第39話 不意打ち
極秘拠点の中をルート通りに進んでいると、いつの間にか目的地に着いてしまう。
ここまであまりにも順調であったため、ヴァンはつまらなそうな顔をしている。
せっかくグリモワールの幹部すらも出入りしている拠点なのに、今回は運が悪く、その幹部とやらはいないようであった。
本来ならば、喜ぶところをヴァンは残念がっていたが、それでも仕事である。
受けた仕事は必ずこなすのがヴァンだ。
なので、ヴァンは扉の向こう側にいるであろう管理者を仕留めに行くことにする。
このまま中に入ろうとすれば、扉を開くこととなり、光学迷彩などを使っていたとしても流石にバレてしまう。
そのため、扉の外から広範囲攻撃で吹き飛ばすのが最適であろう。
ヴァンは音を立てないよう静かに変形していく。
このまま不意打ちで相手がやられてしまった場合、所詮その程度の実力しかなかったわけだ。
その程度の実力者と戦ったところで満足のいくものにはならないだろう。
ヴァンは戦いは好きだが、虐殺は好きなわけではない。
仕事ならば、虐殺も行うが、自ら進んでそのようなことはしない。
やはり鬼気迫る戦いの方が面白いとヴァンは思う。
ヴァンは静かに体を変形させ、砲台へと変わると、そのままエネルギーをチャージしていく。
このまま扉ごと中の部屋も全て吹き飛ばす。
そうして、ヴァンがレーザーを放とうとした時、先に扉が魔弾によって吹き飛ばされ、砲台へと変形したヴァンへと飛んでくる。
ヴァンは慌てて変形した砲台の中から勢い良く飛び出すと、砲台は魔弾の直撃と同時に大爆発を起こし、跡形も残らずに爆散した。
ギリギリのところで魔弾を回避したヴァンの表情には焦りというものはなく、ただ喜びの感情が出ている。
『やっとだ!!やっと強そうな敵に出会えたぜ!!これは楽しめそうだぜ!!』
これが今のヴァンの心の中の声だ。
ついに、骨のありそうな敵と出会えたことにヴァンは素直に喜んでいる。
ヴァンは興奮気味に相手へ視線を向けてみると、爆煙の中から一人の男が出てくる。
その男の身長は180センチほどで、ヴァンよりも頭一つ小さい。
頭はスキンヘッドであり、フードを浅く被っている。
顔には数多の傷があり、その傷たちがどれだけの修羅場を潜り抜けてきたのかを物語っている。
体は筋肉質であり、鍛えられた筋肉が服越しに浮かび上がっている。
服装は古典的な衣装であり、明らかに現代には似つかわしくない装いだ。
そして、服の上にはフード付きの外套を身に纏っており、その外套にはエンブレムが描かれている。
そのエンブレムはグリモワールを象徴するものであるが、一般的なエンブレムとは少し形が違う。
一般的なエンブレムよりもより複雑な模様となっている。
これはきっと、組織内の一般構成員と一瞬で見分けがつくようにするためなのだろう。
そして、少し短めの青龍刀がそれぞれの手に一本ずつ握られている。
彼が少し短い青龍刀を使っているのは室内戦を想定しているためだろう。
そんな彼が持つ青龍刀はただ剣ではなく、剣の刃には複雑かつ強力な術式がびっしりと刻まれており、あれが魔剣であることが分かる。
魔剣とは、魔術が施された剣の通称である。
ヴァンが相手の出方を窺っていると、青龍刀を持った管理者が口を開く。
「まさか、迷い込んだのがネズミではなく、猛獣だったとはな。これは手間がかかりそうだ」
「それはありがたい。戦いってのは一瞬で決着がついたら味気ねぇからな」
「ふん、貴様など戦いを楽しむ暇すらも与えずに殺してくれる。大人しく降伏するならば、楽に死なせてやる」
「おいおい、それじゃあつまんねぇじゃねえか!やっぱり最後まで足掻いてこそ戦いだろ!テメェは戦いの楽しさってものを理解していねぇな?」
「そんなもの理解する必要はない。俺はただ侵入者を排除するだけだ」
管理者はそう言うと、青龍刀を構える。
ヴァンもそれに呼応するように臨戦体勢に移行する。
「その構えに特徴的な武器、どこかでみた気がするが、どこかで会ったこととかあるか?」
「そんな記憶はない」
「そうか、、、まあ、気にするだけ無駄か。お前はここで殺されるんだからなあ!!」
ヴァンはそう叫ぶと同時に、いつの間にか砲身へと変形させていた腕を構え、管理者へ向けて放つ。
そうして、二人の戦いは幕を開けたのだった。
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