第3話 転生狼さんは野生で生きる

 吾輩は狼である。名はまだない…


 なんて、似た有名な言葉を思い出したのは、私が転生者だからだろう。前世の事についてはうろ覚えでしかないが、自分が人間であったこと、科学の進んだ世界であった事やちょっとした知識くらいしか残ってはいなかったが、こうして狼生を生きてきた上では、それで良かったと思う。


 完全な記憶が残ってれば、こうして狩った獲物を生でボリボリ食べることもできなかったかもしれない。戸惑いはあれど、いざ食べてみると美味しいのである。特にハツな!


 まあ、生まれてもう二百数十年、人より長生きすぎて人だった意識よりも狼であることの方が意識が強い。


 野生にもなれるってもんだ。


 ちなみに、前世の知識的に言えば、ここは、中世の様な王道ファンタジー世界って感じだろうか?魔物も居れば人間様は剣と弓、あとは魔術と呼ばれる物を使っている。


 いやぁ、昔やんちゃして人間達に追われた時は本気で驚いたわ


 魔法が雨霰と降り注いできた時は命の危機を感じてしまった。


 人と半世紀近い争いのあと、私は森に引きこもることに決めた。魔術についてはさっぱりだが、一応、魔物となった私は魔法が使える様に頑張ったのだ。


 でか過ぎる体では森の中といえど隠れるのも難しいので体の縮小拡大の魔法と、傷を癒す回復魔法、あとは光の壁の3つのみ


 いや、これでも頑張ったんだよ?白い狼だからさ?私、白いしフェンリルとか呼ばれるやつなら氷魔法とかできるだろ!とかワクワクしたさ?

 全く使える気配もありませんでした!


 それで、思い至ったのは、人間達が魔術と呼ばれる物を使ってた、その知識を手に入れることができればワンチャンあるんじゃと


 だけど、人と争っちゃったからなぁ。あれから一世紀たったし、ほとぼり冷めて、でか過ぎる体でもなければ、忘れられてる事になってるんじゃない?


 前回のあの失敗を糧にすれば魔術の知識を手に入れることもできるかもしれん!

 と、思って立てた【友好的に人間に近付いてお友達作戦】…無理そうな香りとか言うな!ダメそうな気しちゃうだろ!


『問題は、人間との意思疎通だよねぇ…大体、転生したら翻訳スキルとか標準装備にしてくれないと、人の言葉わからんのよ!

何とか言葉を覚えて文字も覚えて魔術を…ぐぬぬ』


 初めて人と出会った時は嬉しくてつい飛び出しちゃったんだよねぇ。言葉を交わそうにもお互い通じず、しかも人間達は武器を抜いて襲ってくる始末、驚いて手を出したら人間の三枚おろしができましたとさ、それからもう逃げては戦う日々の始まりで、襲ってくる人数は増えてくわ、私の体も馬鹿みたいに大きくなって、最後の方は軍隊に追われる様に森の深くに逃げ込んだのよ。


 魔術の対抗に魔力的なものをなんとかしようと前世の知識を総動員してやっと使えたのがその3つ。


 しかも、周囲の魔力をカラカラになるまで使い込んでやっと、体の縮小化にも成功したのだった。


『出会うやつにも気をつけないとな、あれは明らかに冒険者とかハンター的な身なりだったし、せめて武器を持ってない一般人…出来れば子供とか?うーん、一先ず日課の見回りに行くか…』


 私の縄張りといっても魔力を吸い尽くしてから魔物の魔の字も見なくなって久しいけどどうせなら人の生活圏そばあたりまで見に行ってみよう。


 夜なら人間もでてこんやろ?


 なんて思ってたのがフラグだったんだろう、私があの少女と出会ってしまったのは…

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