第4話 メスガキと結ばれる
ギルド内の人には見えないように、こっそりとこちらに向けて胸を見せてくるリナ。
リナのそれは、とても綺麗な色をしている。見なければ良いものの、私の目はくぎ付けになっていた。
「これで、言い逃れできないですね。おばちゃん。しっかり見ちゃって、変態だぁー」
さっきと同じ罵り言葉だけれども、先ほどまでの怒りが湧いて来ない気がした。すごく得をした気分になって、それでいて背徳感と満足感が同時に押し寄せてくる。
こんな小娘のそれ。そんなものに興味なんて無いと思っていたけれども、いざ見せられると目を離せない。ずっと見ていたい気分。むしろ触りたいという衝動が押し寄せてくる……。
「はい、おしまいー!」
そう言って、リナは胸をしまった。ニヤニヤとこちらを眺めているが、少しだけ恥じらいがあるのだろうか、顔がほんのり赤くなっていた。
……可愛い。
「あぁー……、終わりか……」
ついつい口から、そんな言葉が漏れ出てしまった。マスターは私の言葉を聞き逃さなかったようで、ピクッと頬が引きつっている。
「ルナ。今の発言は、自分のやったことを認める発言ととらえていいのかしら?」
「いや……、えっと……、違います! 私は別にこんな小娘の胸なんて見たくないです!」
リナが間髪入れずに言ってくる。
「おばちゃん、がっつり見てたじゃん。ほら、もう一回どうぞー」
そんな言葉を聞くと、やはり目は吸い寄せられてしまう。そこにあるのは、やはり綺麗な色をしている、それだった。さっきよりも、目に焼き付くようにまじまじと見てしまっている私がいる。
いや、わかるの。これは罠だってわかっているし、私はそんなものに興味はないはずなのに。見てしまう……。それくらい、綺麗な物だった。
リナは、先ほどと同じく顔を赤らめている。それはもう、なんだか、抱きしめてしまいたいくらい愛おしく感じてしまう。何でだろう、私どうしてしまったんだろう……。
リナは、すぐにサッとしまってしまった。
「あ、あぁ……」
また声が漏れ出てしまった。それを聞いた隣にいたマスターからは、軽蔑の目を向けられる。
……悔しい。この、リナっていうこの思う壺だわ。私のことをおちょくって、ハメて。何が目的なのよ……。
「ルナ? もう言い逃れはできないみたいだけど」
「い、いや、違うんです……。あの子が、無理矢理……」
マスターは軽蔑を通り越して、哀れみの目で私を見ているようだった。身寄りのない私に対して、今まで優しくしてくれていたのに。ギルドにも置いてくれたのに……。
そんな優しいマスターからは、見たこと無い眼差しがむけられる。
他にも、ギルド内にいたハンター達からも、鋭い視線がむけられているのがわかる。視線が痛い……。
その中で、一人だけニヤニヤ顔のリナが口を開いた。
「マスター、このおばちゃんは悪くないです。このおばちゃんは、私のことが好きみたいなんです」
ギルド内から、驚きの声が上がった。それと同時に、悲鳴にも似た声も聞こえた。
「今まで、恋を知らないっぽいんですけれども、なんだか私に恋しているみたいです!」
「なっ……、そんなこと……」
「私も、別に拒否はしないです。おばちゃんでも、私を受け入れてくれるなら、私は喜んで一緒になります!」
「は、はぁーーーーっ!!?? 何言ってるのよ!!」
本当になに言ってるのよ、この子。服装からしておかしいかと思っていたけれども、やっぱり普通じゃない。私は何かハメられているみたい……。
私の気持ちとは裏腹に、マスターの表情は和らいでいった。私の肩に手を当てて、喜んでいるようだった。
「あら、そうなの、ルナ? そうだとしたら話は別よ。おめでたいことだわ」
「い、いや、違うんです。この子が勝手に……」
マスターは、私に優しくハグしてくると、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「ルナ、恥ずかしがらなくていいのよ。人を好きになることに、歳も性別なんて関係ないんだから。相手も受け入れてくれていることだし。せっかくだから、ここにいる皆さんに伝えましょう! ルナは、私の娘みたいなものだからね、すごく嬉しいわ」
マスターはカウンターから一歩前に出ると、ギルド内に響くような声で伝えた。
「皆さん聞いてください! うちのギルドの看板娘のルナが初めて恋をしたみたいです! 相手は、ここにいる幼い少女です!」
「いやいやいやいや……、マスター違うんですって……」
リナは、マスターの言葉に答えるように、マスターの隣に立つと礼儀正しくお辞儀をした。まるで、準備していたかのように、何の迷いもなく。
「私は、リナと言います。今日から、こちらのギルドの受付嬢のルナさんとお付き合いすることになりました。ふつつかものですが、よろしくお願いします」
なにが、
――パチ、パチパチ。
――パチパチパチパチ。
ギルド内から、拍手が上がった。
「そうだったのか! おめでとうー!」
「ルナにも、やっと良い相手が見つかったんだな!」
「良かったなー! 応援するぞー!」
ギルド内のハンターから、祝福の声が飛んできた。
その声と一緒に、リナは私と腕を組むと、カウンターの前に連れ出した。私の方をニヤニヤ見ながら言ってくる。
「これから、よろしくお願いしまーーす!」
「は、はぁーーーー??!!」
それからしばらく、拍手は鳴りやまなかった。
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