第10話

自分のことを差し置いてまで捨てられた子供たちの面倒を見るユミール。

そんなユミールに対してネロが抱いていたのは純粋な興味である。


「他者のために」


そんな風に考える人間は「イルカワナリ」にはいない。

そして、その興味はユミールとともに過ごすことにつながる。


蜥蜴人の子供たちの面倒をいきなりネロが見るようになったわけではない。

最初は、アジトまでユミールを送り届けたことをきっかけに町で見抱えれば声をかけ、交流する程度だった。


そのうち二人で盗みをするようになり、気が付けばネロは住んでいた廃墟を捨ててユミール達と共に住むようになった。


成長した蜥蜴人たちの子供たちは二人の背中をみて育ち、だんだんと自分の食い扶持を稼げるようになっていく。


ユミールが拾ってくる捨て子も少しずつ増えていき、ネロが大人になるころには一大組織が出来上がっていた。


「お前、こうなることを予見してたのか」


「まさか。あなたに出会ってなければ、私たちはきっと死んでいた。ありがとうネロ」


二人が成長し、組織にも力がついてくるとお金の稼ぎ方も変わってくる。

盗みの対象は「イルカワナリ」を統治する貴族に変わっていた。


「あいつはクズだ。私腹を肥やすばかりでこの町をどうにかするつもりもない。俺たちの方がその金を有効に使える」


ネロにはもともとそういう目的もあったのだろう。

貴族から盗みを続けていると、ある日その貴族はすべてを投げ出して町から逃げるようにいなくなってしまった。


「これで町も少しは住みやすくなるだろ」


そう思ったのも束の間、ネロは自分の考えが甘かったことを知った。


貴族が統治をやめ、町から逃げ出すともともとその貴族の甘い汁を吸っていた「イルカワナリ」の富裕層たちも後を追うように町から出て行った。


その代わりに町には闇に潜む犯罪者たちが集まるようになったのだ。


貴族や富裕層が捨てていった家屋には町にもともと住んでいた小悪党たちが集まるようになっていた。

新たに来た犯罪者たちはその小悪党たちを蹴散らすか、あるいは取り込む形でその家に住みつくようになってしまった。


「イルカワナリ」の町は治安が悪化する結果になってしまったのである。


町にもともと住んでいた小悪党たちも、犯罪者に取り込まれなかった者たちは肩身が狭く、取り込まれた者たちも犯罪者の使い走りとして扱われる。


稼げる額が増えたわけでもなく、力で抑えつけられているだけ。

貧困度合いでいれば悪くなっている。


そのうえ捨てられる子供たちがいなくなるわけでもなく、逆に子供が暮らすのがさらに難しい町になってしまった。


ネロは町から貴族たちがいなくなれば自分たちが町を牛耳れるようになると考えていた。

それは町を支配したいというわけではなく、町に捨てられた子供たちや力のない者、いわゆる弱者を自分たちの力で救済したかったからだ。


この考え方はもともとユミールの思いが強く表れたものだったが、ともに生活する中でネロの思いにもなっていた。


貴族や富裕層が逃げ出すところまではネロの思惑通り。

しかし、町の外から力を持った悪人たちが介入してくるところまでは見通せていなかった。


さらに、町をその犯罪者たちから守るだけの力もまだなかったのである。


なにもしなかったわけではない。

町を逆に支配しようとする悪人たちにネロたちは反抗した。


武器を集め、戦い方を模索しなんとか取り込まれないようにはなった。徐々に力をつけ、犯罪者たちにとって「厄介な存在」と認識されるようにまではなった。


その結果、町には大きな犯罪組織が二つとネロたちの組織が一つ生き残り、今では三すくみの状態で拮抗するようになったのだ。


これにより、町の武力は向上した。

普段は町の中で争っていても外部に敵が現れれば三つの組織の力はその敵に向く。


生半可な力では太刀打ちもできないため、「イルカワナリ」は国にとっても手を出しづらい町になったのである。


とはいえ、その内部の情勢はまったく変わっていない。

ネロたちはなるべく組織を強化することに努め、町の外にも手を伸ばし一定の財力を手に入れられるようにはなった。


できうるかぎりの弱者を守り、なんとか町を改善しようとしてきた。

しかし、最終的に立ちはだかるのは二つの犯罪組織の壁。


どうやってもそこを乗り越えることができず、硬直した状態が何年も続くようになる。


ネロは「退屈」を感じるようになっていた。

どう動けばいいかわからない手詰まり感。それでいて暮らしていくには十分な組織力はすでにある。


このまま争いを続けてもふもうなのではないか。もっと他にいい手があるかもしれない。


正直に言えば先がみえないくらい闇の中でもがくに疲れ始めていた。


そんな時に現れたのがルークだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る