第16話 楓には押し負ける殲滅機兵さん

 そうして、寝室にやって来た楓の前には明らかに一人で使うにはデカすぎるベッドが置いてある。


 いわゆるキングサイズと呼ばれるベッドよりも二回りほど大きい。 


 縦横それぞれ2.8メートルはあるだろう。


 楓は近くに立つヴァンに話しかける。


「なんでキングサイズのベッドなんだ?実は女の子を連れ込んだりしてたのか?」


「いや、そんなことはしてねえよ」


 一人で使う分には大きいベッドを使っているヴァンに楓は疑いの目を向ける。


 これに関しては疑われてしまうのも仕方ない。


 ヴァンは体が大きいため、普通よりも大きいベッドを買うのは分かる。


 そして、そのベッドが余裕を持つためにも少し大きめのベッドにしたとなら分からないこともないだろう。


 しかし、このベッドは縦幅だけでなく、横幅もとても大きく、ヴァンが寝転んだとしても後二、三人は余裕を持って一緒に寝ることが出来る。


 そのため、ヴァンは疑われてしまっても仕方ない状況なのだ。


 ヴァンもそのことを重々承知しており、居心地が悪そうにしている。


 そんなヴァンに楓は問い詰める。


「じゃあ、なんでこんなでかいベッドを使っているんだ?」


「いや、単純にバカデカいベッドが欲しくなって衝動買いしちまっただけだ。他意ねえ」


「ふーん、そうなのか。まあ、いい。二人で寝るには困らなそうだしな」


 楓はヴァンの言い訳に納得していないようだったが、これ以上の追及はしないようだ。


 ヴァンはこれ以上追及がないことに安堵する。


 ちなみに、ヴァンは本当にただデカいベッドが欲しいと衝動買いしただけであり、特に不純な理由はない。


 そもそもヴァンは10兆ミラン以上の懸賞金をかけられているほどの危険人物だ。


 そんな人物と会いたいという女性は少ない。


 そして、会いたい女性に限ってヴァンと同じ戦闘狂であるため、ベッドの上ではなく、街中で戦い始める。


 そのため、女性を家に連れ込むことは中々難しい。


 戦闘狂以外の女性でヴァンにとても懐いているのは楓くらいだ。


 そうして、楓からの追及は免れたもののまだ一緒に寝ることについては解決していない。


 ヴァンがどうしようかと考えていると、


「いつまで立っているつもりなんだ?早くヴァンもこっちに来たらどうだ?」


 既にベッドの上に移動していた楓に呼ばれてしまう。


 ヴァンは最後にもう一度質問する。


「やっぱり一緒に寝ないとダメか?」


「ダメに決まっているだろう。寝ている間に敵に襲われたらどうするんだ」


「はあ、分かった。一緒に寝ようじゃねぇか」


 ついにヴァンは諦めることにし、楓に言われるがままベッドに寝転ぶ。


 ヴァンが寝転がってもベッドはまだまだ余裕があった。


 しかし、楓はヴァンにベッタリとくっつくように寝転ぶ。


 そして、楓はヴァンに抱きつく。


「なあ、抱きつかれたら動きにくいんだが?」


「私は抱き枕がないと寝られないんだ。こんな美少女に抱きつかれているんだ。我慢するどころか逆に嬉しいだろう?」


「はあ、そういうことにしてやるよ、、、」


 ヴァンは抱きついてくる楓に離れるように言ったが、直ぐに断られてしまう。


 こうなったら楓は聞く耳を持たないので、ヴァンは諦めて寝ることにした。


 ヴァンの体は機械だから抱きつかれたところで体がこったり、苦しかったりすることはない。


 なので、そこまで気にならない。


 ヴァンは楓に抱きつかれてからしばらくした時、寝息が聞こえてくる。


 視線を下げてみると、既に楓は夢の国へ旅立っていた。


 この隙に楓を引き離そうとも考えたが、思ったよりも強い力で抱きつかれているため、引き剥がすことは無理そうであった。


 楓を引き剥がすことを諦めたヴァンはそのまま彼女に視線を向ける。


 寝顔もとても可愛い。


 ヴァンは純粋にそう思った。


 楓は小動物のような可愛さがある。


 まるで、みたいだ。


 そう思った時、ヴァンは昔のことを思い出し、顔を歪ませる。


 夜はダメだ。


 思い出したくないことをついつい思い出してしまう。


 ヴァンは思い出したくない過去を必死に頭の中から消し去ると、そのまま目を瞑る。


 夜はまだまだ長い。


 このまま起きていたら更に思い出したくない過去がフラッシュバックしてしまうかもしれない。


 それは流石に気分が悪い。


 だから、ヴァンは眠ることにする。


 眠っている間は余計なことを考えないで済む。


 睡眠は最高だ。


 わざわざサイボーグの身となったのに睡眠と言う欲求を排除しなかったほどに。


 そうして、ヴァンの意識が少しずつ遠のいていく。


 1分も経たないうちにヴァンは深い眠りについたのだった。



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