第6話

 私たちは同じ病気でありながら違う状況にある。

 同じ時間を過ごしていく内に、私はそんなことに気がつき始めた。だけど、そのことが君を酷く苦しめているという事実には、まだあまり気がつけていなかったみたいだ。



「恵実はさ、雨がなくても生きていけるんでしょ」


 梅雨の終わり、何度目かわからないふたりきりの放課後。君は雨に濡れながら、傘を差す私に聞いた。

 真っ黒に光る君の瞳。少し怒っているようにも見えて、私の胸の奥がぴきりと痛む。


「……薬のおかげだけどね」

「でもそうでしょ?俺とは逆」


 君は、出会った頃よりも随分と正直になった。

 まるでずっと、人知れず憤りを秘めていたかのように。


「恵実にはきっと俺の生きづらさはわかんないと思う」

「……それは、」

「やっぱり俺らはただ同じ病なだけで、全然違うよね」


 否定することも、反論することもできない。それは確かに事実だった。

 頭ではわかっていたはずなのに、言葉にされると悲しみが波音を立てて私を襲う。私が一緒にいることで、君をたくさん傷つけていた。


「恵実はもう、俺と一緒にいない方がいいんじゃない?」

「……なんでそんなこと言うの」

「知ってんだよ。恵実がいつも周りの目を気にしながら俺に会いに来てるって」


 息が喉で詰まる。また何も、言えない。

 君は、私のつまらない自尊心にまで気がついていた。


「同情ならいらない、俺みたいに変人扱いされる前に早く俺と縁切りなよ」


 雨が、私たちの距離を埋めようと一段と強くなる。傘を打つ雨音も激しくなり、目の前にいるはずの君の姿も濁っていく。吐き捨てられた言葉が、湿度の高い空気に滲んでいく。君はそれ以上何も言わず、私に背を向けて去っていく。

 追いかけたくてもできない。君のことを何も考えられていなかった私に、そんな資格はない。


 中途半端で生温い私は、君の信頼と、君自身を失った。

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