第6話 マスターの怒り
リナからの誘惑を断ち切るべく、マスターへ一縷の望みをかける。自分の手で頬をはたいても、正気に戻れないなら、マスターに思いっきりはたいてもらうしかない!
私は、マスタ一の膨らみに手を近づける。
小さいころから一緒にいたけれども、触ったことなんて一切ない禁則地域。そこは神聖な場所。美麗な景観を守るべき場所。
二つの霊峰。
そこに私は踏み入ろうとしている。さすがにいきなり触るのは度胸が無いため、
くびれの時点で、もう柔らかい。そのまま上へと手を滑らせていくと、マスターの身体つきがよくわかる。引き締まって入るけれども、繊細で。女性の身体とはこうあるべきという曲線フォルムが上の方まで続いている。
進んでいくと見えるのが、白くそびえたつ柔らかな独立峰。その頂点を目指して、私は手を登らせていく。二つの霊峰の
――ふにふに。
――ふにふに。
……こんなところに、天国はあったんだね。
……私は、もう死んでも良いです。
――ふにふに。
――ふにふに。
「……えっと、ルナ? 何しているの?」
「マスターの山登りに挑戦をしています。まだ
「……それって、覚悟はできてるって受け取っていいのかな?」
「……は、はい。けど、もうちょっとだけ。頂上にあるマスターの、マスターピースをゲットするまでが、私のクエスト」
――パチーーーーーン!!
「いっっっったーーーーーーーい!!!!」
「当たり前でしょ! 何やってるのよー!」
「はははっ。何やってるのおばちゃん」
マスターからの痛烈なビンタは、目を覚ませてくれる。
私の望み通り、思いっきり叩いてもらえたけど、思っているより何倍も痛かった。耳の中は、グワングワンと響いて音が鳴りやまず、頬もひりひりして痛みがずっと続いてる感じ。
「ほんと、何やってるの!!」
「うぅ、ごめんなさい……」
私の行動は奇行に見えるかもしれないけれども、冷静さを取り戻すには、これしかなくてね……。
さっきのリナの罵り言葉といい、私の手を取ってくる行為といい。この子、自分で気づいていないけれど、相当な魔力を秘めているんだと思う。
リナ罵り言葉は、攻撃力を高める効果があるみたい。簡単に漏れ出た言葉だけで、戦闘経験の無い私がカウンターを破壊できるくらいのバフを与える。
肌を見せることで、誘惑の効果があるんだと思う。理性が飛んでしまうところだったよ。あのまま魅了にかかっていたら、この子に何をさせられていたことだか……。
身をもって体感させてもらったけど、かなり凶悪。自分でも気づいていないっていうところも、さらに厄介さを増している。こんな子を一人にさせていたら危険……。
「マスター聞いてください。このリナって子、危ないです!」
「……ルナ、今日のあなたが一番危ないわよ。カウンターを破壊して、それで小さい子と交際宣言もして。さらに私への行動」
「い、いや……、この子の能力が、そうさせてくるんです」
「おばちゃん。いいから、早くプラモデルの材料集めのクエストしようよー」
「リナ、あなたは黙ってて! 口答えすると、SS級クエストに送り込むわよ!」
「何それ? それが材料集めのクエスト?」
マスターはリナに優しいまなざしを向けて、うんうんと頷いている。その一方で、私の方に目を向けると、冷たい表情へと変わった。
そして、掲示板の一番上に貼ってあったクエスト受注書をとって、机に叩きつけた。
「ルナ? やっぱりあなた、オカシイみたいよね。しばらく、頭を冷やしてきなさい? 私への謝罪の気持ちがあるなら、このクエストをクリアして帰ってくることね」
マスタ一が置いたのは、誰も手に取ろうとしない、古くからこのギルドにあるクエスト。長い間貼ってあったので、色褪せてしまっている。
「これ、行ってくれる人がいなくて、困っているの。そろそろ期限が近いしね。ちょうどあなたたちみたいな若い人たちが適任だと思うんだ。行ってきて欲しいな?」
「いや、これって、難易度SSの討伐クエスト……」
「で? だから? 丁度いいでしょ? 素材もわんさか手に入るわよ。生きてクエストクリアできればね」
マスターは語気を強める。怒りによって、部屋が一気に冷やされているよう。私は、マスターからの冷たい視線に凍り付いて動けないでいると、リナがマスターに向かっていった。
「マスターさん。あなた、頭悪いんですか? 私が集めたい素材は、『ゴーレム』です。その手配書に書いているのは、ドラゴンですよ?」
こんな空気の中、マスターに歯向かっていくなんて。怖いもの知らずにもほどがあるよ……。ゴーレムを組み立てるなんて、今はどうだっていいよ……。
リナはマスターに向かって言葉を続けた。
「大体、身体を触られたくらいで、怒るなんて。マスターって、もしかして処女ですか?」
ギルド全体が凍りつく音が聞こえた気がする。
このギルドでは暗黙の了解になっていることがある。絶対にマスターを怒らせてはいけないのだ。マスターを怒らせると、上級ハンターでさえ手に負えないという噂がある。親しい仲の私だったから、頬が腫れるくらいで済んだけれども……。
「マスターが処女だとしたら、私よりも子供ですね!」
以前、マスターを怒らせたハンターが姿をくらませて、未だに見つかっていないと聞く。活動しているという噂も聞かなければ、目撃情報さえ無い。
――ピキピキ。
マスターのこめかみに、くっきりと紋章のように血管が浮かび上がった。マスターの後ろの空間が歪むのを感じた。
それでも、リナは続ける。
「ははっ。怒ってる。やっぱり図星ってことだ。マスターって、ざこですね。ざぁーこ♡」
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