成長と魔法

第13話

ルークの誘拐事件から七年が経過した。

この日はルークの十五歳の誕生日だった。


これまでもルークの誕生日には近隣の町から貴族が集まり、ささやかなパーティーが開かれていたが今日はその規模が違った。


十五歳というのはこの世界の成人の年齢である。成人すれば就労かもしくは国内の教育機関への入学を選択する義務が生まれる。


ルークが成人するにあたり普段よりも大きなパーティーが開かれたのである。

その会場もいつもとは違いルークは故郷の町から数日かけて王都を訪れていた。


そこでは普段は決して会うことのない王都の有力な貴族や王族もいる。

どうやら貴族の子息の誕生日には王族が顔を出す風習があるようで、ルークは自分より二つ年上であるこの国の第二王子から「祝いの言葉」を受け取った。


そのあとも祝賀のパーティーの最中にいろいろな町から集まった貴族たちに囲まれて祝われたルークはパーティーの終盤には疲れ果てぐったりとしていた。


「お疲れルーク。いいスピーチだったよ」


椅子に座りうなだれるルークのもとにグラスを二つ持った青年が近づいてきてグラスの片方を差し出す。


ルークは顔を上げてほほ笑む。


「兄さん。ありがとう」


その青年はこの世界にいるルークにとっての三人目の家族、長兄のライアン・ハリオンである。


ライアンはハリオン家の次期跡取りで、ルークとは三歳差である。

今は王都の学校に通っていて家を離れて寮で暮らしているためルークも会うのは久しぶりだった。


「もうどうするのかは決まった? 手紙でも言ったけどうちの学校に来るなら大歓迎だよ。最後の一年かわいい弟と過ごせるのならこんなにうれしいことはない」


ライアンはそう言ってルークの隣に腰かけた。

二人は離れていても手紙でやり取りをするくらいには兄弟仲がいい。


前回ルークが受け取った手紙にはライアンの通う学校がどれほど素晴らしいのかと、よければルークにも入学してほしいというライアンの思いが綴られていた。


「正直まだ迷っているんだ。兄さんと一緒に学校に通うのは魅力的だけど、次男の僕が通う意味はあんまりないんじゃないかなって思って……」


この世界の学校というのはいわゆる「貴族」としての風格を身に着けるための場所である。

魔法や文字なども学べるが主軸となっているのは領地経営などに関する授業で学生が卒業した後に家督を継ぐことを前提に考えられたものだ。


一応平民や次男以下の生徒もいるようだがその数は少ないようだ。

ルークはハリオン家の次男で、家督を継ぐのは長男であるライアンの方だ。

魔法を学べるというのは魅力的だが、少なくとも身近な魔法はもうすでに覚えていた。


「気にしなくていいのに……。父さんも通うことに反対はしてないだろう? それに、僕は家を継ぐのも本当はルークの方がいいと思っているよ」


ライアンはそう言って笑う。そこには含みはなかった。彼は本心からそう思っているのだ。


その理由の一つが「固有魔法」だった。

ルークの「攻略本」はネロたちにそうしたように「先見の明」という名前で家族にも伝えてあった。


情報の一部しか伝わってはいないはずだがライアンはその力を大きく評価していた。

もちろんそれだけが理由ではなく、ルークの性格や才能を鑑みて言っているのだ。


ただこれを言うたびにルークは否定する。


「兄さんのすごさは僕が俺が一番わかってるよ。それに僕にはやりたいことがあるからね」


ルークがそう言うとライアンの表情が少し曇る。

それはルークのやりたいことというのを知っているからだった。


七年前。誘拐事件が一応解決し、黒幕の正体は結局わからなかったが騒ぎが終息したころ。


ハリオン家でルークが父親と話をした場にライアンもいたのである。

それはルークが誘拐され連れていかれた場所「イルカワナリ」についてだった。


ルークは「イルカワナリ」という場所がいかに闇に紛れていて治安が悪いのか、自分の目で見て感じたことを父親に話した。

ルークが「イルカワナリ」にいたと聞いただけで父親の顔は青ざめていたが、そのあとルークの言った言葉に父親の表情は険しいものに変わった。


「『イルカワナリ』を統治して、貧困に苦しめられている人を救いたい」


それは脱出のためにネロたちと結んだ契約のため、しかしそれだけでなく自分の目で見た情報や攻略本で得た知識をもとにルークが本心で思ったことでもあった。


ルークのその話を聞いて父親は初めてルークのことを叱ったのである。



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