第8話小牧長久手の戦い
「秀吉軍勝利」長期戦からの電光石火の決着に驚く兼続。
景勝に報告しようにも、景勝は新発田討伐に忙しく柴田との戦いに協力できませんでしたというアリバイ工作のため新潟まで出陣している。
そこに秀吉からの使者、勝利を伝えるとともに
「なぜ盟約どおり、柴田の背後を衝かなかったのか。上杉の違約で盟約は白紙に戻った。この後、新たに盟約を結びなおすのか。それとも、われらと戦うおつもりなのか、この後のため上杉の存念を承りたい」という書状を携えてきた。
狩野秀治に相談する兼続。
「織田政権の後継者になった。上杉の生殺与奪の権を握ったと通告して来たのじゃろう。やることも信長そっくりじゃ。自分が困っているときはへりくだり、有利になれば居丈高じゃ。滅ぼされたくなかったら臣従せよと言うて来ておるのじゃろう。さて、どうするか。御実城様には至急、戻ってもらわねばならぬ」
「一刻を争うやもしれませぬ。それがし今から北の庄城に行って参ります」
柴田を滅ぼした秀吉は北の庄城に陣を構え、北陸の平定を進めている。
北の庄城は激戦の跡も生々しく天守閣の残骸が焼け焦げている。
秀吉の本陣に行くと石田佐吉三成が待っていた。
「直江殿、よう来た。今、上様は佐々成政と会っておる。佐々も降伏した。これで柴田の後始末はついた」
上様?上様って信長のことじゃないの?まさかと思うけど信長が生きておるのか?
「あの上様とは、どなたの事ですか。信長公ですか」
きょとんとする石田。そして大爆笑する。
「相変わらずじゃのう、そなたは。われらは柴田を破り、秀吉公は信長公の後継者となった。だから、呼び方も上様になったじゃ。ちなみに信長公のことは総見院様と呼ぶことになっておる」
ふーん。相変わらず、緻密じゃのう。
兼続の席が用意される。弁当が運ばれて来た。
「しかし、わが軍の部将は総見院様の家臣で上様の同僚じゃった者ばかりじゃ。上様の天下人面を片腹痛いと思っておる輩も多い。それ故、われら身内から上様とお呼びして、みなに周知せねばならないのじゃ」
ふーん。
「ところで盟約が白紙に戻った云々という書状を頂きました。その真意は那辺にあるのですか」
すこし抗議の意を含めながら問う。
「われらは上杉殿に臣従して頂きたい。人質も出してもらいたいと思うておる。それが嫌なら戦うだけじゃ。佐々成政は、今でも新発田重家と連絡を取りあっておる。佐々と新発田で上杉を挟み撃ちにしたいと、今ごろ上様にお願いしておるところじゃろう。もともと、総見院様の戦略では、そういうことになっておった」
落ち着け、落ち着け。石田の手に乗ってはいかん。そこに秀吉がやってきた。
「おお、直江殿。よう来た。よう来てくれた。北陸まで来たからには、そなたの顔を見たいと思っておったところじゃ。以心伝心じゃのう。わしに仕える決心はついたか。ゆくゆくは国持大名に取り立ててやるぞ」
相変わらずの秀吉である。
「こたびの大勝利おめでとうございます。おっつけ正式な賀使が来るでしょうが、取るものもとりあえず参上いたしました」
「こたびは丹羽長秀殿、前田利家殿に勝たせてもろうた様なものじゃ。上杉殿にも助けてもらいたかったがのう」
すこし嫌味を言われるが気がつかないふりをする。
「あまりにも突然の戦局の変化に戸惑いました。いかなる秘策があったのですか」
話を変える兼続。
「おお、実はわしも困っておったのじゃ。柴田が山の上に陣地を作って、こちらから挑発しても、全く動かない。その間に、北伊勢の滝川一益が息を吹き返し、美濃の織田信孝様も策動を始めた。柴田は、われらの大軍を北近江に釘づけにして、わが軍の乱れを待つ戦略じゃったのじゃ。これをやりきられておれば、この戦どう転んでおったかわからんかったのう」
「そこで、わし直々に信孝様を討つと軍を率いて岐阜に出陣するふりをして隙を見せた。柴田の先鋒は、豪勇の佐久間盛政じゃ。さっそく食いついて前線の砦に攻めかかってきた。今回の戦、本気のものは柴田とわしだけじゃ。他のものは勝ち馬に乗りたいだけ、それ故、局地的な勝利を挙げれば雪崩を打って寝返る者が続出すると佐久間盛政は読んでおったのじゃろうな」
「大岩山砦を落とされ中川清秀が討ち死にした時は危なかったが、丹羽長秀殿が助けに来てくれた。大垣まで進出しておった、わしもすぐさま取って返した。最初から、そういう計画じゃ。しかし山崎の合戦と同じく走ってばかりのわが軍は、戦場についた時点で疲労困憊しておる。せっかく撤退しておる佐久間盛政を追撃しておるのに、どうにも足が重い。佐久間に逃げ切られると思うた時、前田殿が急に撤退してくれたのじゃ」
「佐久間盛政の先鋒と柴田勝家の本陣の間に陣を構えておった前田軍が急に撤退したのじゃ。佐久間から見れば、本陣が崩れたように見えるし、柴田から見れば先鋒が崩れたように見える。これで柴田軍は総崩れとなった」
成程、そういうことじゃったのか。やはり近しい者同士の戦いは他人の窺い知れぬところがあるのう。
「実は前田は、わしが柴田勝家を助命して高野山にでも登らせるのではと思うておったようじゃ。仲良くはないが、何しろ付き合いが長いからのう。わしも前田にそう思い込ませていた。しかし、そうはいかんのじゃ。決めるところは決めないと却って戦乱が長引くことになる」
秀吉の顔が厳しくなり兼続も緊張する。
「すでに信孝様のお命も頂戴した。信雄様に自殺を強要していただいた」
「これを見よ」
「昔より主をうつみの野間なればむくいを待てや羽柴筑前」
「これは何ですか」
「信孝様の辞世じゃ。源義朝公の故事を踏まえておる。いつか頼朝公のようなお方が現れて、わしも滅ぼされるかもしれぬ。しかし、わしはこの修羅の道を進まねばならん。総見院様に土民の中から見出されたわしには、総見院様の大業を継いで完遂させる使命があるのじゃ。戦乱の世を一刻も早く終わらせて万民を幸せにする太平の世を開かねばならぬ」
崇高なお考えじゃ。
「そこでじゃ、太平の世を開くために、そなたたちにも協力してほしいのじゃ」
「それが臣従せよ、人質を出せというお話になるのですか」
「わしは毛利にも、わしを怒らせるなという書状を書いておる。まだ出してはおらぬが。なぜか、分かるか」
突然、毛利のこと言われても困るのう。
「わしの支配地域は、山城・丹波・丹後・大和・河内・和泉・摂津・志摩・近江・伊賀・尾張・美濃・若狭・越前・加賀・能登・但馬・因幡・播磨・備前…畿内・中国・北陸など二十ヵ国に及ぶ。ざっと計算して六百万石、動員可能兵力は十五万人じゃ」
佐々成政の越中を外している。何か意図があるのじゃろうか。
「これから、わしが戦場に連れて行く兵は十万を下るということはない。日本国中、わしに勝てるやつは誰もいない。全国平定も時間の問題じゃ。しかし、わしにも弱みがある。わが軍の諸将は、みな総見院様のもと、わしの同僚じゃったものばかりじゃ。なかには丹羽殿の様に明らかに格上のお方もおられる。なにしろ、わしの姓の羽柴の羽は丹羽殿から来ておるのじゃからな。さらに信雄様もおられる。信雄様は、信孝様が亡くなった今、天下を取ったと思うておられるかもしれぬ」
