第28話 楓の実力
その人物と出会ったのはまだヴァンが生身の人間だった時のことだ。
たまたま道を歩いていると、今にも野垂れ死しそうな様子で倒れている男と出会った。
このまま無視するのが正解なのだろうが、その時のヴァンはその男を助けた。
この頃のヴァンは今とは随分違い、誰にでも優しい争いが嫌いな少年だった。
ヴァンはその男を助けると、彼から感謝され、
『もしも、君が本当に困った時が来たら必ず僕が君を助けるよ』
この言葉を残し、再びどこかへ旅立ってしまった。
それからどれくらいの月日が経ったのだろう。
ヴァンは大切なものを全て奪われ、その命の灯火さえも消えかけている時、その男はヴァンの前に現れた。
そして、ヴァンに一つの提案をした。
『僕は君を助ける方法がある。君はどうしたい?』
このまま死に絶えるか、サイボーグの体になり、新たな生を得るのかと。
ヴァンはサイボーグになることを選び、今に至ると言うわけだ。
ヴァンはその男との出会いからサイボーグ化までの話を楓に話した。
そして、現在もたまに体のメンテナンスを行なっていることも話した。
メンテナンスはあっちから直前に入り、その男がどこにいるか自分も把握していないことも楓に話した。
ヴァンから一連の流れを伝えられた楓は複雑そうな表情を浮かべている。
だいぶ話は端折ってはいるが、それでもヴァンの身に不幸が降りかかったことも、体の大部分を捨て、サイボーグ化することしか選択肢がなかったことも分かった。
楓はその時のヴァンに感情移入してしまい、つい涙をこぼしてしまった。
そんな楓を見て、ヴァンは彼女はとても優しい人なのだと思った。
他人のために涙を流せる人など思っているよりも少ない。
人間という生き物は皆が思っているよりも醜く、残酷なのだ。
だから、人間は神から見放され、一度は絶滅してしまったのだろう。
ヴァンからその封印を施した男の話を聞いた楓は涙を拭いた後、その男に心当たりはないかと過去の記憶を思い出してみる。
確かに、ヴァンの体はとても高性能であり、楓の知り合いには彼の体を作れる者は何人もいる。
しかし、その全員はヴァンの体を作ったこととは無関係であることが確定している人物たちだ。
だから、楓はその男が誰なのか分からなかった。
一体、ヴァンの体を作ったのは誰なのだろうか?
楓の中で大きな謎が残るだけの結果に終わった。
もしも、知り合いだった場合、そのまますぐに帰れると思っていたのだが、物事はそう上手くいかない。
それならば、その人物に接触できれば、元の世界に戻れるかもしれない。
戻れないにしてもあっちと連絡がつくかもしれないと思っていたので、ヴァンですら居場所を把握していないと聞いた時は残念に思った。
とりあえず、第一の目標が定まったことで良しとしよう。
そうして、楓とヴァンはリビングに来ると、そのまま二人横並びでソファーに座る。
相変わらず、楓はくっついてくるので、ヴァンは諦めて何も言わない。
ソファーに座った二人がテレビでニュースを見ていると、楓が話しかけてくる。
「そう思えば、ヴァンの魔術はあのグリモワール?とか言う連中とは違う魔法文字を使っているようだが、それはオリジナルだったりするのか?」
「ああ、そうだな。グリモワールの奴ら、ていうか、この世界で使用されている魔法文字じゃ俺は魔術が使えねぇんだ。だから、仕方なくオリジナルを作る羽目になったってわけだ。ていうか、そのことも気づいていたのかよ」
「まあ、私は国の中でもトップクラスの才能を持つ天才美少女と呼ばれていたからな。それくらい分かる」
「確かにそうかもしれねぇが、自分で言ってて恥ずかしくねぇのか?」
「うん、ちょっと恥ずかしい、、、」
そう言うと、楓は恥ずかしそうに頬を少し赤らめながら下を向いた。
その姿を見たヴァンは、
(なんで、こいつはこんなに可愛いんだ?)
楓の可愛さに胸を打たれていた。
しかし、すぐに思考を切り替えて気になったことを楓に聞いてみる。
「気になってたんだが、なんで楓はすぐにオリジナルの魔法文字って分かったんだ?普通なら別の系統の魔法文字を使っていると考えると思うんだが?」
「ああ、それはだな、ヴァンが使っている魔法文字はヴァンに最適化されていることに気がついたからだ」
楓はそう言うと、ヴァンに詳しい話をする。
一般的に流通している魔法文字は誰でも扱えるよう汎用性が高められたものが殆どだ。
そのため、個人の最適化などはされておらず、どうしても無駄な要素が出てきてしまう。
一方、オリジナルの魔法文字は自分が使うためだけに生み出されたと言うこともあり、その人物に最適なものとなっている。
そして、ヴァンの使う術式は汎用性に欠け、ヴァンが使う際には全くの無駄がなかったことにより、楓はオリジナルだと結論づけた。
そのことを説明されたヴァンはつくづく楓の圧倒的な才能に驚かされる。
それと、ヴァンは一つの結論に至る。
それは、
「なあ、楓?お前ってもしかしなくてもめちゃくちゃつぇだろ?」
楓が実力者であると。
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