第12話 湖でのゴーレム作り

 今日みたいな良く晴れてる日に、湖のほとりでのんびりとするって気持ち良いよね。気候は穏やかで、周りには誰もいないし、平和という言葉以外見当たらない景色だよ。実にのどかだねぇ。

 湖の中に手を入れてみると、水は冷たい。さっきまでいた山の雪が解けてできた湖らしいから、そりゃキンキンに冷えてるよね。それがまた刺激になって、気持ちいい。

 濁りも全くなくて、底までくっきりと見える湖。たまに風がそよぐと、キラキラと水面が反射してて、それもまた綺麗。

 ここも天国なのかもしれない。



 ――バチャバチャ。



 乱される水面。



「ひぇぇーーー! 冷たいぃーーーー!」



 ――バチャバチャバチャ。



 服を脱いで、湖に入る少女が風景をいっぺんに壊していく。少女が幾分か色気のある水の入り方なら、百歩譲って良しとするけれども。がに股で、奇声を発しながら水に入る眺めは、現実に引き戻されると言いますか……。

 体調の悪い時に見るような悪夢と言いますか……。



「こうやってさ、大事なところに泥を塗っておけば、セーフじゃない?」


「セーフじゃないよっ!! せっかくの綺麗な湖で何をしてるのよっ!!」



「えっ? ここのドロが素材なんだよね、確か? 湖に入んなきゃ取れなくない?」



 しっかりと泥を塗り終わったリナが、さも当然かのように言う。



「……まぁ、確かにそう言われたら、そうだけれども。けど、そんなに躊躇無く服を脱いで、湖に入る、普通?」


「いいからおばちゃんも入りなよ。ドロは大量に必要だし。ここには、誰もいないから平気じゃん!……って思ったけど、一人だけいるか。絶倫のドラゴンのおじさんは、こっち見てないから今のうちだよ!」



「まぁ……、手伝うって言ったし、やるか! それーーっ!」


 一気に服を脱ぐと、私も湖に入る。目の前の少女が裸で頑張ってるのに、大人の私がやらないなんて、逆に恥ずかしいからね!



「おばちゃん、ちょっと垂れてきてるね。私は歳は取りたくないなー……」


「……せっかく手伝うって言ってるのに! このメスガキがーーっ!」



 リナに向かって水をかける。すると、泥が少しづつ落ちていく。

 おぉー……、これはなかなか、興奮するものがありますね……。もっとかけよう。



「おりゃおりゃおりゃぁーーー!」


「うわっ! 冷たいな、おばちゃん!! やめろぉぉーーーー!」



 バチャバチャと水を掛け合う。跳ねる水しぶきで、湖の上に虹がかかってるみたいに見える。こんなこと、ギルドじゃ出来なかったもんね。こういうのも楽しいかもしれないな。ふふふ。

 ……けど、ちょっと、リナはやり過ぎだけど。



「ふぅ……。リナ、後で覚えてな。きっちり仕返しするからね。早く作ろう」



 湖から泥を取ってきて、岸に置いていく。何回も往復して、二人で大量の泥をあげていった。ゴーレムを一体作るのに、どれくらいの泥があればいいのか分からないけど、十分でしょ。


 これをコネていけば、いいのかな?

 岸にあげた泥は、日に照らされて少し固くなっていっていたので、程よくコネやすくなっていた。泥を手にとって、水を少し付けてコネコネ。


 まったりとした午後に、鳥のさえずりを聴きながら、泥遊び。これもこれで良いかもな。なんだか、何をやっても楽しい気分になるよ。理想に思い描いたような老後の生活のような気分。

 私はのんびりした気分でいたけど、リナの顔は真剣そのものだった。


「昔私が見た文献だと、こうやって、身体のパーツの造形を作っていくの。四角くて大きいようなゴーレムは戦闘用だけれども、人間のように作ることだって可能なんだよ」


「へぇー? リナは物知りだね。そういうの、誰に教えてもらったの?」



「調べたの。自分で」


「へぇ、リナは偉いね。そんなふうにしてまでゴーレムを作って、何がしたいの? そんなに楽しいの?」



「……ん。秘密」


「えー、教えてよー、リナちゃーん。いいじゃーん。何するのー?」



「…………詮索すんなよっっ!!!!」



 リナの声が湖畔に響いた。

 可愛く鳴いていた鳥は、一斉に飛びたって行ってしまった。猟銃でも打ったかのように、一瞬ピリッとした空気になった。



「……ご、ごめん。けど、そんなに怒らないでもいいじゃない?」


「……ごめん」



 湖には、静寂が訪れた。

 のどかだけれども、寂しい感じ。少しの間、二人で黙々と作業をしていた。意地を張っている訳じゃないけど、どちらからも謝らないでいると、沈黙の時間が流れていた。


 ……まぁ。私が少し悪かったかもしれないし、大人の方から折れてあげよう。



「ごめんね、リナ。もう詮索しないよ。そのかわりに、せっかくなら私の話しようか」


 リナから返事は無いけど、うんと頷いてくれた。



「私ね、独り身なんだよ」


「……知ってるよ。おばちゃん、モテないじゃん」



「そういう訳じゃなくて、親がいないの」


「……なら、私と同じじゃん」



「うん。それでね、マスターに拾われたんだ。何もできない子供だったんだけど、一からギルドの知識を教えてくれてね。お母さん代わりだったんだ」


「……ふーん。なにそれ、自慢?」



「いや、そういう訳じゃなくてね。もうギルドを追い出されちゃったから、リナと一緒になったのよ」


「……そっか、それはごめん。離れ離れにしちゃって。そしたらさ、おばちゃんは、元に戻れるうちに戻ってよ。私は一人で、ゴーレム作るから」



「いや、いいよいいよ。いつか親離れしなきゃいけない年だし」


「……私はさ、親離れなんてできないよ。またママに会いたいの。元の世界のママに会いたい……」


 リナの目には涙が浮かんでいた。今まで見たことない顔。泣き顔を見ると、やっぱり子供だなって感じる。裸なのに、泣きじゃくってさ。


 私は、リナの頭を抱きかかえてあげる。



「辛かったんだね。私が、最後まで付き合ってあげるからさ。リナのママみたいなの作ろうね」


「……ひっく。……おばちゃん、私の弱みを握ったと思って、調子に乗らないでね。できるまでは頼るから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る