「統制が取れないということですか」
「譜代の家臣がおらんからのう。成り上がり者の宿命じゃ。何とかせねばならぬ。今、将軍になるか、関白になるか、考えておる」
なんと。
「幕府を開くのですか」
「将軍様に養子にしていただけるようお願いするつもりじゃ」
なんと。謙信公や信玄公のような名家出身のお方からは出てこない発想じゃ。
「それで、われらに協力せよとは、どういう意味ですか」
「うむ、上杉は東国の名門じゃ。謙信公以来、武勇天下第一の評判もある、知らぬものなき武門じゃ。毛利も西国一の大大名じゃ。この両家がわしに臣従すれば、旧織田家中の者どもも、わしのことを認めるじゃろう」
「だからとはいえ、あまりにも厳しき駆け引きではございませぬか」
「ははっ、わしは人を見て駆け引きしておるつもりじゃ。上杉には、そなたがおる。毛利にも小早川隆景という切れ者がおる。わしの真意が読み取れる男がのう」
ふふん。
「では佐々成政が進言したという佐々と新発田で上杉を挟み撃ちというお話はどうなるのですか」
「わしは、それでも良い。そなたたち次第じゃ」
にっと笑う秀吉の顔の憎たらしいこと。
「とはいえ、直江殿のこと、わしは気に入っておるから、もう少し腹を割ってやろう。先ほど、佐々と会って、あいつの降伏を認めた。越中一国安堵してやった」
「徳川殿には、駿府での人質時代に苛められた孕石元泰とかいうやつを、高天神城攻略の際、捕らえて切腹させたという話がある。あの冷静で度量の大きい家康殿が、そこまでするのじゃから、余程のことがあったのじゃろう。腹に据えかねる、忘れ難いことがのう」
「実は、わしもそうじゃ。佐々に対しては、腹に据えかねる、忘れ難いような仕打ちをされた。わしが総見院様にお仕えはじめた頃、あいつはどこぞの城持ちの息子で馬廻りじゃった。学もあり、総見院様にも一目置かれておった。しかし、わしのことは徹底的に嫌っておった。阿諛追従の輩じゃと言うて散々に苛められた。わしが出世した後も、わしの軍を死地に送り込み手柄を横取りしようとしたこともある」
「手取川の件ですか」
「おお、それもあった」
「そのことを考えると、家康殿は切腹させたが、わしは磔にしてもあきたらないくらいじゃ。しかし、わしは佐々を許した。織田家中一秀吉嫌いで有名じゃった佐々成政を許したのじゃ」
やはり、このお方は大きなお方じゃ。
「勘違いするな。わしは善意で許したのではない。今後の全国平定を見越して許したのじゃ。秀吉には大度量がある。どんな奴でも降れば許すという評判のためじゃ」
それでも凄い。
「しかし先程の会見は失敗じゃった。わしは、昔のことはおくびにも出さず、昔の朋輩じゃ。これからも力を貸して下されと言うた」
「どこが失敗なのですか」
「罵れば良かったかも知れん、と今思うておる」
なんと。
「わしのことを、さんざん馬鹿にしておったが、今の体たらくはなんじゃ。と言うた方が良かったかも知れぬ」
「そんなことを言えば恨みを買うだけではありませぬか」
「いや、逆じゃ。わしが聖人君子のような振る舞いをしたので、あいつの劣等感はさらに深刻なものになったのかもしれぬ。武力だけではなく人格でも負けたとな。あいつは絶対わしを裏切るじゃろう。実は、わしも無意識のうちに待ち望んでおるのやも知れぬ」
なんか、よく分からない話になったぞ。
「佐々は、新発田と組んで上杉を滅ぼし、その後わしに叛く気じゃ。じゃから、上杉殿が臣従して下さった方が、わしには有難い。どうじゃ、そなた、上杉殿を説得できるか」
なるほど。
押したり引いたり目まぐるしく駆け引きするのう。しかし、ここらが潮時か。
「承知いたしました。臣従・人質の件、御意に添うように努力いたします」
カチン。
「ところで、徳川殿も柴田に同心しておるとの噂もありましたが、どのような対策をとられたのですか」
「わし自ら、戦況報告を書いて家康殿に送った。正直に知らせてやった。あのお方は重厚な立ち振る舞いをされるお方じゃ。軽々しいことはなされない」
「家康殿をどのように見ておられますか」
「そなたはどうじゃ」
「本能寺以降の家康殿のなされよう、これほど力のあるお方とは思いませんでした」
「北条と講和し武田の領土を勝ち取り、武田の精鋭も手に入れた手腕は見事じゃのう。さすが総見院様も一目置かれただけのことはあるお方じゃ」
秀吉公も、よく見ておる。
「強敵でございますね」
「いや、強敵を味方にするのが、わしのやり方じゃ。まあ、見ておれ」
秀吉公に会えば、自分の小さいことを思い知らされる。ちょっと劣等感を持つ兼続。
春日山城に戻ってきた兼続、景勝に報告する。狩野秀治も同席する。
「さすれば秀吉は、わしが臣従せねば、佐々と新発田を使って、われらを挟み撃ちにするということか」
「はい。佐々はそのつもりで新発田に使者を送っているようでございます」
「新発田の意気が上がるのう。わしは、夏にもまた出陣するつもりじゃ。早く潰さないと、いつまでも祟られるわ」
「会津の蘆名からの援助を切る算段をせねばなりますまい。その前に秀吉公に誓詞を出し人質を出す準備をせねばなりません」
「人質じゃというても、わしには子がないぞ」
「一門衆筆頭の上条様にお願いするしか、ありますまい」
「さっそくお願いせよ」
「ところで狩野殿、そなた毛利の小早川隆景というお方をご存知か。秀吉公がひどく買っておったが」
尼子旧臣の狩野、何のためか分からないが毛利研究は怠らない。目を輝かせて話す。
「元就の三男で、毛利の山陽道の大将でござる。秀吉が高松城から撤退する時、追撃を主張する兄・吉川元春などを抑えたそうで、そのため秀吉から高く評価されておるようじゃ」
「秀吉公に天下を取らせたお方というわけですか」
「毛利の当主・輝元は、元就の孫じゃが気のいいところが取り柄の凡庸なお方じゃ。しかし二人の叔父吉川元春と小早川隆景が、しっかり毛利を支えておる。わしは気に入らぬが公平に見てかなりの人物じゃ」
小早川隆景、覚えておこう。
直江屋敷に戻った兼続、蘆名に送り込んだ細作の報告を聞く。それにしても越後の国は大きいのう、国境を接する敵も多い。北から最上・伊達・蘆名・北条・徳川・佐々。そうじゃ、真田も何やら怪しげな動きをしておるようじゃの。調べさせねばなるまい。ただでさえ新発田の内乱をかかえておるのに、これ以上家中が乱れれば命取りになる。
兼続が、後ろに控える三七に指示を出そうとした、その時、部屋の襖がぱたんと倒され、薙刀を持った侍女たちが乱入してきた。なんと、上杉の中枢まで敵の手が及んできたのか、兼続、咄嗟に応戦しようと佩刀に手を伸ばすが、すでに薙刀の刃先が頬に当てられ動きが取れない。部屋にいる他の者も同様、みんなあっけにとられて、侍女の薙刀に制圧されている。
「奥方様、制圧いたしました」
やっぱり。
悪ふざけにも程がある。今日こそ、きちんと意見しようと固く決心した兼続、怖い顔をして、お船の入室を待つ。
「お船殿」と言いかけたところに入ってきたのは菊姫様だった。
なんで?
