荒んだ町の王様

第6話

ルークがその本を開いた時、まず驚いたのは「攻略本」の正確さである。

キャラクタープロフィールと称して記載されたページにはルークの名前や身長や体重はもちろんルークに前世の記憶があることや得意なこと、得意な魔法系統まで書かれていたのである。

ルークはいままで魔法を使ったことはないし、使えるのかも知らなかった。つまり、本にはルーク自身すら知らないルークの情報が載っていたのである。


そしてそれはルークだけではなく、ルークが今まで出会った人々……例えば両親をはじめとして家の使用人たちや町ですれ違っただけの人間も載っていた。


「これは……」


ルークはその中の一文に目を止めたが、いまはまだ関係ないとページを進める。

キャラクタープロフィールのページの後はまさしく「攻略本」といえるような内容が綴られていた。


八歳までのルークの生涯。そこに枝分かれするように情報が追記されていて、それは今後のルークが進むべき道を丁寧に解説している。


そのうちの一つのページでルークは今の自分が置かれている状況について記載されているところを見つけた。


それによればこの状況を抜け出して無事に家にたどり着くには方法は一つしかないらしい。


例えばルークが考えていた自力で町を抜け出し、家を目指す方法。

本によればその方法では町に着く前に寝込みをオオカミに襲われ命を落とすことになる。

オオカミを退けた場合も町に着くまで体力は保たず、途中で力尽きてしまう様子が事細かに記載されていた。


また、ルークが身を隠すために一時的に逃げ込んだ路地裏。本によれば、この路地裏を出ようとしたときに件の誘拐犯二人組に待ち伏せされていて再び閉じ込められるとある。


「バカげてる……というよりバカにされている気分だ」


ルークは小さくため息をつく。

誘拐犯に再び捕まる記載の下に小さく「ゲームオーバー」という文字が書かれていたのである。


自分の人生をゲーム扱いされているところに少しの疑問点はあったが、現状この本を頼る以外に助かる道はない気がしていた。


また、この人生がゲームではないという認識を持ってはいても、「まるでゲームのようだ」と思わないわけではなかった。


ルークはもう一度小さくため息をつくと、「攻略本」に記載されている通りに行動した。

まず、路地裏から脱出するために崩れかけた一軒の家の壁に手をかける。

少し力を入れると壁は脆く崩れ落ち、ちょうどルークが通れるくらいの大きさになった。

老朽化でそうなったというよりはもともと何かの穴が開いていたのを壁と色合いの近い土をかぶせて隠していたようだ。


ルークはその穴をくぐり、家の中に入る。これで路地裏で待ち構えているらしい誘拐犯二人を退けられると本には記載されていた。


それから、今度は家に帰るために頼れる人間を探す必要があった。

それも当然本を頼らなければならない。


「このぼろぼろの家が本当に力を持った悪党の拠点につながっているのかな?」


本の内容を信じないわけではなかったが、本によればこの家はこの町で大きな力を持つ犯罪集団のアジトにつながっているらしいのだ。


しかし、ルークにはこのぼろぼろの家が本当にそんなたいそうなアジトにつながっているとは思えなかった。


「……本当にあるのか」


「攻略本」というのは基本的に嘘はない。そこに嘘があれば他の情報にも信憑性がなくなってしまうからだ。そして、それはこの異世界の「攻略本」にも適応される常識らしい。


本に書かれている通りに家の中を探せばアジトへの隠し通路というのは簡単に見つけられた。


少し怖気づく気持ちもなくはなかったが、ルークはその道に歩みを進めた。

隠し通路は町の地下をとおっているらしい。

それは入り口が床に作られていたことと、通路の壁が土づくりだったことからも明らかだった。


通路は一本道で、迷うことはない。

その出口にもすぐにたどりついた。


その出口をくぐってまずルークの目に入ったのは硬い鱗と長いしっぽを持つ蜥蜴人リザードマンと呼ばれる種族の集団だった。


彼らは昼日中だというのにわきあいあいと酒を飲み、カードを使った賭け事をしていた。

そのうちの一人が扉が開いたことに気が付き、そこから入ってきたルークを見て


「ガキだ」


とつぶやいた。

その言葉にその場の雰囲気ががらりと変わる。

蜥蜴人たちの視線はすべてルークの方に向き、楽し気な雰囲気は一瞬のうちに殺伐としたものになり、牙をむき出しにしてルークへの威嚇を始めたのである。

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