第14話 殲滅機兵

 そうして、スーパーでの買い物を終えた二人は事務所兼、ヴァンの家でもある部屋へ戻ってきた。


 楓は家に帰ってくるなり、今日買った食材を使って料理を始めた。


 ヴァンは楓が料理をしている間、特にすることもなかったので、賞金首の達成報告の手続きを再開することにした。


 今回は珍しく高い懸賞金を掛けられた賞金首が多かったらしく、今日だけでたんまり稼ぐことが出来た。


 ついでに自分の懸賞金を確認してみると、少し懸賞金が上がっていた。


 その総額は10兆5000億ミラン。


 その金額は中規模国家の国家予算を上回るほどの高額だ。


 依頼の総数は100万回以上。


 明らかに、他の懸賞首たちとは格が違う。


 それもそのはずだ。


 ヴァンはこのサーカスでも最強クラスの実力者であり、フリーの傭兵の中ではトップクラスの実力の持ち主だ。


 その二つ名は『殲滅機兵』


 そして、懸賞金が高いのはフリーで活動しているためだ。


 彼はどんな相手だろうが面白そうならば、依頼を受けているため、五大派閥だけでなく、様々な組織の依頼を受けている。


 そのせいで、ヴァンは様々な組織に喧嘩を売りまくっており、その影響で懸賞金が大変なものになっている。


 まあ、規格外の懸賞金を掛けられているがために多くの傭兵や懸賞金ハンターたちからは恐れられており、彼の首を狙う者などいなくなったのだが。


 懸賞金に目が眩んでヴァンを襲うとしても彼の賞金首ドットコムの詳細欄には長編小説数冊分の情報が書かれており、その情報は目を疑うものばかりだ。


 あまりにも規格外の功績に懸賞金に目が眩んでしまった者も肝が冷えてしまい、彼を襲うなど考えられなくなる。


 そのため、彼は多額の懸賞金をかけられているのにあまり襲撃されることはない。


 一方、ヴァンは高い懸賞金をかけられている者たちを積極的に狙っていたりする。


 彼に狙われる者たちはたまったものじゃない。


 そうして、賞金首の達成報告を終え、疲れから大きなため息をついてだらけていると、


「ヴァン?夕食が出来たぞ」


 エプロンを身につけた楓がキッチンから出てきた。


 どうやら、夕食の準備が出来たらしい。


 キッチンの方からは食欲を刺激するような良い匂いが漂ってきている。


 これは夕食が楽しみだ。


 ヴァンはそう思った。


 そうして、楓に呼ばれたヴァンはそのままダイニングの方へ向かうと、既に机の上には料理が置かれていた。


「今日の夕食はカルボナーラとカプレーゼ、そしてオニオンスープだ」


 机の上には二人分のカルボナーラとオニオンスープが置かれており、中央にはカプレーゼがある。


 そして、カプレーゼの近くには二人分のお皿とトングがセットされている。


 予想を遥かに超えるクオリティーの料理だったことにヴァンは驚きを隠せない。


 ヴァンが目の前の料理に見惚れていると、


「さあ、冷めないうちに食べてみてくれ。うちの家では人気の料理だからな。味には期待していてくれよ?」


 楓から冷めないうちに食べてくれと声をかけられる。


 楓からの言葉に正気に戻ったヴァンは言われるがまま席に着く。


 そして、ヴァンは喉を鳴らすと、フォークを手に取る。


 まずはカルボナーラを食べてみよう。


 そう思ったヴァンはカルボナーラをフォークで巻き、口の中へ運ぶ。


 その瞬間、口の中に卵とチーズの旨みが溢れる。


 めちゃくちゃ美味い。


 ヴァンがそう思った頃には既にカルボナーラにがっついていた。


 楓の作ったカルボナーラが美味すぎて口に運ぶ手が止まらない。


 ヴァンはつい最近、高級店でパスタを食べたばかりなのだが、その高級店のパスタよりも楓のパスタの方が断然美味かった。


 あまりの美味しさにヴァンが無言で食べていると、


「カルボナーラだけじゃなくてこっちも食べてみてくれ」


 カプレーゼをよそったお皿を楓が手渡してくる。


 ヴァンはそのお皿を手に取ると、言われるままカプレーゼを食べてみる。


 こちらも絶品だった。


 カプレーゼにはドレッシングがかかっているのだが、これがまたトマトとチーズにあってとても美味しい。


 ヴァンはあまりの美味しさにカプレーゼの方もがっついてしまう。


 その様子を見ていた楓は、


「あまり急いで食べると、喉を詰まらせてしまうぞ?」


 微笑みながら、ゆっくり食べるようにと優しい声で語りかける。


 その姿はまるで、兄を慕うような出来た妹のようだった。


 その姿を見た時、ヴァンは脳内にとある少女の姿がチラつく。


 ヴァンは直ぐにその少女の姿を頭の中から消し、今は食事をすることに集中する。


 そうして、ヴァンは食事を楽しんでいた。


 しかし、楓は気づいていた。


 一瞬、ヴァンの顔に陰りが生まれていたことを。


 だが、楓はあえてそれを無視する。


 誰しも他人には知られたくない過去はあるものだ。


 それはヴァンも同じだろう。


 だから、何も聞かない。


 そうして、二人は雑談を楽しみながら食事を終えたのだった。




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