第36話 楓へのお土産

「さて、ここがグリモワールの極秘拠点か。極秘なだけあって普通の建物にしか見えねぇな」


 ヴァンは目の前にあるビルを見ながらそう呟く。


 目の前にあるビルは至って普通の商業ビルで、何かしらの拠点であるように思えない。


 だが、情報によると、このビルの中に極秘拠点があることになっている。


 とりあえず、送られてきた情報通りに中へ入ってみることにする。


 どうやら、このビルのはるか地下に極秘拠点が隠されているらしい。


 ヴァンは多少疑いつつも送られてきた情報の通りに道を歩いていく。


 そうして、ヴァンは地下三階のエリアにやってくる。


 ここは上階よりも全体的に店のグレードが上がっており、高級店が立ち並んでいる。


 ヴァンは傭兵活動で大金を稼いでいるので、この辺りにいても違和感はない。


 ヴァンが周りを確認してみると、上階に比べて客も店員の数も圧倒的に少ない。


 自分へ向ける不審な目も今のところは確認できない。


 ここは一旦、客のフリをする。


 何か良いものはないかとヴァンは地下三階を歩いていると、たまたま宝石店を見つける。


 どうやら、ここはサーカスでも有名な宝石店らしく、並んでいる装飾品の品質も高い。


 これは楓のいいお土産になるなと思ったヴァンは宝石店で彼女に似合う装飾品はないかと探し始める。


 そうして、ヴァンが装飾品を見ていると、


「今日はどのようなものをお探しですか?」


 この宝石店の店員がヴァンに話しかけてくる。


 ヴァンはその見た目からあまり店員から話しかけられることはない。


 そもそもヴァン自体がこのサーカスでも有名であるため、一般市民からは恐れられており、店員以外からもなかなか話しかけられない。


 なので、話しかけられる時点でも珍しいのだが、彼女の声色からは恐怖が感じられなかった。


 表情を確認してみても特にヴァンを恐れているような雰囲気はない。


 そんな店員を見たヴァンは心の底から怪しいと思った。


 だが、ここで変に疑ってしまうと、何か問題が起きるかもしれないので、ここは普通に接することにする。


「ああ、少し装飾品が欲しくてな。良いのがねぇかと探してるところだ」


「それはご自分用のものでしょうか?それとも贈り物でしょうか?」


「贈り物だ。白い髪に似合う装飾品とかはねぇか?」


「少々お待ちください」


 店員はそう言うと、展示されている装飾品の方へ向かう。


 そうして、店員を待っていると、一つの装飾品をヴァンの元へ持ってくる。


「こちらのネックレスなどはどうでしょうか?」


 そう言いながら店員が見せてきたのは綺麗な赤色の宝石を基調としたネックレスであった。


 ヴァンはそのネックレスを見た時、それをつける楓の姿を思い浮かべてみる。


 確かに、この店員の見立ては当たっていた。


 このネックレスを楓がつけたらとても似合うだろう。


 それだけに、この店員のことを怪しく思う。


 どうして、ここまで楓にピッタリなネックレスを見つけてくれたのだろうかと。


 もしかしたら、ただの偶然かもしれない。


 だが、どうにもこの店員は怪しい。


 ヴァンは店員に疑い目を向けていると、


「それではご会計の方は200万ミランになります。カードでお支払いになりますか?」


 店員が勝手にヴァンがこのネックレスを買うことを前提に会計を進め始めた。


 実際、ヴァンはこのネックレスは買う予定ではあったものの、どうにも急かされているような気がしてならない。


 それに、買うと一言も言っていないのに勝手に会計を始める店員など見たことがない。


 この店員はやっぱりおかしいんじゃないのか?


 ヴァンはそう思いつつもクレジットカードを取り出し、支払いを済ませる。


 ちなみに、ヴァンのカードの色はもちろん黒である。


 ネックレスの支払いを済ませたヴァンは買った後にふと思う。


 このネックレスについている宝石は一体何なのだろうかと。


 このネックレスは200万ミランもした。


 これはまあまあな高額である。


 天然のSランクルビーでも使っているのかとヴァンは考えていると、


「お待たせしました。こちらが先ほどご購入されたネックレスでございます」


 店員が専用の箱に収められたネックレスを手渡してくる。


 ヴァンもそれを素直に受け取る。


 そして、ヴァンがネックレスを受けった瞬間、


「きっと、そのネックレスを貰った楓さん・・・は大変喜ぶと思いますよ?」


 店員は本来知るはずのない人物の名前を口にする。


 それを聞いたヴァンは相手の正体を確信する。


 最初からこの店員は怪しかった。


 何かしらの裏があるとは思っていたが、まさかあいつ・・・の差金だったとは。


 ヴァンはため息をついた後、こう答える。


「それで?今からどう動けばいい?」


 この店員は彼の友である電話相手の部下であったのだった。

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