第10話 ゴーレムを作る理由

 リナはドラゴンの背中に跨った。手配書くらいでしかドラゴンを見たことなかったが、思ったよりも小さい生物らしい。人間と比べたら、それは大きい訳だけれども。ドラゴンに乗れるのは、一人か二人が限界というくらいの大きさ。

 ドラゴンは、リナが乗りやすいように低い姿勢を取ってくれていることもあって、なんだかリナがドラゴンを倒したかのような、そんな風にも見える。なんて子なのよ、まったく……。


 リナは、ドラゴンの首のあたりに、ずりずりと登り、ドラゴンの頭頂部を見始めた。



「近くで見ると、さらに残念に見えるね、この頭。これ、見るに堪えないから全部毛を剃るといいよ」


「そうかー……。ワシも思ってたのじゃ。今度剃ってくれぬかのぉ?」



「えぇー……ヤダよ……。おじさん、そんな性癖あるの? キモいし。触りたくもない」


「そうかー……。じゃあそこにいる、もう一人の娘に頼むか。今度よろしくお願いしたい」



「……へっ?……私ですか?」


 ドラゴンは、私に話しかけているんだよね……? 優しい雰囲気で、甘いフェイスでこちらを向いてくる。頭の毛がどうとか言っているけれども、そんなの気にならないくらいカッコいいし……。もうなるようになれよね。


 私は、ドラゴンの背中から回り込んで、跨りながら答えた。


「わかりました。私が剃ってあげます。綺麗にイケメンな顔が見えるようにしてあげますね」



「ガッハッハ。ワシのことを、イケメンと言ってくれるのか。お前も、面白い人間だのぉ」



 なんだかんだ、このドラゴンって、人当たりの良いドラゴンっぽい。私とリナは、なんだか気に入られたのかな。砕かれた希望が上手くくっついたみたい。運命の糸により、上手く縫合してもらえたみたい。日頃の行いが良いからだね、きっと。


 私は、ドラゴンの背に掴まる。

 ドラゴンの背中は、見た目はゴツゴツしているけど柔らかいし、温かい。伝説の生き物かと思っていたけれども、ちゃんと生きているんだね。ふふ、敵意が無いと分かったら、とっても良いドラゴンンに見えるね。ちょっと良いかも。頬ずりしたくなっちゃう。



「……ルナと言うものよ、ワシの身体を愛でてくれるのは嬉しいが、羽を広げるのに当たってしまうから、少し前の方へ詰めてくれるかの」


「え、あ、はい……。そしたら、リナ、ちょっと身体当たるけど、ごめんね」


 ドラゴンの背で、リナにくっつくように座る。乗せてもらうから、狭いとか言ってられないしね。触ってしまっても不可抗力。ふふふ、やっぱり、リナの身体の方が柔らかいな。なんだか、ドラゴンに殺されないと分かったら、ここは天国みたいなところだね。



「おばちゃん。変なことしないでよ? ちょっと気を抜くと、危ないんだから」


「ふふー。もう、なんだか、良い気分になってきちゃったな。リナのおかげで、ハラハラドキドキだったんだよ、まったくさ」



「……って、やっぱり触ってきてるし! おばちゃんも、絶対後で訴えるからね!」


「はーい。もう、死なないと分かったら、怖いもの無しよね! リナちゃーん。ふふ」



「おばちゃん、発情するなし! もうーー!!」



「ははは。二人は仲が良いのー。そろそろ行くぞー! ちゃんと掴まっておれよ? 飛び立つぞ!」



 ドラゴンは、鋭い翼をバサバサと羽ばたかせて飛び立つ。一度羽を動かすだけで、すぐに上空へと飛び上がる。二回三回と羽ばたくと、雪原がどんどんと下の方へと遠ざかっていく。


「す、すごい! 高いよ!」


「わぁー、おばちゃん見てよ、前! すごく綺麗だよ! 見える? この山の全体が見えるよ!」


「本当だ! さっきの雪原も綺麗だったけど、もっと綺麗……」



 高く飛び上がったドラゴンの背から見える北の山は、霊峰と呼ばれてるだけあって、神聖な場所。本でしか見たこと無かったけど、実際に見るとそう呼ぶのも頷ける。誰も立ち入らないからなのか、雄大な自然が広がっている。


 さっきまで死にそうな気持ちだったからか、今まで生きてきた中で、最高の開放感。それもこれも、実はリナのおかげかもね。目の前の小さな少々。不運かと思ったけど、意外と幸運の女神なのかもな。

 いきなりギルドに来た時は、びっくりしたけど。 なんかゴーレム作りたいとか言っててさ。


「……あ、そういえば。リナって、なんでゴーレム作りたいんだっけ? ギルドに来た時言ってたよね?」


「……はい? そりゃあ、作りたいからに決まってるじゃん? そんなの愚問だよ。『おばちゃんは、なんで男の人と付き合いたい』って質問と同じくらい愚問」



「なんで私が男の人と付き合いたいかって。そりゃあ、本能かな?」


「いや、だから聞いてないんだって。なんか答えがダサいし。キモいし。マジメなの?」



「相変わらず酷い言い方。リナは、そういうの無いの?」


「そんなの前世で、済ませてるよ……」


 リナは、なんだか寂しそうな声をしているように聞こえた。威勢のいい憎まれ口を叩くのが心地いいのにな。前世で何があったか分からないけれども、生まれ変わる前も同じ性格だったんだろうと思ってたけど。違うのかな?


「だから、私はゴーレムを作りたいの。おばちゃんの答えと一緒だよ。私の答えもダサいし、キモイの」

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