ってきなさいよ! 憎まれ口叩いてた、生意気なメスガキのくせにっ!! まだ、お前にやり返せてないんだからなっ!! 勝手に死んだら、お前の世界まで行って、本物のお前のママに酷い目合わせてやるんだからっ!!!!」
……どうにもならない。
……この泥の塊を壊せれば、救い出せるのに。ギルドのカウンター壊しちゃった時みたいに。あんな力があればいいのに。あの時みたいに。
……散々リナにおちょくられてて。こっちが我慢しても、ひたすら人の神経を逆撫でしてきてさ。
……いや、今思い出してもイライラしてくるわ。余裕ぶったリナの顔もムカついてくるし。
「お前よりもな、私の方が長く生きてるんだからなっ!! 『おばちゃん』なんて言葉! もっと敬意をこめて言えやぁーーーーっっ!!」
突き出した手が、ゴーレムの顔を崩した。
「このメスガキがーーっっ!!!! 絶対に謝らせてやるんだからなっっ!!!! それまでは、誰にも殺させないんだからっっ!!!!」
気付くとリナを引く手に力が溢れてきて、泥の中から少しづつリナを引き出せているようだった。
「おりゃぁぁーーーーーっ!!!!」
ゴーレムの身体に足をかけて力を入れると、ゴーレムを蹴り崩すことができ、リナを完全に引き出すことができた。すると、ゴーレムの身体は砕けて粉々になり、風に流されて消えてしまった。
「……ゴホッ、ゴホッ」
「……リナ、大丈夫?」
何とか、リナを救い出せたけれども。リナのお母さんはいなくなってしまった。
しばらくして、リナは目を開けた。
助かったことに喜ぶことはなく、ただ呆然としたまま、ゴーレムだった砂を見つめていた。
リナは少し残っている砂を手に取って、胸に当てて泣き始めた。
「……ママ」
「こうするしかなかったんだよ」
「ママーーーッ!!」
リナは大声で泣きじゃくっていた。
私は、そっとリナを抱き寄せて、胸の中で泣かせてあげた。
「また手伝ってあげるからさ。今度は完璧に作ろう。諦めなければ、きっといつかできるはずだよ……」
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