「御台所様、これは」と言いかけたところ、続いてお船が入ってくる。
「そなたたちは常在戦場という言葉を知らぬのか。特にわれら与板衆は不慮の事件で先代を喪っておる。命に代えても殿(兼続)をお守りいたすのじゃ」
「いつもながら、そなたたち夫婦のお互いを思いやる仲睦まじさには驚かされるのう。熱い熱い」
菊姫様、間違っておりますぞ。
「御実城様から、お聞きしたが、いずれわらわも人質として秀吉公のところに行かねばならぬかもしれぬ。その時、連れて行く侍女の訓練をしておるところじゃ」
それにしても驚いた。ちびりそうになった。まだまだ修行がたりぬのう。
菊姫様を怒るわけにもいかず、静かに反省する。
「動いたので、お腹がすいたのう。次は台所を制圧する。者どもついて参れ」
「おう」菊姫様、うれしそう。
退屈しておるのですね。
残されたのは、ぐちゃぐちゃになった部屋。
与板衆の俊英たち、のろのろと部屋を片付ける。
「お船殿は、いくつになられたのじゃろう」
「もう二十七か八ではないか」
「お子でもできれば、落ち着かれるのじゃろうか」
部下たちの愚痴ともつかぬ繰り言を聞きながら、それがしが至らぬばかりに、そなたたちにも迷惑をかけるのう、心の中で詫びる兼続である。
天正十一(1583)年八月
四月に続いて、再度新発田攻めに出陣した景勝だったが、思わぬ豪雨により陣が乱れまた攻撃は失敗する。撤退中に追撃され、
「早く潰さねばならぬと焦っておるせいかのう、うまくいかぬ」
うむむ、春日山から下越は遠い。冬になれば戦ができぬ。
それに新発田重家の背後には蘆名盛隆・伊達輝宗がおる。これを調略して新発田を孤立させねばならぬ。
「御実城様、蘆名への調略、それがしにお任せください」
「うむ。じゃが、新発田討伐は来年の話になるのじゃな」
また一年先か。本当に、われらの命取りになりかねぬ。実際、秀吉公に脅迫の材料にされておる。越中の佐々にまた魚津城を取られておる。信濃でも徳川の配下が、いろいろ仕掛けておる。真田の奴も、いろいろ動いてるようじゃ。上野では北条が大攻勢に出ており、厩橋城は落城寸前じゃ。北條高広が泣きついて来ておるが、とても兵を出す余裕がない。
佐竹など関東の反北条勢力を見殺しにするわけにはいかぬのじゃが。謙信公の越山の意味がわからなくなるでな。北条・徳川の同盟に織田信雄が接近しておるのであれば、秀吉公は、その背後を討つために、佐竹を使いたいんじゃろう。佐竹を援助する目的で蘆名と連携できるかもしれぬ。新発田の後ろ盾になっている蘆名を、こちらの陣営に引き寄せることができるかも知れぬ。反対に足元を見られるかもしれぬが。
よし、会津に使者を立てよう。
兼続がいろいろ策を練っている間にも北条の攻勢は続き、厩橋城は陥落した。北条は北上、沼田城を攻撃する。真田は、どうあっても沼田を北条に渡す気はないようじゃの。徳川は、北条との同盟が大事じゃから早く渡せと言っておるようじゃが。大体、真田の奴はおかしなことばかりしている。あいつが必死で、わが家中に調略を仕掛けておるのは、功績をあげて家康に自分の実力を認めさせたいのじゃろう。しかし、どんなにがんばっても、北条と真田を天秤にかけて、真田を取るという選択はない。秀吉公と戦うかもしれぬのに後方を危険にするほど家康は愚かではない。それでは武田勝頼公の二の舞になる。それくらいのことも真田にはわからんのじゃろうか。
やはり信玄公の側近であったという誇りが、あやつの処世の邪魔になっておるのじゃろうか。沼田を手離し替地をお願いいたすと、ここは引き下がれば徳川も悪いようにはすまいに。徳川家康、信玄公の陣法をそっくり吸収しようと、いろいろ書き物を集めておるとも聞いておる。真田も重く用いられること必定なのに。高坂信達(高坂弾正の次男)が言うておったが、あやつは自立したいのかな?
