第19話 研究者マニシャ
ヴァンは政府の役人からもらったデータを元に楓のホムンクルスたちがいる施設にやって来た。
施設の中へ入り、受付に名前を聞かれたので、普通に答えると、研究施設の中へ入ることができた。
どうやら、相手側の罠などではないらしい。
だが、ここで警戒を解くのは早計だろう。
ヴァンは警戒しながらも受付に教えられた研究室へ向かう。
研究施設内は多くの研究者が行き交っているのだが、ヴァンが近くにいる際は怯えたような表情で端に寄って震えている。
どうやら、ここの研究施設にいる者たちはヴァンのことを知っているらしい。
まあ、このカーサスに住んでいる者でヴァンのことを知らない人はいないのだが。
ヴァンはわざわざ自分のために道を開けてくれるので、そのことに感謝しながら研究施設の中を歩いていく。
そして、受付から聞いた研究室に辿り着く。
ヴァンはノックなどをせずに普通に扉を開けて中へ入る。
中に入ってみると、そこには楓と瓜二つの見た目の少女たちが九人もいた。
そのことに驚きつつも彼女たちを遠目で観察してみる。
確かに、見た目は楓にそっくりなのだが、オリジナルの彼女から発せられる違和感などは一切ない。
ヴァンは他にも色々と調べたいことがあるので、近づこうとした時、
「やあ、君がヴァン君だね?」
誰からか声をかけられる。
声をかけられたヴァンは声が聞こえた方へ視線を向けてみると、そこには白衣を着た女性が立っていた。
身長は170センチメートルほどと楓と比べてだいぶ大きい。
いや、楓が小さ過ぎるだけか。
その女性の髪は長いのだが、手入れなどはされておらず、ボサボサである。
きっと、研究に夢中になり過ぎるあまり、髪の手入れなどをしていないのだろう。
髪がツヤツヤの楓とは大違いだ。
そして、目が悪いのか眼鏡をかけており、かけている眼鏡もずれている。
だらしがない姿の女性に怪訝な目で睨んでいると、
「まあまあ、そんなに警戒しないでくれ。私は彼女たちの保護と観察をしているマニシャだ。よろしくね?」
研究者の女性マニシャはヴァンに自己紹介をする。
自己紹介の際、相手からは敵意のようなものは感じなかったので、とりあえず敵対しない方向性で動く。
ヴァンはとりあえず睨みつけるのをやめると、マニシャに話しかける。
「それで、俺に何のようだ?俺はとっととこいつらのことを調べてぇんだが?」
「それは構わないけど、この子たちの担当は私だからね。その内容を教えてもらわないと」
「めんどくせぇな」
ヴァンはとっととホムンクルスたちを調べて家に帰りたいため、早く調べさせろと言ったが、流石に許されなかった。
まあ、普通に考えてヴァンのような危険人物が調べ物と題して何をやらかすか分からないため、内容を伝えないと許可は出ないだろう。
ヴァンはそのことを心底面倒臭いと思った。
しかし、説明しなければ、マニシャはホムンクルスたちとの接触を許さないだろう。
ここでわざわざ敵対する必要もないので、ヴァンは諦めて説明することにした。
「俺もこいつらと同じホムンクルスを捕縛したんだ。それで、他の奴と俺が捕まえた奴に違いがあるのか調べようと思ったんだよ。これで良いか?」
「いや、もう少し詳しく聞かせてくれ。君は危険人物なんだ。私は君が何かしでかしても止める力はない。だから、君にはもう少し詳しく話す義務がある」
「詳しくも何も名前とか記憶の齟齬、口調や記憶について少し調べるだけだ。特におかしなことはしない」
ヴァンは心底面倒臭そうに話す。
確かに、自分は怪しまれてもおかしくない人物だが、それはあちらの都合だ。
ヴァンには関係ない。
あまり詳しい話をすると、楓の正体がバレそうなので、あまりマニシャとは話したくないのが本音だ。
しかし、変に敵対したら、ホムンクルスについて調べられなくなる可能性が高い。
なので、大人しくマニシャの言うことを聞く。
だが、面倒臭いことは本当なので、その苛立ちやダルさを前面に出す。
こいつのためだけにわざわざ自分の感情を隠すのは面倒だからだ。
そうして、ヴァンが最悪な態度でマニシャに説明すると、
「とりあえず、君の言葉を信じることにしよう。これ以上問い詰めても私の印象が悪くなるからね。それで、君に逆恨みで襲われたら私なんて一瞬で殺されてしまうからね」
マニシャはヴァンにホムンクルスたちとの接触の許可を出した。
その際、ヴァンの態度にやり返さんとばかりの嫌味を言ったのだが、ヴァンには特に効いている様子はなかった。
実際、ヴァンはこれ以上しつこいようなら後々こいつを暗殺してやろうかと考えていた。
どうせ、研究者だし、色々と非倫理的な実験もして恨みもいっぱい買っているだろう。
ヴァンはそう思うって賞金首ドットコムで彼女のことを探そうとしていた。
なので、そのことがバレてしまったのかと一瞬心の中で焦ったが、表には出ていない。
そして、ヴァンはこの女は侮れないと彼女の評価を上げた。
まあ、たまたま皮肉が当たっただけなのだがな。
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