第35話 出発

 翌朝、ヴァンは楓に起こされることで目を覚ます。


 相変わらず、楓は早起きであり、ヴァンのために朝ごはんまで用意してくれている。


 本当にできた子だなと何故か、兄や父親の目線から楓のことを心の中で褒める。


 ヴァンは楓が作ってくれた朝ごはんを平らげると、ソファーに座り、コーヒーを飲みながら朝のニュース番組を見る。


 また昨日のように自分の偏向報道がされているのかとも思ったが、特にそんなことはなかった。


 まあ、あれだろう。


 あまり偏向報道をし続けるとヴァンに襲撃されるかもしれないと怯えてしまったのだろう。


 確かに、あまりにも酷すぎる場合は放送局に突撃するかもしれないが、抗議するだけで特に殺人などはするつもりはない。


 ヴァンは戦闘は好きでも別に人殺しが好きなわけではないのだ。


 依頼でなければ、相手を殺さないことも普通にある。


 何なら、仲のいい知り合いとかだったら、暗殺依頼でも普通に逃したりもする。


 彼は本当に気まぐれで自分勝手な傭兵なのだ。


 まあ、それでも彼の実力は確かなので、ギャンブル感覚で依頼をする人が多いのは確かだが。


 ヴァンはボーッとしながらテレビを見ていると、家事を終えた楓が隣に座ってくる。


 もちろん、ゼロ距離だ。


 こうやって二人が並んでいると、まるで本物の兄妹のように見える。


 そうして、二人で並んでテレビを見ていると、


「そうだ、ヴァン?昼ごはんは食べていくのか?」


 楓は思い出したかのように昼食はいるのかと質問する。


 それに対してヴァンは答える。


「いや、今日は大丈夫だ。帰りもどうなるか分かんねぇから先に食べておいてくれ」


「分かった。一応夜ごはんの用意はしておく。ヴァンなら早く仕事が終わりそうだしな」


「それはあれか?早く帰って来いって圧をかけてんのか?」


「ああ、そうだ。一人でごはんを食べるのは寂しいからな。なるべくなら二人で食べたい」


 そう言う楓の顔は少し寂しそうだ。


 そんな顔でそんなお願いされたら断れるわけがない。


 ヴァンはため息をついた後、


「分かった分かった。今回はなるべく早く終わらせてくるぜ」


 なるべく早く帰ってくることを約束する。


 ヴァンがなるべく早く帰ってくると約束してくれたことが相当嬉しかったのだろう。


 楓の顔は満面の笑みに変わる。


 楓の満面の笑みを見たヴァンは心の底から可愛いと思った。


 そして、嬉しそうな楓を見て、ヴァンも何だか少し気分が明るくなった。


 こんな感覚はいつぶりだ?


 ヴァンはサイボーグになってから久しく忘れていた感覚に懐かしさを覚える。


 それと同時に、楓と出会ってから自分は少し変わったかもしれないとも思った。


 何だか、昔の自分に戻ったような感覚だ。


 それは果たして良いことなのかはヴァンにも分からない。


 だが、今はそこまで気にする必要もないだろう。


 まずは目の前の仕事をこなすのが優先だ。


 今回は強者とも戦える神のような仕事なんだ。


 全力で挑むに値するだろう。


 まあ、しょうもない敵としか戦えない依頼だったら、そもそもヴァンは受けていないのだがな。


 そうして、ヴァンは楓とテレビを見ながら雑談をしていると、出発の時間がやってくる。


「それじゃあ、俺は仕事に行ってくるからな」


 ヴァンは楓にそう言うと、彼のトレンドマークとも言えるカウボーイハットを被っている。


 相変わらず、カウボーイハットを被ったヴァンは目立つなと楓は思う。


 まあ、潜入作戦を任せられるくらいには実力があるので、あまり心配する必要はないかと楓は気にしないことにする。


 ヴァンは楓にそう伝えた後、事務所をあとにする。


 残された楓は下手に外に出ると捕まってしまうので、大人しく部屋でテレビでも見ながら待つことにしたのだった。

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