真田を、北条・徳川の攻勢を防ぐ楯にすることを考えなければならぬ。佐々と新発田に東西から挟撃される時、南から北条・徳川に攻め込まれれば、また当家滅亡の危機となる。
ひとりでいろいろ考える兼続。たよりの狩野秀治は年のせいか最近、体の調子が悪いようだ。評定にも出てこない。一度、狩野殿をお見舞いして、いろいろ相談せねばなるまい。上杉の命運を一人で背負っているつもりの兼続、やる気満々である。
秋のある日、菊姫様の発案で、景勝・菊姫、兼続、お船の四人で夕御飯を食べることになった。御実城様も忙しく、御台所様もお寂しいのじゃな。
「兼続は、わが弟のようなもの。お船はお菊の姉のようなものじゃ。これからも、よろしく頼む」姉と弟。いきなり分が悪くありませんか、御実城様。
話題は人質のことに。
「秀吉に臣従したら、わらわも人質として行かねばなりますまい。その覚悟は出来ております」
「お船もお供いたします」
「その気持ちは有難いが、情勢は流動的じゃ。何がどうなるか分からぬ段階で大事なそなたたちは出せぬ。上条殿に子息を出してもらえるようにお願いしておるが、まだ実際に出すと決めたわけではない」
いつになく饒舌な景勝、すっかり寛いでいる。
「与六、そなた、今後の情勢をどう見る」
「はい、秀吉公は摂津・大坂に巨大な城を築く準備を始めたようです。いよいよ天下に立つおつもりではないかと」
「安土を再建するのではなく、大坂に新しく城を造るのか。はっきり世が変わったことを示したいのじゃな。はて大坂は秀吉の領地じゃったか」
「信長の乳兄弟、池田恒興の領地でございましたが、美濃・大垣と交換したようです。三法師も美濃・岐阜に移すとか」
「美濃は信雄のものになるはずではなかったのか」
「信雄に信孝を殺させるため、美濃を差し上げる約束をしていたと聞いておりましたが、反故にしたようでございます」
「うむ、やはり秀吉には信用できぬところがあるのう」
「信雄も納得してはおらぬ様子。最終的には秀吉公は、柴田勝家・織田信孝にしたように、信雄を挑発して戦をするきではありますまいか」
「信孝に続いて信雄も討つのか」
「そうしなければ天下に立つことはできますまい」
「秀吉の力が抜きんでていることは分かるが、主家を討つことを他の者も許すのじゃろうか」
「秀吉公は、旧織田の諸将には領地の大盤振る舞いをしております。丹羽長秀には越前一国・加賀二郡を加増、前田利家にも加賀二郡を加増、他に池田恒興・森長可、堀秀政、蒲生氏郷、長谷川秀一なども大幅に加増されております。信雄との戦いを考えておるのでは」
「秀吉の領地はどれくらいなのじゃろう。自分の領地を増やすことは、あまり考えずに人にやるのかな」
「石見銀山など金銀山を抑えておりますし、堺の商人どもとも昵懇とか。金銀と物流を握る方を重視しておるのでは」
「大阪も四通八達の要衝じゃ。考えておるようじゃな」
「もともと信長は尾張・津島湊を金蔵にしておったものじゃし、秀吉公の旧領長浜も商業の発達した地域でございます。石田佐吉なども算盤の立つ男と聞いております」
主従の話は延々と続く。
「今後、天下はどうなるのでございましょう。応仁の乱以来の戦の時代は終わるのでしょうか」菊姫が尋ねる。
「それで思い出したのでございますが、以前兄君・仁科盛信様に、平和を希求する民衆が信長の天下統一を後押ししているのではないかとのお話を聞いたことがございます。あまりにも戦の世が長く続いております。民草ばかりか領主などでも戦の世に飽いておるのではありますまいか。いつ、寝首をかかれるか分からぬような戦乱の世に辟易しておるのでは」
「そこに領地を欲しがらない、いらない秀吉が領主どもに領地と安逸な暮らしを保障するというわけか」
景勝が口を挟む。
「譜代の家臣がおらぬということも、この際有利なことかもしれぬのう。ふむふむ、与六飲んでおるか。これは謙信公お形見の盃じゃ。見事なものじゃろう。さあ」
兼続も飲める方だが景勝には敵わない。謙信公は鬼のように強かったな。これも血筋じゃろうか。頭がぐるぐる回り始めた兼続。
春日山城、直江屋敷。上方の細作からの情報を聞く兼続。
大坂城、突貫工事で建設中。
数万人が動員され、見たこともない巨大な城が築かれておるとのこと。
秀吉公は来年の年賀に織田信雄を含めた大名に出仕を求めたとのこと。
これでは信雄も黙っておるまい。徳川と組んで戦することになるのか。信濃・関東の情勢はどうなるのじゃろう。真田に一度会って聞いてみるか。徳川内部の情報も取れるかもしれぬ。さっそく真田に連絡を取り、善光寺で会うことにする。
「徳川の戦略はどうなっておるのじゃ」開口一番尋ねる。
「四国の長宗我部、紀州の雑賀衆、高野山、そして越中の佐々などに使者を送って秀吉を包囲する計画を立てておるようですな」
相変わらず、馬鹿丁寧な真田。
「佐々は前田とわれらに挟まれて動けまい。長宗我部や雑賀衆なども大坂を牽制することしかできまい。それでは勝てまいよ」
「織田信雄は、蒲生氏郷・池田恒興など織田家親族大名を調略して味方にするというておるようです」
うむ、この織田家親族大名の者どもの動きが今回の戦いの帰趨を決めることになるじゃろうね。秀吉公も、相手が信長の息子と忠実な同盟者であった家康じゃから、配下の者の動きが気になるじゃろうな。
「そなたは今度の戦、どう見ておる」
「秀吉の優勢は動かぬと。丹羽長秀の動向が気になるが、あれほどの大封を棒に振るとも思えませぬな」
「では織田信雄と徳川は滅ぼされることになるのか」
「秀吉の考えひとつでしょうな。御家老こそ、秀吉に会っておるんじゃろう」
うむむ、教えてやろうか。
「秀吉公は、敵を味方にすると言うておった」
「今度の戦いは、賤ヶ岳の戦い同様、旧織田家中の内戦じゃ。われら外部の者には窺い知れぬところがある。調子に乗って動くと二階に登って梯子を外されることになるやもしれぬ」
真田、よく見ておるな。そなたは、ほんに惜しい男じゃ。武田が滅んでなかったら天下に名を挙げる男となったろうに。
「北条との戦はどうなっておる。相変わらず沼田城を堅守しておるようじゃの」
「北条は下野に進攻しておる。宇都宮や佐竹を討つつもりじゃ」
世の中がどうなっても関東制覇に邁進するということか。北条には、そういう家訓でもあるのかな?
「そなた、今後どうするつもりじゃ。自立したいのか」
兼続、真田昌幸の本心を探る。
「家康は寵臣井伊直政に武田の旧臣をまとめて率いさせておると聞いておる。長篠の戦いで戦死された山県昌景殿の部隊の様に、鎧・旗指物を赤くして赤備えにしたそうな。徳川の最精鋭部隊という位置づけじゃろう。武田の旧臣どもも喜び奮い立っておるのではないか」
「それに家康は、信玄公の戦術を学んでおるとも聞いておる。そなたは信玄公の側近であり幕僚、素直に臣従すれば重く用いられるのではないか」
