第17話
「ついてきてくれるのは嬉しいんですけど、鍛冶屋の方は大丈夫なんですか?」
出会ってから無言で後をついてくるようになったディオンの方を振り返りながらルークは問う。
彼は町で農具の修理などを請け負う鍛冶職人だ。
その腕はあまり面識のなかったルークでも知っているほど評判で、その彼が町からいなくなっても大丈夫なのかと心配になったのだ。
ディオンは寡黙で物静かな男だが、ルークが何か話しかければそれに対しての返答は必ずしてくれる。
「鍛冶職人は自分の他にもいますから。それに、腕は兄弟子と師匠の方が上です」
「トフサル」には三人の鍛冶職人がいて、そのうちの一人がディオンのいう「師匠」という人物で職人としての腕はその人物が一番上らしい。
弟子が二人いて、弟弟子がディオンであり兄弟子も相当な技術を持っているので自分一人が町からいなくなっても問題はないという。
そのあともルークはできるだけディオンと仲を深めようと話を振り、ディオンもそれに律儀に答えるのだった。
♢
二人が森を抜け、道が草原の道に変わったころ村にたどり着いた。
そこは「トフサル」から一番近い村で、ルークのとりあえずの目的地でもあった。
「ご無沙汰しています。例の件で頼んでいたものを受け取りに来ました」
村の小さな店、雑貨や食料品と少しの道具類の販売をしている「何でも屋」の扉を開けてルークが店主に挨拶をする。
店主は白髪の老人で、かけた眼鏡をくいっと上げてルークを見ると腰を上げて歩き出す。
店主は無言だったがルークは気にした様子もなくディオンとともにそのあとをついていく。
店主は店の中を抜けて、店の裏口から外に出る。
そのあとをついていくと馬が二頭、杭につながれていた。
「若、一体いつから私が付いてくるのがわかっっていたのですか」
ディオンは馬が自分の分も用意されてることに驚いた。
ルークの口ぶりから察するにこの二頭の馬が随分と前から「何でも屋」に依頼して用意してもらったものだとわかる。
「先見の明」という「固有魔法」についてロナルドやライアンから詳細を聞いていたが、ここまで事前に予知できるものだとは思っていなかったのだ。
ルークはディオンが驚いているのを見て笑った。
「違うんです。この馬は父様が用意してくれたものですよ」
実際、ルークはディオンが付いてくることを「攻略本」を読んで知っていたがこの馬を用意したのがロナルドであるというのも本当のことだった。
「トフサル」から「イルカワナリ」に向かうにはルークたちが通ってきた森の道を抜けてくるのが一番の近道である。
道と言っても、それはしっかりと整備されているわけではなく、長い間森に入って仕事をしていた人たちのおかげで自然と出来上がった細道である。
馬を「トフサル」で用意することもできたが、その馬で森の道を抜けるのは難しいので森を抜けた先のこの村で用意をしてもらったのである。
この村の「何でも屋」はどういう手段で商品を用意しているのかわからないが、依頼されたものをしっかりと入手し、その品質も高いことからロナルドが重宝している。
ルークが「イルカワナリ」に向かうと決まったあと、この「何でも屋」と繋がりがあればルークのためになるのではと考えて以前にロナルドがルークを連れてきたことがある。
ルークは店主から馬の手綱とそれから野宿する用のテントと食料の入った鞄を受け取る。
「ディオンさん、行きましょう」
馬にまたがって声をかけるルーク。ディオンも同じように馬にまたがった。
支払いは事前に住んでいるらしく、二人はそのまま村を出て馬を走らせるのだった。
ルークは誘拐事件の後で、馬の乗り方や野宿をするときのテントの建て方、火の起こし方を学んだ。
「攻略本」を事前に読んで必要になるとわかっていたからだ。
ルークの持つ「攻略本」はやはり不完全なもののようで、そういった技術が必要になるという旨の記載はあってもそれに関する具体的な記述はない。
そのため馬の乗り方にしろ野宿の仕方にしろ、ルークは自分で一から調べて学ぶ必要があった。ただ、やはりこの方法の方がルークの性には合っていてこの「攻略本」の仕様のおかげでルークは初めて経験する面白さを損なわずに済んだのである。
事前に準備したおかげで、旅の初日は順調だった。
町の狩りに頻繁に参加しているからか、ディオンも野宿の経験があり手際もよかった。
暗くなる前に二人は野宿をする場所を決めて、薪を集めて火を起こしゆっくりと食事をとることまでできたのだった。
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