第16話
数日後、ルークは荷物をまとめて「トフサル」の町を旅立とうとしていた。
ルークの思い、「イルカワナリを統治したい」を実行するためにはいつまでも「トフサル」に残っていても仕方がないからである。
「イルカワナリ」は現在国から「危険都市」として認定されており、もともとあの町を統治していた貴族はその管理のずさんさが露見して国から責任を問われている。
国は「イルカワナリ」を統治者のいない町としており、その内部の犯罪者の多さには「随時対処していく」という声明を国民に出してはいるが「何もしていない」というのが現状だった。
例えばルークが国王や王子などの王族に「イルカワナリを統治させてください」といってもそれが許可されるわけはない。
ハリオン家は辺境貴族として大きな力を持ってはいるが、それはあくまでも「辺境」だから、王都にも「トフサル」を統治するハリオン家の手腕を認めている者もいるのだろうがそれはあくまでも現当主ロナルドに対する評価だった。
成人したばかり、さらには次男であるルークが言い出しても「お前には無理だ」と鼻で笑われるのは目に見えている。
正直に言えば、ルークが「イルカワナリを統治したい」とロナルドに話したあの日以来、何かのフラグが立ったのか「攻略本」の見出しの一つが「現在調査中」から詳しい攻略情報に書き換わっていた。
それによればルークが選ぶことのできる攻略ルートは二つある。
一つは今しているように「トフサル」を旅立ち、「イルカワナリ」を目指すルート。
ルークの選んだこのルートでは、「イルカワナリ」に直接向かい、ネロたちとの合流を目的としている。正直この攻略ルートは不透明で、町に着くまでのところまでしか現在記載されておらず、その先でどう行動すればいいのかはわかっていない。
もう一つはルークが王都の学校で学ぶルートである。こちらはもう少し詳細な攻略情報で、王都で四年間魔法と貴族学を学びその後学業で結果を出して「イルカワナリ」の統治を任されるようになるルートだった。
このルートは不透明な部分が少なく、実行できれば確実に「イルカワナリ」を領地として正式に国から任される可能性の高いルートだった。
しかし、ルークがこちらを選ばなかったのはそこまでにかかる年数の問題があったからだ。
二つのルートに共通しているのは、「どちらもルークが『イルカワナリ』にたどりつくまでの示した攻略情報である」という点だった。
記載されているのはその道筋のみで、どちらのルートにせよルークが「イルカワナリ」にたどり着いたあとのことはまだ記載されていない。
ルークが誘拐されてネロたちと出会ってからもうすでに七年が経っている。
その間、ルークは何もしなかったわけではないのだがネロたちと直接連絡は取れないでいた。
「イルカワナリ」ではネロたちの戦いはずっと続いているはずで、これからさらに四年、学校で学んでいる時間の猶予はないとルークは思っていたのだ。
「父様、母様、行ってきます」
「トフサル」の町でルークは両親に見送られる。
レイラは涙ぐんでいて、ルークのことを抱きしめる。
「必要なものがあればいつでも手紙をだしなさい」
ロナルドはそう言って前向きにルークのことを見送ろうとしているが、その顔はどこか曇っていた。
この七年間、ルークとロナルドは何度も意見を交わしお互いの思っていることをまっすぐに伝え、お互いに歩み寄ろうとしてきた。
最終的にルークに説得され、ロナルドが折れる形でこの「『イルカワナリ』への出立」を認めることになったのだが、まだ思うことはあるのだろう。
ルークはロナルドに「はい」と返事をして「トフサル」を旅立ったのである。
♢
「トフサル」から歩みを進め、町が遠ざかったころ合い。ルークが森に作られた道を進んでいると前方に男が一人立っていた。
ルークは何ら顔色を変えず、その人物に挨拶をする。
「こんにちは、ディオンさん」
声をかけられたディオンはルークが驚いていないことに少し戸惑いつつ、すぐにいつもの冷静な表情に戻る。
「『先見の明』とやらは本物のようですね、若」
ルークはこの旅路にディオンが付いてくることを知っていた。
「攻略本」にそう書いてあったからだ。
彼を寄こしたのはロナルドとライアンの二人である。
ロナルドは町の領主として、信頼のおける人物をルークの護衛につけたいと思っていた。
それを知ったライアンは同い年で友人でもあるディオンを紹介したのである。
ディオンは幼いころに流行り病で両親を亡くしてから、ずっと町の大人たち全員に面倒をみてもらってきた。
中でも領主であるロナルドの優しさや、辛いとき悲しいときに常に傍で支えてくれたライアンに感謝していた。
その恩を返せるならとルークの旅路についていくことを決めたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます