第43話 VS 管理者④

 魔力のレーザーによって魔術障壁を突破された管理者はすぐさま青龍刀をクロスに構え、レーザーを受ける。


 圧倒的なエネルギーの奔流に管理者の腕は悲鳴を上げるが、限界に達する前に受け流すことで何とか防ぎ切る。


 だが、ダメージ自体は受けており、腕からは大量の血が流れている。


 あの状態なら、ヴァンとの鍔迫り合いは不可能だろう。


 この戦いでヴァンが一歩有利になったと思われた。


 だが、それは一瞬にして覆される。


 管理者は胸から緑色の札を取り出すと、それを自分の体に押し当てる。


 そうすると、腕の傷が一瞬にして塞がり、完全に回復したのだった。


 どうやら、あの緑色の札は回復の魔術が刻印された回復札のようだ。


 これは戦闘が長引きそうだな。


 ヴァンは心の中でそう思うと、自然と笑みが溢れてしまう。


 実際、ヴァンが本気を出せば、管理者など瞬殺することもできる。


 だが、それでは面白くない。


 だから、ヴァンはわざと力を封印した状態で戦っているのだ。


 まあ、彼が本気を出したら管理者どころか、この辺り一体が一瞬にして消滅してしまうため、本気を出せないと言った方が正しい。


 だから、ヴァンは全力を出さずにこの戦いを本気で楽しむ。


 そうして、ヴァンが戦いを楽しみまくっている中、管理者は苛つきを隠せていなかった。


 自分は本気でヴァンのことを殺しにかかっているというのに、当の本人であるヴァンはそれを全力で楽しんでいる。


 まずはそのことに苛つきを覚えた。


 そして、何よりも管理者の癇に障ったのはヴァンが全力を出さずに手加減をしていることだ。


 管理者から見てもヴァンが本気を出していないことは明白である。


 ヴァンはわざと自分と同じ実力に合わせて戦っている。


 それが何よりも自分に対する侮辱であった。


 管理者は何よりも手加減されることが許せなかった。


 だから、どうしてもヴァンが許せなかったのだ。


 ヴァンにも管理者の苛つきは伝わっており、ヴァンは相手の気持ちを逆撫でするようにヘラヘラした声で話しかける。


「やっぱり戦いは楽しいよなあ!?この手に汗握る攻防がたまんねえんだよ!!お前もそう思うだろ!?」


「手に汗握る?貴様はふざけているのか?お前はただ自分の力を封じて遊んでいるだけだろう?」


「おいおい、テメェの実力がねぇから戦いを楽しむために本気が出せてねえんだよ。悔しかったらもう少し頑張ってくれねぇか?」


「貴様ぁぁぁあああああ!!!!!」


 ヴァンに煽られた管理者は怒りを抑えられず、怒りのままに吠える。


 その姿を見たヴァンはあまりにも滑稽過ぎて笑いが溢れそうになるが、必死に我慢する。


 しかし、我慢しきれずに吹き出してしまう。


 それを見た管理者は更にブチギレる。


 管理者は自分の実力がないためにヴァンに煽られていると思っているが、特にそういうわけでわはない。


 ヴァンは相手が弱者であってもその者の実力に合わせて力を制限するため、彼にとってはあまり力など関係ない。


 まあ、強い相手の方が戦っていて楽しいので、なるべくならば、強い相手と戦いたいとも思っているが。


 そして、力を制限しても圧勝してしまう相手は戦っていてもつまらないため、早急に排除されてしまう。


 そのため、ヴァンは相手のことを基本的に面白いか、面白くないかの二択で決めている。


 ヴァンは弱者と戦う時は基本的に早急に片付けるため、煽る暇などない。


 しかし、今回の管理者はどちらかといえば、強い方であるため、ヴァンから面白い判定を喰らっている。


 何よりもヴァンはグリモワールが大嫌いであるため、構成員の中でも実力があり、絶対の自信のある自分よりも弱い奴を見ると煽りたくなってしまうのだ。


 後は相手に本気を出させるために煽ったりもする。


 ヴァンに煽られた管理者は怒りのままに様々な札を投げつけてくる。


 その中には今まで見たことのない札も含まれており、この攻撃を捌き切るのは少し骨が折れそうだ。


 ヴァンはこのまま戦っても良かったのだが、このまま戦えば泥沼合戦は避けられないだろう。


 それは流石に面白くない。


 なので、管理者の怒りに答えてあげるためにもヴァンは少しだけ力を解放することにした。


 ヴァンは一言唱える。


『ハウルーーーー』


 そう唱えた瞬間、ヴァンから圧倒的な魔力が溢れ出す。


 溢れ出した魔力は投げられた札たちを吹き飛ばし、地面や壁にぶつかり起動する。


 雷や爆発、衝撃など様々な現象で入り乱れる空間の中でヴァンは管理者を見つめながら呟く。


「さあ、ここからは少し俺の力を見せてやるぜ?しっかりついて来いよ?」


 相手が今の自分にどれほどついて来れるのか楽しみにしていると。


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