「いや家康は、わしのことを軽く見ておる。上野・沼田城の替地として、信濃伊那はどうじゃと言うて来ておるが、伊那は保科正直の領地じゃ。苦労して取り戻した保科の領地を横取りすることは、わしにもできぬし、そもそも本気の話でないことは明白じゃ。わしを騙して領地を取り上げ、あとは誤魔化す気じゃ。沼田は勝頼公に頂いた領地じゃ。わしのものじゃ」
「北条だけでなく徳川も攻めてくるやも知れぬぞ」
「北条など百回攻めてきても、わしひとりで撃退する。これまでもそうしてきたし、これからもそうする。徳川が攻めてきたら、わしの力を家康に見せつけてやるつもりじゃ」
上野では北条と戦うために、われら上杉と協力し、信濃では徳川の配下として、上杉を攻撃しておる、そればかりか
「そなたが高坂信達の御実城様謀殺に関与しておったこと、上杉家中の者はほとんど知らぬ。内密にことを運んだからな。故にそなたの援護に出ても反対する者はおらぬじゃろう。北条はわれらの宿敵。北条と組んでおる徳川も敵じゃ。しかし、そなたの上杉への調略や攻撃が派手なものになれば、それがしもかばいきれなくなるぞ」
真田昌幸は、かすかに笑うだけで答えなかった。
何を考えておるか、さっぱりわからぬ。
秀吉公にならって敵を味方にすることも必要かもしれぬ。
天正十二(1584)年
一月 近江坂本・三井寺で織田信雄と秀吉が会見するが決裂
三月
六日 織田信雄、三家老を誅殺
八日 家康、駿府を出陣し岡崎城に至る
九日 秀吉、大坂城を出陣。伊勢へ
十三日 池田恒興、犬山城を奪取
十六日 徳川軍、小牧山城を確保
十七日 羽黒の戦い、森長可敗れる
二八日 秀吉、楽田城に入り、本陣とする
家康、小牧山城に入る
二九日 信雄、小牧山城に入る
四月
六日 池田恒興・森長可・堀秀政・羽柴秀次の別動隊出陣
九日 別動隊、岩崎城攻略
秀次隊潰滅、堀秀政隊退却
池田恒興・元助、森長可戦死
六月
十日 秀吉本隊、大坂に帰陣
八月
二七日 秀吉軍、再度楽田城に入る
九月
二日 秀吉と信雄の和睦交渉始まる
十七日 秀吉軍、大坂に撤退
十月
十七日 家康、浜松に帰城
十一月
十一日 秀吉と信雄、和睦成立
兼続のもとに上方の諜報網より情勢報告が雨粒の様に届く。
「秀吉公の挑発に激怒した信雄は安土城を退去、伊勢に引き上げた由。池田恒興が調停に乗り出したとのことです」
秀吉公は、信雄を挑発して戦に持ち込み、自らの覇権を確立しようとしている。
「秀吉公と信雄、近江坂本三井寺で会見するも決裂した模様」
「信雄、家老を秀吉公のもとに派遣して、和議を求めたらしいです」
信雄も時間稼ぎをしておるのじゃな。柴田勝家が前田を派遣したのと同じじゃ。
しかし秀吉公のことじゃ、あの調子でうまいこと言って、使者になった家老どもを調略するやも知れぬな。信雄は、秀吉公の恐ろしさが分かっておらぬようじゃ。あのお方の手あたり次第の人心掌握術は恐るべきものがある。勿論、われらも気を付けねばならぬな。
「執政(兼続)殿、真田殿にちっと物を尋ねたいのじゃが。かまわぬか」
「お船殿、真田との通信であれば、それがしがやりまする」
「執政殿の手を煩わせるほどのことではないのじゃ。徳川から秀吉公に引き取られた家臣がおるようじゃ」
な、なんと。秀吉公はすでに徳川を切り崩しておるのか。確か賤ヶ岳戦勝の賀使は石川数正じゃったのう。石川は、西三河の旗頭で岡崎城代じゃ。これは、大変じゃ。
「石川が調略されたのですか」
「いや、そうでなはない。そんな大物じゃったら、そなたの耳にも入っておるはずじゃ。全然、小物じゃ。それに円満な形での移籍らしい」
円満な移籍、そんなことあるのかな。
「松下某とかいう奴じゃ。そなた心当たりあるか」
松下、そんな家臣、徳川におったかのう。
「確か遠州の国人領主かなんかで、元は今川の家臣じゃった者らしい。秀吉公は、わが恩人じゃというて、徳川にかけおうて引き取ったそうな」
松下、松下様、思い出した。
「そのお方なら、秀吉公のお話に出てきたことがございます。確か秀吉公が信長に仕える前に仕えておったとかいうお方ではありますまいか」
「なんと。それでは何十年も前のことではないか」
「そうですな、三十年以上前のことです。その頃、十五歳くらいの秀吉公は各地を放浪しておったとお聞きしました。一時、遠州の松下様に仕えたが朋輩に苛められて尾張に帰って信長に仕えたとか」
それにしても秀吉公は、あらためて凄いお方じゃな。柴田を滅ぼし天下を取って、いちばん先にしたことが、恩人を探し出して取り立ててやることか。
「松下とかいうものは、余程秀吉公によくしてやったのですね」
「ふふふ、そなたは甘い。朋輩に苛められた秀吉公を庇うこともなく、追い払ったのじゃろう。それほど可愛がっておったとは言えまい。普通じゃ。ただ少年時代の秀吉公にとって、それでも好意に思えたのであろう。よほど苦労されておったのだと思うぞ」
そうかも知れぬ。あの喋り出したら止まらない秀吉公も少年時代のことは話したがらなかった。
「秀吉公は貴人ではないのう。身分があるお方なれば生まれつき、家臣に尽くされることは当り前のことじゃ。いちいち覚えてはおらぬ。それは、わらわもそなたも同じじゃ。受けた恩は忘れず返すというのは庶民の感覚なのかもしれぬ。ここらがあの佞人宇喜多直家を心服させた秀吉公の真なのかもしれぬのう。わらわも会ってみたくなった」
うーん。秀吉公は美女に目がない、手が早いと聞いております。それは賛成いたしかねます。心の中で反対する兼続。しかし何のために?それがしは何の心配をしているのか?自分の心がわからない兼続。
天正十二(1584)年三月
織田信雄は、調停のために秀吉のもとに派遣した三人の家老を上意討ち。徳川家康、手勢一万五千余を率いて駿府城を出陣、尾張・清洲城に入城。秀吉公も大坂城を出陣、近江で軍勢を集結中。細作の報告が続々入ってくる。
「自分の家老を三人も殺害して戦を始めるとは、呆れ果てた奴じゃのう」
「軍機が漏れるのを恐れたのかもしれません。あるいは裏切りの確証をつかんだのかも。秀吉公は人心を操る天才、いろいろな噂を流して君臣の間を割いたのでございましょう」
「それにしても、これでは織田軍の士気は上がるまい」
「しかし、なんといっても信雄は主筋、それに家康が合力しております。徳川家康は信長にも重んじられた男、粘り強く戦う男でございます。秀吉軍は大軍とは申せ、烏合の衆、長期戦になれば乱れが生じるかも知れません。それに四国の長宗我部や雑賀衆などの動きも気になります」
「義は信雄・家康の方にあるということか。秀吉と家康、どんな勝負になるのじゃろう」
「天下分け目の決戦でございます。われらの出番があるやもしれません」
「うむ、ともかく情報を集めねばならぬ」
秀吉軍は、堀秀政・蒲生氏郷を先鋒に伊勢に進攻。秀吉軍は、滝川一益を嚮導役に起用したとのこと。滝川は北伊勢五郡の元領主、旧臣も多いんじゃろうね。しかし秀吉公は、敵であったものでも能力のある者は助けて使う方針のようじゃ。
