第2話 腹ペコさんと狼さん

 …なんでこうなったんだろう?


 最初は親の悲しむ顔だった。私の生まれた村では白髪に金色の瞳は忌み子として扱われるらしい。


「どうして私達の子がっ!!」


 そんな母の悲痛の声が私という始まりだったのだろう。


 …ただ、愛してほしかった…


 忌み子と疎まれても、いい子でいようと私なりに頑張っていたんだと思う。

 父に飲み物を渡そうとして、手が触れてしまった。


「っ!!お、俺に触れるんじゃないっ!!」


 まるでキモチワルイモノに触れてしまったように弾かれた手が、凄く痛くて熱かった。


 …ただ、静かに暮らせるだけでも


 家から一歩でも出れば、多数の攻めるような目と、子供達の無慈悲な言葉と投石が、私の日常だった。


「朝から嫌なものみちゃったわ…」

「おいおい…それを家から出すなよ」

「昨日、俺が怪我したのもお前のせいだ!」

「私も見ちゃった!不幸になっちゃう!」

「化け物が出て来たぞ!やっつけろ!!」


 日々が苦痛と悲痛で怪我が絶える事はなかった。

 村の非難も家族に向かいだし、苛立った家族は私へと吐き口を求めた。

 口撃から攻撃に家と村から追い出されるのもすぐだった。


 …私が何をしたというの?


 村から着の身着のまま追い出され、彷徨い歩き、夜露を舐め空腹に耐えながら3日がたった。


 …お腹が…すいた…


 疲労と空腹で最初の夜の様な恐怖はすぐに考えていられなくなった。


 …もう……疲れた…


 すでに辺りは暗く月明かりを頼りに歩いてた足は止まり、その場で崩れるように倒れ込んだ。


ふと、顔を上げた先に美味しそうな赤い樹の実をつけた樹があったのに、心が折れた体は一ミリも動かせなかった。


『わふっ!』


 声が聞こえ再度顔を上げると、私と同じ色の生き物が、私の顔を覗き込んできてた。

 月夜に浮かぶその生き物を私は何故か凄く美しいと思った。


「…ぁ」


『クゥ~ッ』


 最後に美しいものを見れたのは幸せだと私は意識を失った。


 …あれ?…凄く甘い匂い?…あ、おいしい…


 甘い香りとポタポタ落ちてくる甘い雫に、微睡んでた意識が覚醒して目が覚めると、私と同じ色の生き物がシャクシャクと噛み砕いた赤い樹の実と汁を私の顔に零していた。


「?…わっぷ、な、な、なに?」


 慌てて飛び起きると、その生き物も私の顔も樹の実の汁でベタベタになってた。

 首を傾げて見つめるその生き物と状況につい可笑しく思った私は生まれて初めて笑ったような気がした。


「っぷ…あは、あはは、君、お顔ベタベタだよ?あはははは」


『…ふんっ』


 私と同じ色の生き物が不満げにベロリと口の周りを舐め取ると、私の顔もベロリと舐めてきた。


「わっ…あっ……もしかして、君が助けてくれたの?」


『わふっ』


 座り込んでた私の周りをぐるりと一周したその生き物は、目の前に戻り座るとまるでそうだと言わんばかりに吠えてきた。


「ありがとう。君は私に優しいんだね」


 嬉しい筈なのに何故かポロポロと涙がこぼれてきた。


『わ…わふっ』


 その生き物はまるで戸惑ったようにウロウロすると、傍に置いてあったまだ無事な赤い樹の実を私に押し付けてきた。


 それが私と私と同じ色をした生き物との出会いだった。

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