第9話 ドラゴンの背に乗る

 目の前のドラゴンは、凛々しい顔を引き締めている。

 あぁ一……。リナのせいだ……。なんで相手の気分を逆なでするのよ。それをやって、ギルドマスターを怒らせてしまったっていうのに。

 まだマスターは優しいから、直接殺されなかったけれども。今度こそ、本当に終わったわ。もう、天国への扉が開いたわ。私も、開いた口が塞がらないよ……。


 ドラゴンは、睨んでくる。

 キリっとしてて、カッコいい顔を最後に見せてくれてありがとうございます。はぁ……。



「ヌシは、面白いことを言うな。ワシに頭を下げろと言うのか?」


「そうそう、おじさん理解が早いじゃん。意外と賢いの? 早く頭下げなよ?」


 はぁ……。やっぱりもうダメだ……。



 ……って、あれ?


 いきなりは殺されない? もしかして、こっちの言い分は聞いてくれるのかな。ドラゴンさんは、心が広いってことかな?



「もしかしてさ、おじさんは頭皮が薄くなってるとか? だから頭を下げて頭頂部が見せられないの?」


 リナの質問に対して、しばらく答えが返ってこない。不自然な間が訪れた。これって、きっと、力を溜めているんだ。全力で私たちをヤル気だ。オーバーキルが待っているのね。


 すると、唐突にドラゴンは笑い出した。



「はははは。その通りじゃ! よくわかったのぉ」



 ……あ、あれ?……笑ってる?

 あれかな。人って怒りが振り切れると、笑っちゃうんだよね。ははは。

 ドラゴンが笑うなんていう、珍しいところが見えたよ。これで私は、一瞬で天国に行けそう。



「はははは。じゃあ、ハゲ見せてよ。お願いしまーす」


 リナは、「お願いする時はアタマを下げろって」言ってただけあって、自らも頭を下げてお願いをしている。そこは素直なんだね。良い子なんだか、悪い子なんだか。

 ……いや、悪い子だ。自分の頭頂部を隠すような仕草をして、完全におちょくってるわ。ははは。もうどうにでもなぁれーって感じです……。


 峰の上にいたドラゴンは、こちらまで飛んできて、私たちの前に降りた。そして、四つん這いになったドラゴンは、足を折り頭を地面につけた。



「ヌシらは、本当に面白いのぉ。あらためてワシからのお願いじゃ。ワシと友達になってくれ。この通りだ」


「ははは、本当だね。髪の毛薄!」



 ドラゴンはカッコいい顔を崩して笑ってる。


「そうじゃろ? ワシも歳だからハゲてしまってのぉ。ヌシらは、毛生え薬でも持ってないか?」


「え、おじさん、そんな歳して髪生やそうなんて。もしかして色気づいているの? 変態じゃん」



「ははは。いつまで経っても、男という生き物は現役なのじゃ!」


「いやー……。キモ……。私みたいな子供に、それ言う? 相当ヤバい性欲モンスターだよ」



「ガッハッハ。ワレは最強のモンスターじゃからのお」


「ははは。やっぱりハゲって、そういうところあるよね」



 ……えっと。リナとドラゴン。なんだか打ち解けてるのか?

 ドラゴンをおちょくるような、こんな際どいやりとりが飛び交う状況で、私はどう過ごせばよいでしょうね。この会話に混ざって話すなんて、命がいくらあっても足りなさそうだし。

 そうね、綺麗な景色でも見て心を和ませることしか、今の私にはできない訳で。遠くを見ると視力が上がるというし、ちょっと遠くを見ておきましょう。来世に向けて、先見の明を鍛えておかないと。

 あぁー……、やっぱり綺麗だね、この山って。私の最後の場所にするにはもったいないくらい綺麗。




「……ねぇねえ、おばちゃん聞いてた? こいつのセクハラひどいんだけど。訴えたら勝てるよ?」


「いえいえ、私たちは、どうやったってドラゴンさんには勝てないのよ。素直に運命を受け入れなきゃ。もう何をされても、私は受け入れますよ。イケメンだし、人語も喋れるし。そんな人には、むしろ罵られて、乱暴にされるくらいが本望……」



「……はぁ? 何言ってるの? あぁ、そっか。こっちのおばちゃんも変態だったっけ。とりあえず、早く行こうよ。このおじさんが連れてってくれるって」


「……ほぇ? 連れてってくれる? 私に未知の領域を見せてくれるってこと……? そんな、ドラゴンさん。初体験なのに、私にそんなことまでしてくれるってことなんですか……?」



 ……って、あれ?

 リナと、ドラゴンは白い目でこちらを見てきてる? 私は、正直に自分の願望を言ったまでで。イケメンドラゴンさん素敵だし……。色々されても良いし……。もう先の短い私にとっては恥なんて無い訳で。



「おばちゃんは、こじらせ過ぎ。早く良い相手見つけなよ。このおじさんが私たちを連れて飛んでくれるって。ゴーレムのパーツ探し手伝ってくれるんだって」



 リナはそう言うと、ドラゴンの背中の方へまわると、ドラゴンに抱きついた。

 一体、どういうこと……?


「あぁ、任せろ。ワシは友のためなら人肌脱ぐぞ!」



「おじさんの発言は、ずっと変態だね。勝手に脱ぐなし。というか、ずっと裸じゃん。露出癖はヤバいって。今度服選んであげるよ」


「ガッハッハ。露出癖がバレたか! なかなかいいものだぞ!」



 寒い雪山で見る走馬灯なのかな、これって。リナとドラゴンはやっぱり仲良さそうにしゃべってるし……。


「おばちゃん! 早くこのおじさんに乗ってよ! ゴーレムパーツ集めに出発するよ!」

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