第11話 北の山の湖

 ドラゴンの背に乗って、空の旅を旅を満喫できるなんて、夢にも思わなかったな。快適、快適。風は少し寒いけど、前にいるリナにくっつけば温かいし。リナ柔らかいし、ふふふ。


 ギルドにいる時なんて、いつも同じ景色だけだったのよ。いつも同じおじさんたちの相手。それがギルド嬢の仕事なんだけれども、退屈過ぎてギルドにある地図を眺めて過ごすことばかりだったの。いつかこんなところに行ってみたいなーって。

 地図で見ると遠い場所でも、一目で見える。それで、指で辿ればすぐ移動できるんだよ。ここから、ここへーって指でなぞって。それこそ空間転移みたいに、すーっと。


 そんな感じで、ドラゴンさんの飛ぶのはとても速い。

 いや……、速すぎる……。


「あわわわわわ……」


「だいじょ、じょじょうぶ、ぶぶリナナナナナ……?」


「だだいいじょうぶ、だよよよ。せんぷうきの強よりも、つよいよよよよ……」


「なに、それれれれ……?」



「ヌシら、飛んでいる時は、口は開かん方が良いぞ? 舌を噛んでしまうからのぉ。今は、しっかり掴まっておれよ。もうすぐじゃ」


 私もギルドの受付をやっていただけはあって、ゴーレムの素材がどんなものか等はちゃんと把握している。それを求めてギルドにやってくる人も多少いるからね。

 ゴーレムの素材は、主に土で作られる。ただの土があれば良いというものでなくて、魂が宿るために神聖な土を使うらしいんだ。集めるのには、いろんな場所があるけれども、北の大地にある神聖な場所と言えば、おそらく……。


「よし、そろそろ地上に降りるからな。着地の時の衝撃に備えてくれ」


「はぁ……。おじさん……。初対面の女の子に向かって、いきなり乱暴が過ぎるでしょ? あと、速すぎるし……。乱暴で速すぎって。それって一番女の子に嫌われるよ?」


「すまん。すまん。久しぶりに楽しくてのぉ」


「自分だけ楽しむのもNGだし。やっぱりおじさんモテないでしょ? そもそも、歳の差が何歳なるのよ。少女を虐めて楽しむなし。ばか」


 リナは、相変わらずドラゴンと打ち解けているようだった。散々『ハゲ』と罵っていたドラゴンの頭をぺちぺちと叩いている。キモいって言ってたのに、意外と楽しそうにしてる。

 その間にドラゴンは、ゆっくりと地上に降りていく。地上に近づいてくると、綺麗な湖が目に入る。

 資料で見たことがある。ここは、北の山脈からの雪解け水によって作られた湖の一つだ。神聖な土を手に入れるとしたら、やっぱりここなのだろう。


 ドラゴンは湖のすぐそばへと降り立った。



「二人とも、お疲れ様じゃ。ここでゴーレムの素材を採取すると良いぞ」


 綺麗な泉。その後ろには、先ほどまでいた白く高い山が見える。一瞬で降りてこれたんだ。ドラゴンってやっぱりすごいな。ちょっと乗ってるのはつらかったけれども……。

 リナは、身体を伸ばしながら、口を開いた。


「まぁ、何はともあれ。ありがと、おじさん」


 素直にお礼も言えるリナ。やっぱりこういうところは可愛いところだよね。なんだかんだ、やっぱりいい子なんだよね。笑った顔も可愛いし。


「けどさ、飛ぶのは荒いから、今度乗るまでに改善しておいてね。おじさんって、どうせ暇なんでしょ? 私たち専用ね!」


「ガッハッハ。ヌシは本当に面白いのぉ。そうじゃ、ワシは暇じゃから、どこにでも付いてってやろう」



 ……リナ。やっぱり、この子は、こういう子だ。無礼とかじゃなくて、こういうモノなんだね。ドラゴンさんが良いドラゴンだったからよかったものの。はぁ……。

 受け入れてくれたドラゴンに対して、リナは近づいていって、頬に軽くキスをした。

 小さな女の子のキスって、傍目から見ると可愛いな。実際に自分がされてみると、ドキドキしてしまうけれども。ドラゴンの方も、まんざらではない顔をしていた。



「では、わしはこの辺りで待っておくからの。また移動するときは言ってくれ」


「おじさん、ありがとね! じゃあ、おばちゃん行くよ! ゴーレムの素材集めに!」



 人に壁を作らないような物言いというのか、壁があってもそれを壊して心に近づいてくるような感じ。この子って、ただ生意気なだけじゃなくて、本当はすごいのかもね。

 思ったものを、なんでも手に入れちゃうんじゃないかって、思ってしまう。

 ドラゴンと仲良くなってくれたっていう借りもあるわけだから、私もしばらく強力してあげるか。

 私は先に歩き出しリナに追いつき、肩を抱くように寄り添う。



「分かったよ、リナ。ゴーレムの素材集め、協力してあげるよ」


「はぁ? 『協力してあげる』って、何でおばちゃんが上から目線なのよ? 処女をこじらせて、私みたいな可愛い少女に手を出すなんて変態なのに」



「はいはい。私は変態だからね。二人きりの時は、ちょこちょこ触らせてもらいながら、協力しようかな?」


「ば、ばかじゃないの、本当に触るなんて! ゴーレムが出来上がったら、おばちゃんをとことん虐めてやるからな!」


「ふふふ。それは、望むところだよ。私の処女を奪ってくれるような。イケメンゴーレムを作りましょ!」

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