第38話 極秘拠点への潜入

 極秘拠点へと繋がる隠し扉を開けたヴァンはそのまま進んでいく。


 先ほどの通路とさほど変わりはなく、本当にこの道で合っているのか疑いたくなる。


 が、それはこの通路の狙いなのだろう。


 わざわざ似たような通路にすることで、一定数の馬鹿を騙すことが出来る。


 まあ、そもそもバカは最初の隠し扉のギミックを解けるのかすらも怪しいが。


 ヴァンは隠し通路を進んでいくと、少し開けた場所にやってくる。


 目の前にはエレベーターの入り口らしきものと、その隣には階段がある。


 いつものヴァンであれば、エレベーターで降りて敵を皆殺しにするところだが、今回は潜入作戦だ。


 大人しくバレないよう階段で降りることにする。


 そうして、ヴァンが階段を下っていると、前から何者かが上がって来ていることに気づく。


 ヴァンは完全に気配を殺し、壁に寄って待っていると、グリモワールの構成員らしき人物が二人階段を登ってくる。


 階段は広い作りになっているため、二人横並びで上がって来てもヴァンに気がつくことはないだろう。


 ヴァンは息を殺し、耳を澄まして二人の会話に耳を向ける。


「そう思えば、エンジとミーヤがやられたそうじゃないか。あの二人は優秀だったのに残念だよな」


「まあ、仕方ないさ。相手はあのヴァン・セントだろ?あいつらの実力じゃあ、勝てるわけもないからな」


「違いねぇや。俺たち程度じゃ、束になったとしてもヴァン・セントに勝てるわけないもんな。いくら優秀だとはいえ、俺たちに毛が生えた程度の実力じゃあ、あの化け物には勝てるわけない」


「そうそう、俺たちじゃあ、どう足掻いてもヴァン・セントには勝てないから、会わないことを願うしかないよな」


「だな」


 どうやら、この二人はヴァンがエンジとミーヤを倒したことについて話しているらしい。


 確かに、ここはグリモワールの拠点ということもあり、その話題で盛り上がっているのは大いにあり得る。


 そして、この二人はヴァンに会いたくないと言っていたが、ちょうど二人の真横にはそのヴァンがいる。


 しかし、高度な光学迷彩と隠蔽魔術により、全く気付いていない。


 ヴァンは一瞬、姿を現してこの二人を驚かそうとも考えたが、変に自分が潜入していることがバレるリスクを高める必要はないと諦める。


 そうして、ヴァンについて話している二人が通り過ぎたのを確認すると、そのまま下へと降りて行く。


 下に降りて行く最中、何回か階段を登る構成員と鉢合わせたが、誰も光学迷彩を使っているヴァンには気づかなかった。


 所詮は末端構成員といったところか。


 そのため、ヴァンはすんなりと階段を降り切ることができた。


 階段を降りたヴァンは視界にこの極秘拠点の地図を映し出す。


 こちらはヴァンが送られてきた情報を見ている際の視界データから複製した地図である。


 そのため、安全かつ正確性に優れた地図になっているのだ。


 ヴァンはその地図に書かれているルート通りに極秘拠点を進んでいく。


 ここはグリモワールの極秘拠点ということもあり、中は魔術による侵入者対策もバッチリである。


 普通ならば、隠蔽の魔術や光学迷彩だけではこの魔術に引っかかっていただろう。


 しかし、ヴァンはこの世界に流通している魔術とは違う系統であるため、これらの魔術には引っかからない。


 なので、ヴァンは魔術で張り巡らされた通路を当たり前のように堂々と歩いている。


 ヴァンは記されたルート通りに極秘拠点を歩きながらふと思う。


 こんなにも精度の高い地図を作れるのなら、自分の手勢で攻めた方が良いんじゃないかと。


 あいつの手勢の中にはヴァンですらも苦戦を強いられるほどの実力者がゴロゴロいる。


 そのため、わざわざヴァンに依頼を出さなくても自分たちだけで問題なくこの極秘拠点の破壊と管理者の暗殺など出来るのだ。


 それに、これだけ罠が張り巡らされていても彼の手勢なら問題ないのだ。


 なぜ、わざわざ自分に依頼を出したのかと不思議に思う。


 まあ、彼の手勢は重要な仕事を任せられていることが多いため、たまたま手が空いている者がいなかったのかもしれない。


 もしも、この依頼に裏があったところでヴァンには関係ない。


 ただ自分の邪魔をする者を全て潰すだけだ。


 それがヴァンのモットーなのだから。


 それに、この依頼はとても面白そうなのだ。


 そうして、ヴァンはこれから戦うであろう強敵に思いを馳せながら極秘拠点の中を進んで行ったのだった。

 

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