第22話 ヴァンの二つ名

 レーザーブレードを防がれたヴァンは足のジェットブースターを蒸し、その勢いのまま蹴りつける。


 しかし、異端審問官は蹴りを完全に見切っており、蹴りを槍の柄の部分で防ぐ。


 蹴りを防がれたヴァンは左足を変形させ、レールガンを生成する。


 そして、レールガンを異端審問官へ向けて放った。


 レールガンは銃身から音速を超える速度で砲弾が放たれ、異端審問官に直撃するかと思われた時、ヴァンと異端審問官の間に壁が生まれる。


 その壁は青色透明の壁であり、魔術障壁とどこか似ている。


 しかし、その強度は桁違いだった。


 ヴァンのレールガンを一つも傷なく防ぎ切ったのだ。


 ヴァンはそのことを鬱陶しく思うどころか、どこか嬉しそうである。


「ホーリーシット!!あれの直撃を受けて無傷とはな!!それが、お前の祝福か!?異端審問官!!」


 ヴァンはどこか嬉しそうに異端審問官に語りかける。


 神聖教会における異端審問官とは、主に世界を脅かさんとする者たちを暗殺する者たちだ。


 正面から敵を打ち砕く神聖教会の象徴とも言える聖騎士とは役割が対極である。


 そして、異端審問官はオリオンからの祝福を受けており、何かしらの特別な力を有している。


 どうやら、この異端審問官は防御系の力を授かっているようだ。


 ヴァンは思わぬ強敵との戦闘に高揚していると、横槍を入れられてしまう。


 ヴァンが異端審問官に意識を集中している隙にまだまだ残っている信徒たちはヴァンへ向けて一斉に光の矢を放った。


 ヴァンは超反応により、光の槍を魔術障壁によって防ぐ。


 それと同時に、背中を変形させ、大型のミサイルポットを再生する。


 そして、ミサイルポットからは穴が無数に開いた球体が何個も射出される。


 射出されたボールが信徒たちの真上にきた瞬間、無数に開いた穴からレーザーが放たれた。


 ボールから放たれたレーザーは信徒たちのことを貫き、何人もの信徒をあの世へ葬る。


 そして、ボールは回転しているため、レーザーの軌道も予測不能であり、信徒たちは対応できずに大きく数を減らす。


 これで邪魔者は消えただろう。


 ヴァンはそう思うと、異端審問官へ意識を戻す。


 一方、異端審問官はヴァンへの注意を怠らずに後方で蹂躙されている信徒たちの様子を窺っている。


 このまま彼らがいても無意味だ。


 異端審問官はそう判断する。


 実際、彼らの援護はヴァンに対して全く効果的ではなく、肉壁にすらなれない。


 それならば、彼らは早々に引かせた方がいい。


 そう判断した異端審問官は信徒たちに指示を飛ばす。


「貴方たちは今すぐ引きなさい!!この場にいても無駄死にするだけです!!」


 異端審問官から弾くように指示された信徒たちは不平不満を一切吐くことなく、彼の指示通りにこの場から撤退を開始する。


 ヴァンはあくまでも施設の防衛が仕事であるため、彼らに追撃を仕掛けるつもりはない。


 そもそもヴァンは雑魚狩りはあまり好きではない。


 なので、撤退する信徒たちを見逃すことにする。


 そのことを不審に思ったのだろう。


 異端審問官はヴァンに怪訝な声で質問する。


「どうして、追撃をしないのですか?」


「ん?ああ、それは依頼の内容が施設の防衛だからな。雑魚を見逃しても問題ねぇだろ」


「私の知る貴方は敵なら問答無用で皆殺しにしていました。その言葉を信じろと?」


 異端審問官はヴァンのことを疑うような視線を向けて問う。


 ヴァンは確かに、暗殺の依頼なら相手が何人だろうと皆殺しにしてきた。


 しかし、それ以外の依頼では案外敵を見逃したりしている。


 それは単純に雑魚狩りがあまり好まないのに加え、追いかけて殺す労力をかける必要性を感じないためだ。


 わざわざ逃げてくれるのだから、ほっておいたら良い。


 ヴァンはそう考えている。


 そのことをヴァンは異端審問官に伝える。


「いや、よく考えてみろ?俺はこの施設の防衛が仕事だ。それで、お前らは俺にビビって退散してくれる。そうなると、施設に被害が出ない。普通にありがてぇ話だと俺は思うが?」


「私は貴方の悪行をよく知っています。この街に来る前・・・・・・・のものも」


「それはどういうことだ?」


 ヴァンは異端審問官の言葉を聞いた途端、先ほどまでの余裕は消え去り、怒りの滲ませた声で聞き返す。


 その声に異端審問官は怖気つくことはなく、淡々と答える。


「貴方はこの町でも殲滅機兵と呼ばれていることは知っています。しかし、私は貴方の二つ名には続きがあることを知っています」


「ほう?なら答えてみろよ?」


「殲滅機兵『鏖のVANSENT』それが貴方の二つ名です」


 異端審問官がそう答えた時、バイザーの中のヴァンの顔が笑顔から無表情に変わる。


 そして、ヴァンからは相手を殺せるかと錯覚するほど濃密な殺気が放たれ始める。


 流石の異端審問官と言えど、ヴァンの濃密な殺気に気圧されてしまい、一歩後退りをしてしまう。


 そんな異端審問官にヴァンはたった一言を告げる。


「それをどこで知った?」


 その二つ名を何処で知ったのかと。


 異端審問官は答える。


「私は応援要請できた真聖教会の援軍の一人でした。なので、私は貴方が犯した虐殺をこの目で直接見たのです。そして、貴方の二つ名はそこで聞きました」


 とある戦場に援軍として来た時に聞いたと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る