第3話

「私、恵実です。あなたは?」

遥輝はるきですけど、でもその、なんで急に俺と」


 掴んだ手首は離すタイミングを逸した。ずぶ濡れくん改め、遥輝くんの胸元には私のと同じ色のクラスバッジ。

 つまりは、同学年ということだ。


「君のことずっと見てた」

「…は?」

「いつも雨に打たれてるの、ずっとずっと見てた」


 実際、雨が降った日には君のことを探してしまうほどだった。

 少しも偽りのない言葉だったが、遥輝くんの顔が怪訝そうに曇る。触れられたくない部分だなんて、そんなのわかりきっている。

 だって私も、そうだから。


「……遥輝くん、雨欠症うけつしょうだよね」


 私がその言葉を口にした瞬間、彼はわかりやすく目を見開いた。


「なんでそれ、知ってるの」

「…私も同じ」

「……え?」

「私も、雨欠症だから」


 数秒の沈黙の後、遥輝くんが小さく、まじか、とまんまるの瞳で呟く。いつの間にか止まっていた私たちの歩み。君の表情が少し和らぐ、溢れた吐息には安堵が混じる。

 雨の降る駅までの一本道で、私と君の世界がやっと交わった。

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