第13話 リナのお母さん

 泥をこねるのは気持ちが良い。ほんのり冷たくて、少し弾力もあって。それこそ、人の脂肪をふにふにと触っているような感覚がある。一番近いのは、二の腕についた肉かな?

 ふにふにふにふに、気持ちいい。こういう肉っていいよね。一生触ってられるかも。


 そして、この気持ち良さに拍車をかけるのが、今の私が全裸なことだったりもする。誰もいないからこそできることだけれども、やっぱり開放感がすごくある。あと、少し背徳感もあったりして。

 暖かい日差しに照らされて。こんな私でも、キラキラと輝いているんじゃないかと錯覚しちゃうくらい。

 泥遊びが、今までにないくらい、すごく楽しくて。私、今生きてるって感じ。あぁーー。本当に生きてて良かったー。


 私が生の喜びを味わいながら、大きく手を開いて深呼吸している傍ら、リナは真剣な顔で作業を続けていた。



「私が顔やるから、おばちゃんは身体作っててね」


「そういう分担ね。オッケーだよー! 私がナイスバディを作っておくからね!」



「……はぁ。おばちゃんってさ、やっぱりワードが古いんだよなぁ。おばちゃんの趣味に走らずに、ほどほどにね」


「任せておきなさい。リナのお母さんでしょ? リナを大人にした感じの。こんな感じなのかな? 形が良い胸があって。それで、しっかりとくびれがあって、お尻は小さく引き締まっている」



「……私をじろじろ見ながら作らないでよ。変態、エッチ、ド淫乱」


「ふふふ。まったくもって、その言葉が当てはまるよ、ふふ」




 そんな軽口を叩かれながら、夢中になって作っていたら、段々と形になってきた。


 ゴーレムは、パーツごとに分けて作っていって、私は足から首までを担当した。大元となる胴と、そこに繋がる四肢。しっかりと細かい指の先までパーツを作っていく。リナは手が器用なのか、作るのが上手だ。ちらりとリナの手元を覗くと、リナに似た顔が出来上がっていた。


 各パーツが出来上がると、二人でそれを繋ぎ合わせていく作業をした。仰向けで寝かせてある胴のパーツに対して、足と腕をつけて。最後に頭をつける。せっかく作ったパーツが崩れないように慎重に。

 そうすると、寝転がった状態のリナのお母さんの泥人形が出来上がった。




「とりあえず形になったけれども、これをどうすればいいんだろう? リナってこの後どうするか知ってるの?」


「私が調べたところだと、この泥人形に対して、核となる人間の身体の一部を入れてあげたら完成するらしいんだ」



 そう言うと、リナはウキウキと自分の脱いだ服の方へと歩いていった。お母さんの身体の一部なんて持ち歩いているのか?

 そもそも異世界から来たなんて言ってたけども。そういえば、リナは見慣れない服を着ていたから、もしかするとリナのお母さんの何かが入ってるのかな?

 リナは自分の服からゴソゴソと何かを取り出すと、こちらへと戻ってきた。手に持っていたのは、片手に収まるくらい小さくて筒に入ったもの。



「これはね、ママの口紅なの。こっちの世界に来る前に借りてたんだ!」


「……口紅? それが、核になるってこと? 身体の一部じゃ無い気がするけども……?」



「大丈夫、大丈夫! これにはママの唾液とか、そういうのが、びちゃーって付いてるんだよ。だから大丈夫だもん!」



 本当にそんなので良いのかと疑いたくなるくらい、微々たるものだと思うけども……。リナは、不安を振り払うように、一生懸命ゴーレムに口紅を塗り始めた。

 リナに似て、ぷっくりと膨らんだ色気のある唇を紅く紅く染めていく。上唇と下唇が、これでもかと紅く染まると、段々とゴーレムの身体も泥色から人間の肌のように艶を帯びていった。



「……うそでしょ? そんなので、上手くいったの?」


「やった! これで、ママに会えるんだね?!」


 ゴーレムの泥の肌は、徐々に赤みを帯びてきて、まるで血が流れているかのように血色が良くなっていく。そして、全身に色がついたと思うところで、ゴーレムは瞬きをしたように見えた。



「……動いたよ! おばちゃん見てた?! 今、動いたよ!!」


「……確かに、動いたように見えたけれども。あんな少量の素材でも良かったの?」



「大丈夫だよ!! やったー!! ママだよ!! ママに会えた!!」


 目に涙を浮かべながら、ゴーレムに抱きつくリナ。ゴーレムの表面は人間の肌のように弾力があるようで、リナが抱きついても壊れることはなかった。ゴーレムの胸の中で泣きじゃくるリナ。



「会いたかったよー……。ママ……」


「……リ、ナ、ちゃ、ん、?」



 ……あ、ゴーレムが喋った。

 しっかりとリナを認識しているようで、目をパチクリと瞬いている。すっかりと人間のような姿になったゴーレムは、リナに似ている。とても綺麗な人。その人は、リナを両手で抱きしめた。



「ママーーっっ!!!!」


「……あ、あれ? リナちゃん泣いちゃってどうしたの? それに、私は裸だし? あと、リナまで裸?」



 リナのお母さんは、ずっと疑問が解決できないような顔を浮かべて、リナを見たり、自分を見たり、辺りをキョロキョロと見たりしていた。


 これで、本当に大丈夫だったのかな? ちゃんと成功できたんだ?

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