第12話
ルークが無事に帰還し、セバスが捕まってから三日が経った。
戻ってきた平穏な日常を噛みしめながら昼日中にルークは自室で「攻略本」に目を通している。
今まで一日一回しか現れず、手に取ろうにも邪魔が入って叶わなかった「攻略本」は「イルカワナリ」の路地裏で初めて開いたからなのか、ルークが読みたいと思えば目の前に現れて簡単に読むことができるようになった。
「やっぱりないよなー」
窓辺に持たれて日の光を浴びながら本を読んでいるとどうしても眠くなる。
ルークは今日何度目かのあくびをした後、眠い目をこすりながら「攻略本」のページをめくった。
ルークが探しているのは今回の誘拐事件に関する記述である。
「攻略本」にはルークを攫った二人のキャラクターページとそれを手引きしたセバスのページ。それからルークが実際に体験したネロたちに出会うまでの流れが記載された「攻略ページ」がある。
事件が一応の解決をしてからの三日間、ルークは暇があればこの「攻略本」を読んでいるのだが探しているページは見つからなかった。
ルークが探しているのは「首謀者」に関するページである。
誘拐犯二人を手引きしたセバスはただの使い捨てのコマでしかなかった。
多額の金に目がくらみ、第三者に雇われていただけである。
しかし、彼を捕らえた衛兵たちが尋問をしてもセバスは黒幕につながる情報をなんら持っていなかったのである。
それを父から間接的に聞いたルークは「攻略本」を使って調べようと思った。
その第三者に関する情報が「攻略本」には載っていないのだった。
この三日間「攻略本」に目を通してルークは気が付いたことがある。
それは「攻略本が未完成である」ということだった。
「未完成」というのは十分な説明ではないかもしれない。正確には「随時更新される」と言った方が正しいだろう。
例えばルークがいま目を通しているキャラクターページ。
ここにはこの世界に住む人々の情報が載っているわけだがこの世界には数万、数十万という膨大な人々が生活している。
そのすべての人間の情報が「攻略本」に載っているのかと問われれば、そんなはずもなく載っているのはルークの身の回りの人についてのみだった。
ただ、ルークが「イルカワナリ」の路地裏で本を開いた時には載っていなかったネロやユミールのキャラクターページが今は載っている。
そのことからルークはこのページが「後から追加される」のではないかと思った。
つまり、ルークが実際に行動し関係を持つことで「攻略本」に記載されるのではないか、と。
そう考えれば黒幕について情報が何もないことにも納得がいく。
ルークがまだその黒幕に出会っていないのだ。
今後どこかで顔を合わせれば黒幕と気が付くことができるだろうが今はその素性を知る術がなかった。
また、これは攻略ページについても同じことがいえた。
今回の事件については「ルーク誘拐事件」という大々的な見出しと共に詳細な攻略情報が載っている。
そこには「あの時ルークがこういう行動をとっていた場合、こうなっていた」というもしもの時の結果まで載っていて読んでいてルーク自身面白かった。
ただ、その他の攻略ページ。主にルークがこれから体験するのであろう事柄については見出しがあるだけでその内容を見ようとしても「現在調査中」の文字が記載されているだけだった。
見出しも文字化けしていて正確な情報がつかめず、その順番から何が起こるのかを予測するのも難しい。
ただ、それはルークにとって少し助かる面もあった。
前世での彼は「攻略」の類をあまり好んで読むタイプではなかった。
それは「ゲームの面白さを自分で見つけたい」という思いからだったが、その考えは今のルークにも引き継がれている。
ただ違うのはこの世界がゲームではなく、ルークの「人生」である点だった。
今回のようにルーク自身の身に危険が及ぶ場合、彼はまた「攻略本」を頼るだろう。
それはルーク自身そうしようと思っていた。
問題はこの本を「日常的に使うか」どうかである。
この本を使うことで自分の人生で得られるはずだった「面白味」が薄れてしまうのではないかという懸念がルークにはあった。
しかし、この誰が書いているのかわからない不思議な「攻略本」の仕様ならば問題がないような気がしていた。
「攻略」が現れるのはルークがその問題に直面した時。それも見出しの数を見るに、そんなに細かく記載があるわけではない。
いい意味で「雑なつくり」だとルークは思った。
これならばルークが何かを体験するうえで得られる「面白味」というのはなくならないような気がしていた。細かく繊細な「攻略本」であることがルークには合っていたのだ。
ただ一つ。
これは「攻略本」に記載されたルークの過去に関する記述なのだが、その中に彼が「まじか」と思う内容があった。
それは攻略ページの最初の方。ルークが五歳の時の内容だ。
家の書斎にルークが言った時の記載で、実際にはとっていない「もしも」の行動の結果である。
「書斎の一番上の棚。右から二番目の書物を入手すれば『魔法』について学べる」
という記述があったのだ。
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