第29話 この世界に来た理由

 ヴァンから本当は実力者なのかと聞かれた楓は、


「ヴァンの言う通り、本来の私は強いと言っても差し支えないだろうな」


 あっさりとそのことを認める。


 しかし、彼女はただヴァンからの指摘を肯定しただけではない。


 彼女の言葉には含みがあった。


 そのため、ヴァンは質問する。


「それじゃあ、今は本来の力は使えねぇってことか?」


「ああ、そうなるな。私も分からないのだが、本来の力のほとんどが使えない状況なんだ。今はせいぜい普通の女の子程度の力しかない」


「なるほどな。それで、今更すぎるんだが、楓の身に何かあったのか聞いても構わねぇか?そこんところ知ってた方が何か手掛かりになるかもしれねぇし」


「分かった。私の知っている範囲で話そう」


 そうして、楓は自分の身に起きたことを話し始めた。


 その日、楓はいつものように母親に見送られて大学へ向かっていた。


 時期は6月中旬であり、すっかり大学生活には慣れ、日々を楽しんでいた。


 その日もいつもと何ら変わりなかった。


 いつものように通学路を歩いていると、気づいたら知らない場所にいた。


 それは何の前触れもなく、いきなりの出来事だったのだ。


 楓はいきなりの出来事に理解が追いつかずに混乱していると、いかにも宗教家のような見た目の者たちが来た。


 楓はその者たちを危険視し、魔術で攻撃しようとしたのだが、一切魔術が起動しなかった。


 そのため、別の攻撃手段で迎撃しようとしてもその力も使えず、その時に楓は自分の力が使えなくなっていることに気がついた。


 それに、身体能力の方も大幅に下がっており、普通の女の子と変わらない身体能力になっていた。


 楓は抵抗する手段がないため、彼らの話をとりあえず聞いてみた。


 彼らの話を聞いてみた感じ、楓は彼らによってこの世界に召喚されたのだと言うことが分かった。


 楓はこのような強制召喚に対抗するために様々な対策を講じているのに加え、彼女の父親からも対策用の防犯グッズも持たされている。


 普通ならば、彼女を召喚することは不可能だ。


 しかし、実際に楓は何者かによって召喚されてしまった。


 これは異常事態と言わざるおえない。


 それに、この世界に召喚された時、魔法陣どころか、術式すらも感じ取れなかった。


 そのことから、この召喚は魔術とは別の力による召喚の可能性が出てきた。


 そうなると、この召喚の儀式を行なった者は相当上位の存在になる。


 それば相当まずい案件だ。


 自分では解決どころか、首を突っ込むことすら危ない案件になってくる。


 そして、彼らが自分のことを生贄に捧げようとしていることに気がついた。


 楓はこのままでは自分は殺されると思い、どこか別の場所へ連れて行かれそうになったタイミングで逃げ出し、ヴァンと出会った。


 一連の流れを聞いていたヴァンは思う。


 楓はこの世界の住民ではないと。


 そのことが分かったヴァンは彼女と最初に出会った際に感じた違和感に納得がいく。


 違う世界から召喚されたのであれば、自分たちとは生物として大きく違うことは何らおかしなことではない。


 今まで分からなかった謎が解けてヴァンは少し気分が上がる。


 そして、ヴァンは先ほどから気になっていたことを楓に質問してみる。


「それで、本来の力の楓と俺が戦ったらどっちが強いんだろうな?」


 それは本気の楓は自分と比べて強いのかどうかと言う疑問だ。


 ヴァンから質問された楓は彼らしい質問だなと思う。


 そして、楓はため息をついた後に彼からの質問に答える。


「それは十中八九ヴァンだろうなれ


 自分よりもヴァンの方が強いと。


 そのことを聞いたヴァンは楓がどうして、自分の方が強いと思ったのか気になった。


 そのため、ヴァンは直接尋ねてみることにする。


「それはどうしてだ?」


「ヴァンと私とでは実践経験の差がありすぎるからだ。私は確かに強いが、実践経験はない。本気の殺し合いというものをしたことがないんだ。それに、ヴァンは自分が思っている以上に力を持っている。だから、私ではヴァンに勝つことは難しい」


「なるほどな。確かに、実践経験のないとキツい可能性は高いな。それに、自分ですら気づいていない力か、、、そんなもの俺には本当にあるのか?」


「あるぞ。さっきも言っただろう?私は目が凄く良いって。だから、私にはヴァンの眠っている力が見えるんだ。まあ、その引き出し方までは流石に分からないがな」


「楓が言うならそうなのかもな。俺にはちっとも分かんねぇが」


 そうして、二人で話していると、


「ヴァンもそろそろお腹が減っているだろう?結構遅い時間だしな。今から夕食の準備をしてくる」


 楓が夕食の準備のためにソファーから立ち上がった。


 そして、ヴァンは一人になった。

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