第37話 隠し通路
ヴァンが部下の店員に小声でそう質問すると、相手もヴァンにしか聞こえない声で答える。
「このビルにはVIPしか入れない下層のエリアが存在しています。そこへご案内するフリをして貴方を極秘拠点の入り口まで連れて行きます」
「分かった。だが、一つ良いか?俺をVIPに連れて行くってのは良いが、そもそも俺をVIPに連れて行くのは怪しまれねぇのか?」
「それは問題ないでしょう。貴方はこの場で見せつけるようにブラックカードで支払いを済ませましたので。そう仕向けたのは私ですが」
「流石はあいつの部下と言ったところか。用意周到だな」
「お褒めにいただき感謝致します。それでは、VIPルームへの案内をさせていただきますね」
店員はそう言うと、ヴァンを連れて地下三階の中を案内し始める。
その時に知ったのだが、この辺りにあるブランドの店があいつの会社の系列店であった。
それも先ほどネックレスを購入した宝石店もそうである。
ヴァンはしてやられたと思ったが、金など腐るほど有り余っているので、そこまで気にしてはいない。
ただあいつに出し抜かれたことが悔しいようである。
そうして、ヴァンは店員に連れられて、関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開け、中へ入る。
どうやら、ここはバックルームになっているらしい。
ヴァンは店員に連れられてバックルームの中を歩いて行く。
そして、しばらく中を歩くと、店員は立ち止まる。
しかし、周りを見ても特に何か異常はない。
至って普通のバックルームだ。
ヴァンが不思議そうにしていると、店員が壁に手を当てる。
そうすると、手で押さえた場所が沈み、隠し扉が現れる。
どうやら、先ほどの場所はスイッチになっているようだ。
それも機械的な機構ではなく、魔術を使っているものだった。
ヴァンはそれを見てグリモワールの奴らの仕掛けであるとすぐに見抜く。
そうして、VIPルームへと隠し扉が現れた後、店員から色々と教えてもらう。
一応、この扉の先にすぐVIPルームがあると言うわけではなく、しばらく歩かなければならないこと。
このビルの中にある隠しVIPルームではこの街でも取引が困難な品などが売られていると言うこと。
例えば、危険なドラッグはもちろん、美しい女性の奴隷や条約違反の危険兵器など様々である。
それらの物には一切興味はないが、このVIPルームを利用している者たちに関しては少し気になる。
気が向いたら一度顔を出してみるのも良いかもしれない。
どうせ、極悪人ばかり集まっているので、賞金首ドットコムで荒稼ぎできそうなのもポイントが高い。
そして、この通路にも隠し通路が存在しており、その隠し通路を通ることで極秘拠点に侵入することが出来るそうだ。
そうして、VIPルームへと繋がる扉まで案内されたヴァンは作戦の内容を頭の中で再確認していると、
「それでは私の案内はここまでです。この先にはグリモワールの構成員で溢れかえってますので、くれぐれも気おつけてください」
店員はヴァンにそう言いながら頭を下げる。
どうやら、彼女の仕事はここまでらしい。
ヴァンにそのことを伝えると、店員は慣れた足取りで店の中へと戻って行く。
そして、ヴァンは一人になる。
ヴァンは一人になったことを確認すると、カウボーイハットをしまうと、バイザーが顔を覆う。
バイザーで顔が完全に隠れた後、ヴァンは光学迷彩を起動する。
ヴァンのサイボーグの体には光学迷彩の機能が備わっている。
それも超高度な光学迷彩であり、空間の揺らぎはもちろん、電子機器の熱センサーや紫外線センサーなどにも引っかからない。
探知魔術などには引っかかってしまうが、ヴァンはそもそも魔術を使えるので、そちらの対策もバッチリである。
そのため、今のヴァンは触れない限り相手にバレることは滅多にない。
光学迷彩を起動したヴァンは音が鳴らないように扉をゆっくり開ける。
そして、最小限の隙間で中へ入ると、周りを一度確認してみる。
通路は全体的に暗く、幅は思っていたよりも広く、複数人で歩いても余裕がある。
他には特にこれといった特徴はなく、点検用の通路と言われても違和感はない。
ヴァンはそんな通路を足音を立てずに進んでいく。
送られてきた情報によると、しばらく進んだ先の壁に隠しスイッチが複数個あり、それを特定の順序で押すことで極秘拠点へと繋がる扉が開くそうだ。
そして、この時間帯によくグリモワールの連中が出入りしているため、怪しまれる可能性は低いとのことである。
そうして、隠し扉の場所までやってきたヴァンは情報通りにボタンを押して行くと、目の前の壁がゆっくりと開いて行く。
音はとても静かで、耳を澄ましていれば何とか聞こえる程度だ。
極秘拠点へと繋がる隠し扉を開けたヴァンはそのまま中へ入って行ったのだった。
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