第15話 楓との常識の違いに苦しむヴァン

 そうして、食事を終えた二人は就寝のための準備を始める。


 ヴァンは全身のほとんどが機械であるため、あまり風呂に入らなくても良いのだが、楓はそうではない。


 そのため、ヴァンは楓に浴室の場所を教えると、そのまま楓はシャワーを浴び始めた。


 普通ならば、美少女がシャワーを浴び始めると、中へ侵入するのが男としての責務であり、抗えない理である。


 しかし、ヴァンは体のほとんどをサイボーグ化した影響でそういうことには興味がなくなってしまった。


 なので、楓が無防備の状態でシャワーを浴びているというのに襲う気配などは一切なかった。


 そもそもヴァンは無理矢理襲うなどの行為が死ぬほど嫌いであるため、興味があったとしてもそんなことはしていなかったのだが。


 ヴァンがリビングのソファーに腰をかけて、ネットで色々と情報を検索していると、シャワーを浴び終わった楓が出てくる。


 浴室から出てきた楓は何だか不満そうな顔をしていた。


 ヴァンは彼女が何を不満に思っているのかと不思議に思っていると、楓が話しかけてくる。


「なあ、ヴァン?私は今シャワーを浴びていたな?」


「ああ、そうだな」


「私は女の子だな?」


「ああ、そうだな」


「自分で言うのも何だが、私は結構美人だと思うんだ」


「確かに、楓は絶世の美女だな」


「じゃあ、どうして私がシャワーを浴びているのに中に入ってこなかったんだ?」


「??????」


 ヴァンは楓が一体何を言っているのか理解できなかった。


 そうして、ヴァンが理解できずに固まっていると、楓は更に言葉を続ける。


「美少女がお風呂に入っていたら覗くなり、浴室に侵入してくるのが男として普通じゃないのか?」


「いや、普通じゃねぇよ!!」


 あまりにも理解し難い常識を口走る楓にヴァンはつい、ツッコミを入れてしまう。


 ヴァンが楓にツッコミを入れると、彼女は少し驚いたような表情を浮かべた。


 いや、どこに驚く要素なんてあったか?


 ヴァンはそう思った。


 そうして、ヴァンが楓と自分の間にある常識が乖離していることに困惑していると、


「そんなはずはない!!ママが『男の人は美少女の裸が前にあったら見ずにはいられないのよ?』と言っていた!!」


 どうやら、楓も自分の常識とヴァンの常識がかけ離れていることに困惑しているようだ。


「いや、それはお前の母親がおかしいだけだろ」


「だけど、パパはよくママのお風呂を覗いてたし、親戚のおじさんたちも昔からやってたって言ってたぞ!?」


「それはお前の家族がおかしいだけじゃないのか?」


 ヴァンはジト目で楓のことを見ながらツッコミを入れ続ける。


「そんなことはないぞ!!高校の修学旅行の時は私たちの裸を見るためだけに男子は命を賭けて先生たちと戦ってたんだぞ!?」


「確かに、お前らの国の男どもはそうかもしれないが、俺はそんなことはねえよ」


「もしかして、私はそんなに魅力がないのか?」


 楓はとても悲しそうな顔で質問する。


 そんな顔をされたら、まるで自分が悪いように感じてくる。


 ヴァンは一切悪くないのに楓の悲しい顔を見ていたら罪悪感を感じた。


 流石に、このままでは気分が悪いため、楓のことを励まそうとする。


「それこそ、そんなわけねえよ。楓はすげぇ美人だし、料理も上手くて、相手を見た目では判断しねえ。すげぇ魅力的な女性だと俺は思うぜ?」


「そ、そうか、、、私はそんなに魅力的なのか、、、えへへ」


 ヴァンに褒められたことが嬉しかったのだろう。


 楓は少し頬を赤らめながら嬉しそうに微笑んだ。


 その姿を見たヴァンは純粋に可愛いなと感じ、胸が熱くなるのを感じた。


 『こいつ可愛すぎだろ!!』と、ヴァンは心の中で叫んだのだった。


 そうして、楓が喜んでいる姿にヴァンが心を奪われていると、楓が嬉しそうに話す。


「それじゃあ、もう遅いし、もうそろそろベッドに行こうか」


「いや、なんで一緒に寝る前提で話してんだよ」


 楓がそのままヴァンと一緒に寝るように誘導したのだが、そう上手くはいかなかった。


 ヴァンは直ぐに一緒に寝ようとする楓にツッコミを入れる。


 一方、楓はとても不思議そうな表情をしている。


 そして、楓はさも当然かのように答える。


「ヴァンは私の護衛なのだから、近くにいた方が守りやすいだろう?」


「確かにそれはそうだが」


「それなら一緒に寝れば良いじゃないか。私は気にしないぞ?」


「俺は気にするんだが?」


 ヴァンは当たり前のように一緒に寝ようとしてくる楓に押され気味で無理だと答える。


 しかし、楓は中々引き下がらない。


 そうして、ヴァンは気づいた頃には楓と一緒に寝室に来ていたのだった。


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