秀吉公は、この戦をどのように終わらせるのじゃろう。信雄を滅ぼすところまでやるのじゃろうか。旧織田家臣の武将が、それに従うのだろうか。自分自身で尾張の戦場まで行ければいいのじゃが、新発田攻めのことがあるし、北条は関東で攻勢を強めているし、信濃でも新しい戦が始まっておる。動けぬ。
天正十二(1584)年三月
徳川家康に服属していた木曽義昌、秀吉方の調略を受けて裏切る。
德川方の小笠原貞慶が筑摩郡北部の上杉方の城を攻撃、青柳城・麻績城占領
四月
海津城に詰めていた屋代秀正、徳川方に寝返り出奔
「海津城の守将のひとり、屋代秀正が徳川の調略に切り崩されたようでございます。
屋代秀正も村上一族じゃが裏切って武田に服属しておったもの。裏切った主君の息子の下では居心地が悪かったかも知れませぬ。配慮が足りませんでした」
「うむ。村上義清の息子にはうってつけの任務と思うたが、なかなかうまくいかぬのう。山浦(村上)国清に海津城代は荷が重かったかな」
「ともかく海津城まで出向かねばなりますまい。他にも徳川に内通しておる国人領主がおるやもしれませぬ」
「これも真田の調略なのか」
「詰問してみましょう」
数日後真田より弁明の書状が来る。
「屋代を調略したのは一年以上前の話で、少なくとも一年前に家康より本領安堵状が出されている」
なんと屋代のやつ、一年間、裏切りの機会を狙っておったのか。この時期の出奔は德川を優勢と思ったのか。いや案外徳川の命令があったのやも知れぬ。濃尾の戦線で秀吉軍と戦端を開くので、われらを牽制するため屋代を動かしたのじゃろうな。
景勝・兼続主従は、動揺する北信の国人領主を抑えるため海津城まで進出することとなった。小牧の戦は気になるが、とても他国まで動けるものではない。
そうじゃ石田三成に頼んで戦況報告を送ってもらおう。
兼続が書状を書くとさっそく石田の戦況報告が折り返し届いた。石田は兼続の使者を待たせて、さらさらと書いてくれたらしい。一読した兼続、景勝に報告する。
「池田恒興が、秀吉公につき犬山城を攻略したようです」
「池田は信長の乳兄弟ということで、秀吉と信雄の調停をしていた者ではないか、秀吉側についたのか。では美濃は秀吉側になったということか。戦場は尾張か」
「信雄と家康は小牧山城に陣を張っておるとのことです。池田の婿の森長可、小牧山城奪取を企図し徳川に邀撃されて、したたかにやられたようです」
「われらの宿敵じゃな」
「それがしは高坂信達に約束しております。森長可、いずれ討つと」
「そうじゃったな。その時まで森には無事でいてもらわねばならぬ」
「石田殿の報告によれば徳川は長大な柵を作ったとのこと。秀吉軍も対抗して柵を作りにらみ合いになっておるようでございます」
「長期戦になるのじゃろうか」
「外交戦になる形勢でございます」
「秀吉は戦をどのように決着するつもりなのかな?石田は何と書いておる」
「石田は秀吉軍の編成を書いております。丹羽長秀も参陣しておるようでございます」
「丹羽もか。それでは織田家中の者はほとんど全てが信雄と戦うことを選択したのじゃな」
「秀吉公は莫大な恩賞を約しておるようでございます。例えば池田親子には美濃・尾張・三河を与えると約したとのことです」
「これだけ見れば信雄と家康、滅ぼす気とも思えるが」
「石田は、後は徳川次第じゃと書いております。秀吉公にとって、織田・徳川連合軍に対して、織田旧臣を率いて戦う形を作るまでが大事なことで、局地的な勝敗には余り拘泥しておらぬようでございます」
「主筋と戦うことで、同僚じゃった織田旧臣を臣下にするということか。徳川は、どうするつもりじゃろう」
「石田によれば北条に援軍を要請したとのことです」
「北条は下野で佐竹・宇都宮と合戦しておるのではないか」
「はっ。北条氏直が出陣しておるようでございます。北条は、この合戦が終わると即座に尾張の援兵を送るつもりで、その準備をしておるとのことです」
「ふうむ。秀吉の諜報機関もよく働いておる。われらは新発田攻めの準備を進めておるが大丈夫かのう」
「われらも秀吉公の大きな戦略の中で動かざるを得ません。もっと情報が必要かと、石田に依頼しておきます。それに真田にも徳川の内情を教えてもらえるよう依頼しました」
「いつもながら、そなたのやること一分の隙も無いが真田を信用して大丈夫か」
「昨年四月のような軍事攻撃はないと思います。真田は徳川に自分の力を見せつけたい一心でございますから、功名をあげんとして何かするやもしれませぬな。ただ、徳川と北条の盟約に従えば真田は早晩、沼田を放棄せねばなりませぬ。そこらへんをうまく利用すれば使えると思います」
「ふむふむ」
尾張に派遣している細作より戦況報告が届く。
「秀吉軍、敗北。池田恒興・池田元助・森長可戦死」
なんと、何が起こったのじゃ。
続いて石田から戦況報告が届く。
兼続、景勝に報告する。
「森長可が死んでしまったのか」
「はい、天罰が下ったようでございます」
「どのような状況じゃったのじゃろう」
「高坂の墓に報告せねばならないので詳しく調べさせておるところでございます」
「ちょうど海津城に居る時に報告を受けるとはな。天の配剤なのじゃろうか」
海津城外で磔になった高坂一族の墓は、海津城近くの千曲川河畔にある。
「石田の戦況報告によれば、池田恒興自身が別動隊を率いる、三河進攻を願い出たので、作戦の実施を許可したら徳川に探知され敗北したとのことです」
「なにやら不思議な軍略じゃな。岡崎城は徳川発祥の城、簡単に落とせるとは思えぬが」
「池田恒興は恩賞として、美濃・尾張・三河を約束されておったので、張り切っておったのでしょう。それがしも不思議に思います。なれど秀吉公も石田も調略・宣伝の天才、白を黒と言いくるめることなど朝飯前、石田のいうことを真に受けるのは危険かと思われます」
「しかし、これで徳川は勢いづくじゃろうな。信濃でも攻勢が強まるかもしれぬな」
「佐々の動きも気になります」
「こうしてみると、本当に新発田を早く何とかせねばならぬのう」
「はっ。今回ばかりは最終的討伐の決意で準備を進めております。お任せくださいませ」
長い病のすえ狩野秀治が亡くなり、上杉の内政外交を総攬することとなった兼続、はりきっている。高坂弾正に貰った資料を読み込んで準備に怠りはない。しかし新発田城は水路の入り組んだ奥にある難攻不落の城じゃ。補給路も絶てぬ。
春日山城下で与板衆の新兵調練を観閲していたら景勝に呼ばれる。
「すまぬ。秀吉のところに使いしてもらえぬか。実は秀吉から人質を出してもらいたいと矢の催促じゃ。陣営固めをしたいのじゃろう」
「よって上条の息子を出さねばならぬ。しかし秀吉のことじゃ。息子を足掛かりに上条自体を篭絡するかもしれぬ。上条も名門の生れの矜持もあり、謙信公の養子であった誇りもある。そこにつけ入れられるかもしれぬ。ゆえに、そなたが直接行って秀吉に釘を挿してもらいたいのじゃ」
