第18話 予想外の事態

 朝食を終えたヴァンはソファーに座り、酒を飲みながらテレビのニュースを見る。


 ニュースには昨日、グリモワールの連中と戦ったことが特集されていた。


 ヴァンに近づくと、戦いに巻き込まれてしまうため、戦闘シーンを写した映像はほとんどなかった。


 一部戦闘シーンを捉えた写真や動画が特集で流れているのだが、これではヴァンたちがどんな戦闘を繰り広げたのかよく分からない。


 まあ、他人にタネがバレるよりはマシだろうが、ヴァンはサーカスの街で暴れ散らかしているため、タネはモロバレである。


 それでも負けていないのは単純にヴァン本体の強さの格が違うからだろう。


 そうして、ヴァンが自分の特集を見ていると、家事を終えた楓が隣に座ってくる。


 楓が家事をしているのはヴァンへの報酬を少しでも返そうという思いからである。


 それに、楓の家事スキルはヴァンと比べて効率も質も圧倒的に高いため、楓に任せた方が全て上手くいく。


 なので、ヴァンは大人しくテレビを見ていたのだ。


 ヴァンの隣に座った楓はもちろん、彼とべったりくっつくように座る。


 ヴァンたちが座っているソファーはとても大きいため、本当ならば、もっと余裕を持って座ることができる。


 しかし、楓はヴァンの真隣にくっつくように座ってきた。


 この場合、楓にいくら文句を言おうが改善されることはないので、諦めるのが吉である。


 ヴァンは楓がくっつくように座ってきたことを気にせずにテレビを見ていると、通信機器に連絡が入る。


 せっかく自分の特集を見ているのに邪魔するなよと思いながら誰からの連絡か確認してみる。


 その相手は政府の役人だった。


 ヴァンは面倒臭いなと思いながらも電話に出る。


「今度はなんだ?何か進展でもあったのか?」


『それがね、あったのだよ。だから、ちょっと時間を貰えるかい?』


 政府の役人は楓の捜索について進展があったとヴァンに言った。


 その瞬間、ヴァンは背筋が凍るような感覚に襲われる。


 まさか、自分が匿っている楓が本物であるとバレてしまったのか?


 そう思いながらもヴァンは相手が気がついていない前提で動く。


 ヴァンはその場から立ち上がると、事務所の方へ歩いていく。


 ヴァンは歩きながら政府の役人との話を続ける。


「ああ、良いぜ?一体どんな情報を掴んだんだ?」


『我々の方でもそのホムンクルスについて調べていたのだが、昨日だけでホムンクルスを5体も見つけた。そして、科学的に生み出されたクローンも4体も見つけたのだよ』


「おいおい、マジかよ、、、」


 ヴァンはあまりにも予想外の情報に驚きの声が漏れてしまう。


 ヴァンは楓のことを庇うためにホムンクルスだったと嘘をついた。


 だが、それは嘘ではなかったらしく、楓のホムンクルスは実在するようだ。


 それもホムンクルスだけではなく、科学技術で生み出されたクローンも存在しているらしい。


 あまりにも予想外過ぎる状況にヴァンは混乱してしまったが、すぐに思考を切り替える。


 そして、ヴァンは質問する。


「それで、そのホムンクルスやクローンはどうしてるんだ?」


『それなら、我々の研究施設で保護しているよ。彼女たちは重要な手掛かりだからね』


「分かった。それで、俺もその施設に行って良いか?俺の方でも色々と調べてぇことがあるんだ」


 政府が回収したホムンクルスとクローンたちが研究施設にいることが分かったヴァンは自分もその施設に行って良いかと質問する。


 流石に、ホムンクルスとクローンが実際にいるとなると、ヴァンも色々と調べなければならないことがある。


 そのため、ヴァンは政府の役人に施設への訪問の許可を仰ぐ。


『ああ、構わないよ。いつ頃こっちに来るかい?』


 ヴァンが許可を仰いだところ、政府側もヴァンの訪問をすぐに許可を出した。


 どうやら、このホムンクルスたちが収容されている施設は公的かつ表立ってみせても問題ない研究しかしていないようだ。


 政府の役人から施設にはいつ頃訪れるのか質問されたヴァンは、


「それなら、今からそっちに向かわせてもらうぜ?善は急げって言うしな」


 今すぐそちらに向かうと伝える。


 政府の役人も予想通りの答えだったのだろう。


 すぐに了承すると、施設の場所をヴァンに送ってくる。


 ヴァンはそれを確認すると、話すこともないので、電話を切る。


 電話を切ったヴァンが出かけるための準備をしていると、心配した様子の楓がリビングから顔を出す。


「それで、私のことはバレていないか?」


 顔を出した楓は心配そうな表情で自分のことがバレていないかと質問する。


 それにヴァンは答える。


「ああ、楓のことはバレてねぇみたいだが、面倒なことが起きちまった」


「面倒なこと?それは一体なんだ?」


「楓のホムンクルスとクローンが現れた」


「は????」


 楓も予想外の事態に頭が追いついていないようだ。


 それもそのはずだ。


 存在しないはずの自分の偽物たちが現れたのだ。


 こんなの驚かずにはいられないだろう。


 楓が状況が飲み込めずに固まっているうちにヴァンは出かける準備を終える。


 そして、固まっている楓に話しかける。


「俺は今からそのホムンクルスたちについて調べてくるから、楓は家で大人しく待っていてくれ」


 ヴァンは楓に自分が出かける旨を伝えると、そのまま事務所をあとにしたのだった。


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