第3話 メスガキによるバフ

 ニコニコしている綺麗な少女、リナ。

 裏からギルドのマスターが出て来たと思ったら、この表情に変わったの。私のことを煽っていた時の表情とは違って、なんだかうっとりした顔をしている。


「あなたがギルドのマスターなんですか? すごく若く見えるのに、ここを仕切っているってことですよね? すごいです!」


 リナは胸の前で小さく拍手をする。

 よれたシャツがふわふわっと揺れて、胸元がチラチラと見え隠れする。小さな膨らみが、こっちを見ろといわんばかりに、ひょこひょこと顔を出して挑発してくるよう。

 私は挑発になんか乗りたくないけど、ついつい目がそちらの方向へと吸い寄せられる。


「チラチラと胸を見てくる、そこの変態とは大違いですね」

「なっ……」


 ……こいつ。しっかり見せてきておいて。やっぱり罠だったか。

 気付かれてるなら、服をひんむいてガン見したいところだけれども、マスターが出て来ちゃったから。そんなこと私にはできない。


 リナを見ないように、マスターの方へと向きを変える。すると、マスターの顔は私のすぐ隣まで来ていた。近くで見ると、マスターの肌もツヤツヤとしていて若々しく見える。

 リナとマスター、肌のツヤまではイーブンだとしても。マスターには、小娘には無い大人の色気がある。

 マスターは、リナと似たような胸元が少し開いた服を着ているけれど、手には収まりきらないくらいの、形の良い膨らみがある。これは、雲泥の差だわ。

 リナと違いを見比べていたら、マスターの方の膨らみへと瞳が吸い寄せられる。やっぱり勝者は、圧倒的にマスターね。


「このカウンター、結構高いのよ? ルナが壊してないとすると、この娘なのかな?」

「そ、そうなんです。このリナという子が……」


「は? 違うでしょ。あんたが勝手に壊してたでしょ? 嘘つかないで。汚いおばさんだね」


 ……また、罵りやがって。

 もしも私にお金があったら、数百人規模でハンターを雇ってこの子を集団で痛めつけている所だわ。借金をしてでも実行してやろうかしら、今すぐ。

 けど、とりあえず落ち着こう。マスターの誤解を解かないとだな。


「すいません、マスター。正確に言うと少し違います。この子が私にバフをかけてきまして、勢いあまって。私がカウンターに触れた瞬間壊れてしまったのです」


 苦し紛れに、なんとか説明する。私の言っていることは正しいと思うけれども……。


「なるほどね。ルナが、このカウンター壊せるほど力は無いものね。例え手練れたハンターでも、武器も持ってない状態だと、壊すのは難しいものね」

「そうなんですよ」


 何とか、私の説明は通じたらしい。マスターは私に優しい顔を向けて頷いてくれた。

 そして、リナに向かって少し敵意のある目を向けた。



「お嬢さんは、どうやってバフをかけたのかな? ここを一撃で壊せる力を与えるって、相当強力な補助魔法だよ。さっきやったことを教えてもらえるかな?」


 マスターの一声に、リナはうんと素直に頷いた。リナのあからさまな態度の変化にも、相当イラつくけれども。これで、リナが悪いっていうことが証明されるわ。ざまぁみなさい。マスターの前では嘘なんてつけないのよ!



「私がさっきされたのはね、このおばちゃんに胸を見られたことだよ」


 …………えっ?


「このおばちゃん、私の胸を見てきてね、って言ってたの」


 …………はっ?


「それでね、最後は私にね、ハァハァと息を吹きかけてきて。名前を教えてよって言ってきてね。それで痴女みたいな振る舞いをしてね」



 …………。


 …………怒りっていうのは、六秒間我慢したら消えるから。頭の中で数を数えよう。マスターの前でブチ切れたところなんて見せられない。



「周りにいるハンターさんに聞いてみてください。多分私たちのやり取りを聞いていたはずだよ。私が、このおばちゃんに向かって、痴女ーって言ってたりするの聞いてたと思うよ?」


 マスターは、リナの話を半分くらいしか聞いていなかったけれども、若干の疑いの目を私に向けて来た。もちろん、私は首を横に振る。


「まぁ。嘘だと思うけれども、ちょっと聞いてみようか。うーんと、信頼できそうなブソーさんがいるわね。この子の言ってる通り、『痴女ー』って言ってましたか」



 呼びかけられたブソーさんは、こちらの方を向いた。

 兜を深く被って丸いテーブル席に座っていたブソーさん。少し遠いけれども、こちらの話がほんの少しだけ聞こえていたのか、うんと頷いた。


「その子が、痴女だの、やめてくださいだのと言ってるのは聞こえたぞ。それで、柄にもなくルナも顔を赤らめながら、その子を見てるようだったぞ」


 ……ちょっと、否定はできないけれども。


「ルナ、そうなの?」

「いや、半分本当ですけど、半分違っていて……」


 しどろもどろ答えていると、リナが私のことを向いてニヤニヤとしていた。

 多分、こいつのこういう態度によって、私の攻撃力が上がったのだろう。すごい才能だよ。今なら、光の早さでパンチが放てそうだよ。


「じゃあ、確かめてみましょ。他の人に見えないようにね。よいしょ……」


 リナは前かがみになり、胸の突起が見えるようにしてきた。

 拒絶したい気持ちはあるけれども、私はついつい見てしまう。綺麗なピンク色をしている二つの突起を。

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