「上条も、次期当主の父親と勘違いして専横の振る舞いをするかもしれませぬな」
「勘違いはすでにしておるようじゃ。奉行としてそなたを欲しいと言ってきておる」
不首尾の責任を取らされて解任された山浦国清に代わって海津城城代に任命された上条宜順だったが、奉行として直江兼続を欲しいと言ってきているのだ。
「上条はわしの義弟じゃし、昨年の放生橋の戦いでは命を助けられた」
撤退中に新発田軍に追撃され重家に本陣に攻め込まれたとき、重家の馬を槍で刺し追い払ってくれたのが上条宜順だったのだ。
「しかし、そなたを欲しいなどとは一線を越えておる望みじゃ。余人を以て代え難しと即座に断っておいたがな」
「増長して勘違いしておる上条が秀吉に調略されれば、家中の統制のため粛清せねばならぬことになるやもしれぬ。しかし謙信公の養子を二人も殺せば泉下で謙信公に合わせる顔がない。かなり微妙な話じゃ。人質の値打ちを下げるわけにもいかぬが、上杉の次期当主と思われても困る。そなたに行ってもらうしかないのじゃ」
「わかりました」
兼続は上条の息子を連れて秀吉に会いに行くことになる。秀吉は尾張から一時引き揚げ美濃大垣城にいた。
「おお、直江殿。よう来た。久しいのう。元気じゃったか。そなた自身が証人を連れて来てくれたとは話が早いのう」
「お久しぶりでございます」
「いろいろ話もあるぞ。飯でも食わんか」
三七が先に一口食べて、兼続に渡してくれた。
「石田殿は」
「佐吉は兵站を取り仕切っておる。なにしろ尾張・伊勢で十万の大軍を動かしておる。補給も大変じゃ。わしもまた出陣せねばならぬ。そなたに、ぜひ大坂城を見てもらいたいのじゃが今は無理じゃ。いずれ上杉殿と一緒に見てもらいたいものじゃ」
人質の次は上洛の要求か。秀吉公のやること、相変わらず無駄のようで無駄がない。
「ところで戦況はどうなっておるのですか」
秀吉の顔が曇る。そこに石田がやってきた。
「しばらくじゃ。直江殿」
「詳しい戦況報告を頂き感謝しております」
「戦線は膠着しておる。長期戦になるな。われらは伊勢で攻勢に出て信雄の城を潰しておる」
「徳川はどのような動きをしておるのですか」
「柵を作って一歩も動かぬ。辛抱強いのう。長久手の勝利を帳消しにするような危険は冒さないつもりのようじゃ」
「長久手の戦い、石田殿の戦況報告は読みましたが本当のことを教えていただけませぬか」
秀吉が笑う。
「ほれ見よ。直江殿はわれらの一味。そなたの作文では騙せぬよ」
やはり三河進攻はでたらめか。
「しくじった戦の話は気が進まぬが、そなたは徳川の内情にも詳しそうじゃ。徳川を破る智恵が出てくるやも知れぬ。わしが軍機を話してやろう」
秀吉公、本当のことを話してくれるのかな。
「今回の戦いの焦点じゃったのは、池田の向背じゃ。池田は柴田や明智ほどは出世しなかったが、なにしろ総見院様の乳兄弟。池田の奥方は総見院様に暗殺された信行様の奥方じゃったお方じゃ。総見院様は池田を本当の弟と思われておったのじゃと思う。その池田が信雄様と戦うわれらの味方になってくれた。まあ、わしも大封を恩賞として約束した。池田自身には美濃・尾張・三河、娘婿の森長可には遠江・駿河じゃ」
やはり織田信雄・徳川家康を滅ぼすつもりじゃったのかな。しかし、これほどの大封を池田に与えれば統制が取れまい。秀吉公の直轄領より多いのではないかのう。
「二人とも戦死してしまったが、あれはわしのしくじりじゃ」
「三河進攻作戦は陽動だったのではないですか」
「流石じゃな。その通りじゃ」
「池田は、わしが大封を約束したので張り切り、開戦直後に犬山城を攻略してくれたのはよいが、娘婿の森長可が徳川に邀撃されて負けた。たいしたことのない小競り合いじゃが、開戦直後の敗北で池田は苦にしておったようじゃ」
「われらは森長可とは、いささか縁がございます」
「そうじゃの。北信に封ぜられ上杉攻撃しておったの」
森長可、一度も会うことがなかったのう。それがしが討つまで生きていて欲しかった。
「われらが構想しておったのは、池田・森の別動隊を
「なるほど三河進攻というのは名目だったのですね」
「そうじゃ、隠密・神速を旨とする進攻部隊が小城を落としたり三日もごぞごぞしていたのは、徳川の出撃を待っておったのじゃ」
「では徳川の出撃まで、こちらの思惑通りだったのですね」
「ここまではな。ところがじゃ、われらも細作をばらまいて徳川の動静を探らせておったし、わしと池田との連絡にも十分気を使い何本も通信線を作っておいたのじゃが、これがすべて潰されておった。徳川の戦場諜報には、測り知れない能力がある。
そなた何か心当たりはないか」
「最近、徳川は武田の旧臣を盛んに召し抱えております。信玄公は川中島の戦いで謙信公に物見を全部潰されて苦戦したことがあります。それ以降、戦場諜報には、ことのほか力を入れたようです。家康は信玄公の陣法を積極的に取り入れようとしていると聞いております。それがしが思いつくことは、そんなことぐらいです」
「うーむ。なるほど。徳川の兵が強いことは、姉川の頃からよく知っておったが今回、戦ぶりが変わって少々戸惑っておったのじゃ。家康の率いる三河の兵は粘り強く戦うが機動戦には弱いと思うておった。家康も、これほど水際立った用兵をするとは思わなかった。そうか、信玄の陣法を学んだせいか」
「家康は本能寺以降なにやら、ひとまわり大きくなったように、われらも見ております」
「それにしても神がかっておるぞ、家康の用兵は。まず小牧山を奪取しようとした戦上手の森長可の軍勢を翻弄して打ち破っておる。舅の池田が口惜しがっておった。それに今回の長久手の戦じゃ。まず秀次の軍勢が襲われた。戦闘序列は先鋒・池田恒興六千、次鋒・森長可三千、三陣・堀秀政三千、本陣・羽柴秀次八千となっておった。
もちろん、後方から襲われることは、われらも分かっておったし秀次にも充分言い含めておった。細作も撒いておった」
「それなのに朝飯を食っておる最中に奇襲される始末じゃ。細作による監視網が潰されておったせいじゃ。しかし一番先に攻撃されるのはお前じゃと、あれだけ言い含めておったのに秀次の奴、慌ておって大将のくせに敵前逃亡じゃ。身代わりに、ねねの一族が討ち死にしてしもうた」
「わしは秀次を勘当してやろうかと思っておる。さすがに堀は慌てず反撃して、秀次とその敗残兵を収容してくれた。しかし、その時点で、第三陣と先鋒・二陣の間が分断されておった。堀と森の軍勢の間に徳川は大兵を入れておったのじゃ。前線で孤立した池田恒興・森長可は各個撃破されて戦死じゃ」
「恥ずかしいことじゃが、わしらも徳川が動いたことに全然気がついてなかった。秀次の本陣が襲われたことを知って急遽出撃したのじゃが、本多忠勝が小勢のくせに邪魔をする。ようよう戦場に到着して追撃してくる徳川勢を殲滅してやろうと包囲陣を作って待っておったのじゃが、家康のやつ突然追撃中止の命令を出して小幡城に撤退じゃ」
「頭に来たわしは小幡城を明朝強襲しようと軍令を出しておったら、家康に夜のうちに小牧の本陣に帰られてしもうた。全く出し抜かれ逃げられ、いいとこなしじゃ」
惨憺たる敗戦じゃな。しかし三河進攻といっても誤魔化しにはなるまいに。なぜ、石田は、そんな戦況報告を寄こして来たのじゃろうか。
「なぜ三河進攻のための別動隊ということにしているのですか」
それでは池田や森も愚将扱いで浮ばれまいに。
「三河岡崎城の城代は石川数正じゃ。本人は小牧の本陣に詰めておるがの。岡崎城への進攻作戦など誰が考えてもおかしいものじゃが岡崎城にわれらを手引きする者がおれば、どうなる」
なんと。思わず秀吉の顔をまじまじ見つめる兼続。
「もちろん、そんな話はない。もともと、われらには三河に進攻する気がないのじゃから。わしは石川を調略しようと思っておる。徳川の使者として会ってる間に気に入ったのでな。別動隊の目的を三河進攻とするのは、この敗戦を石川を調略する布石にするためじゃ」
なんと。谷底に落ちても、きのこを掴んでくる昔の国司の話を思い出す兼続。
「そなたは森の最期に関心があるのじゃろう」
横から石田が口を出す。石田は何か知っておるのじゃろうか。
「今回の森長可は、どこかおかしかったのう。なんというか精彩を欠いておった」
秀吉も呟く。
「森の軍勢につけた軍監におかしな遺書を託しております。何かあったのでしょうか」
「わしも見せてもらったが、おかしな遺書じゃったな」
「本物は妻子に渡されておる。これは写しじゃ」
石田が見せてくれた。
「もし、自分が討ち死にしたら、母親は秀吉様に堪忍分を貰って京に住んで欲しい。末弟千丸は、これまでどおり秀吉様のお側でお仕えせよ。
わしの跡目を立ててもらうことはくれぐれも嫌である。
妻は大垣の池田に返せ。
娘おこうは京の町人に嫁がせよ、医者のような人がよい。
母親には必ず京に住んで欲しい。千丸に兼山城を継がせるのは嫌である。
もし万一総敗北になれば、みなみな城に火をかけて死んでもらいたい。
三月二十六日朝 (森)武蔵(守長可)」
森武蔵守長可、かなり厭世的な遺書じゃのう。
「本能寺の後、森は人質を楯にして北信から撤退し、結局年端も行かぬ女子供全員刺し殺したという話があります。そのせいで厭世的になったのでしょうか」
兼続が質問する。
「そんなことがあったのか。本能寺の変の後、占領して日の浅い東国では権力が分解し反乱が頻発して、みな苦労したようじゃのう。滝川一益なども自信満々の男じゃったのに帰って来てからは妙におどおどしておる。しかし」
秀吉が続ける。
「森長可は美濃の旧領に逃げ帰ってきた後、あっという間に東美濃を切り従えておる。さすが鬼武蔵とわしは見ておった。池田恒興も勇将と言っていい男じゃが、森はさらにできる男と思うておった」
「時間が経って総見院様が亡くなったことが、しみじみ身に沁みてきたのではございませぬか」
石田にしては感傷的なことを言う。
「そうじゃな。元亀元年九月に森の父親が戦死しておる。総見院様は、大軍を相手に忠義を全うした森可成の死を大変惜しみ、その子供を大変可愛がっておられた。寵愛された森乱(成利)など大変な権勢を持っておったな。しかし森乱など総見院様の小姓をしておった三人の弟は総見院様を護って本能寺で戦死しておる。森の兄も、確か初陣で戦死しておるはずじゃ。最初の朝倉攻めか、なんかで」
「つまり次男・森長可の兄弟は長男戦死、三男戦死、四男戦死、五男戦死。生きておるのは次男の自分と六男の千丸殿だけじゃというわけですか」
石田が整理してくれた。
「千丸殿に後を継がせたくないと思う気持ちも分からんでないな。悲劇が積み重なって世の中が嫌になったのかね」
秀吉が推測する。
ううむ。鬼のような奴じゃと思うて思ったが、心の中では平穏を望んでおったのじゃな。戦の世にあきあきしておったのじゃな。
「最期は鉄砲で狙撃され即死した。鎧が吹き飛ぶほど至近距離から狙撃されたようじゃ」
「白い陣羽織を着ておったので、それが目印になったようでございます」
“平和を希求する民の願いが天下統一を後押ししておるのではないか”
突然、仁科盛信の言葉を思い出す兼続。そういえば森長可は高遠城の寄せ手じゃったのう。戦を嫌っておるのは民草ばかりではない。森のような武士も心の底では厭なのじゃ。天下統一は早いかも知れぬ。とはいえ、秀吉公は今度の戦どう収めるつもりじゃろう。
兼続の心を読んだのか、突然秀吉が尋ねてきた。
「この戦、そなたはどのように見ておる」
ううん。
「先年、徳川は北条に娘を嫁がせております。これで徳川と北条の同盟は、ますます強化されたと見るべきでございましょう。背後の安全を確保した徳川は、しぶとく戦い続けるのではありますまいか。なにしろ、信玄公の鋭鋒を凌ぎ切った男でございます。長期戦になり外交戦になるかと思われます」
「もうなっておる。雑賀衆や四国の長宗我部などが大坂を攻撃せんとしておるわ。それに佐々も要注意じゃ」
大変じゃな。しかし秀吉公は、言葉とは裏腹に楽しそうじゃ。
日々、旧織田家中のものどもが自分の臣下となっておる実感があるのじゃろう。
「先ほどの森長可の遺書にも書かれておりましたが、民草も武士も戦乱の世にあきあきし太平の世を望んでおります。その願いに応えることこそ秀吉公の責任ではございませぬか」
「ふーん。そなたは、やはり北辺の田舎大名の家老にしておくには惜しい男じゃ。佐吉にも大きな構想力があるが、そなたには世の中の大きな流れが見えておるようじゃ」
ほめ殺しか、しかし言うべきことを、ここで言おう。
「こたび、われらが出した証人は、主君景勝公の妹婿、一門衆筆頭の上条宜順様の三男・弥五郎様でございます。われらにとっては大切なお人でございます」
兼続が続けようとすると
「そなたの言いたいことは分かっておる。われらの諜報機関も働いておる。そなたと上条は仲が悪いのじゃろう。ありがちじゃな。そなたも苦労しておるようじゃな。上条のことは、われらに任せておけ。そなたの悪いようにはせぬ」
というか何もしてほしくないのじゃが。上杉家中に手を入れてほしくないのじゃが。
分かっておるのじゃろうか、兼続、念を押そうとする、と。
「そんなことより、わしの家来になれ。日本国を治める大きな仕事をせぬか、どうじゃ」
また。
「それがしは上杉家と不可分の直江家の当主でございます。太陽が西から上っても上杉を離れるわけには参りませぬ」
「知恵は勇気があって初めて光るものじゃ。惜しいのう」
春日山城に戻った兼続、景勝に報告する。
「森長可の遺書を読み、最後の様子を聞いて、なにやら森への嫌悪が溶けたような気がいたしました。天罰が下ったと思うておりましたが、あわれを感じました」
景勝は黙って聞いている。
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